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龍の捲風に思いを馳せる~The Twilight of the Warriors 九龍城寨之圓城

自身5度目となる鑑賞会に行ってきた。
それもこれも、先週急遽発表された“来場者ポストカードプレゼント!”企画のせいである。
なにせ、メインキャラクターとなる若手4人のポストカード4枚組セットだ。これは行かずにおられまい。
そんなわけで、5度目の視点で(のわりに浅いのはご愛敬)感想を残しておこう。

さすがに冒頭のシーンはあらかた把握した。
初回は英語の字幕を読むのに必死であらすじがところどころ抜けたため、中盤への伏線?であるとは認識していなかった。ここをはじめに理解するか否かで全体の理解度が大きく変わってくるため、これから鑑賞される方がいればこの冒頭シーンをよく見ておくよう伝えたい。

何度も見ていくうちに、脳内での場面構成の順番があやふやだったことに気づく。後半のバトルシーンは、体感ではもう少し前にあった気がしていた(ラストなのだからそんな訳ないのだが)。前にあるというよりはもう少し長かった、と記憶していたのか。もちろん先がわからない分のドキドキ感で長く感じていたのが、全体を把握してみることでよりすんなりと脳内に収まり、余計な時間が省かれた結果だろう。

回数を追うごとに若手4人のキャラに注目することは前回の記事で触れたが、今回はさらに龍捲風(ロンギュンフォン=サイクロン)の細かなしぐさや目線、セリフに意識が集中した。洛軍を見守る温かい目、九龍城で暮らす人々とのやり取りに垣間見える絆とやさしさ、情と絆、秘蔵っ子信一には多くを語らず、しかし最大限の愛情と思いやりで接する親であり兄である彼の言動。今はなき親友と交わした約束と、義兄弟を思いやる心のはざまで苦悩する姿。また自らの人生の終焉が近いことを日々感じながら暮らす懊悩と決意。
彼の中では数多の感情、思考が入り乱れ、それでもなお自分を律し、人のために尽くす、まさに人生の見本としたいキャラクターなのである。こんな複雑で難しい役を最高の形で演じきったルイス・クーには毎度脳内でスタンディングオベーションを贈らずにはいられない。映画では彼が亡き後まで彼の大きな感情を感じられる場所として最後まで余すところなく役割を果たした九龍城塞。今までも興味関心は多分に持っていたが、映画鑑賞後はそこに龍捲風の面影を重ね、今まで以上に九龍城への思慕が募る。かつてそこで暮らした人々はきっと「あそこはそんないい場所じゃないよ」と言うだろう。しかしまた同時に、誰よりも誇らしい気持ちでかの住みかと自らの人生を振り返る事だろうと思う。我々のようなリアル九龍城塞を知らない人たちだけでなく、本物の九龍城塞住民として時代を生き抜いてきた人々をもノスタルジーとカタルシスに誘うこの映画は、興行収入や名声といった即物的なものだけでなく、もっと大切な“香港の魂”を香港人、そして香港以外のすべての人に与えてくれた。まったくもってあっぱれだし、これこそ後世に遺すべき映画だと心から思う。

この映画の基礎であり心臓である九龍城のセット。
これだけでも十分に重要文化材として扱うレベルだと思うが、このセットにはかの有名な写真集、「City Of Darkness」の影響が多分にあると思える。エンドロールを詳細に見ていないが、きっとどこかにこの本についての記載があるのではないだろうか。写真集で見た風景に酷使したシーンが多いし、写真集に残る人物によく似たキャラクターも出演していたりするのだ。それを思うと、改めてかの写真集は多くの人が目を止めなかった文化や日の目を浴びなかった歴史を記録した本当に貴重な文献だと思うし、数年をかけて住民にインタビューを行い、リアルな姿を撮影し続けた二人の写真家の着眼点の鋭さと、努力には最大の賛辞を贈りたい。
映画を見終わったのちに写真集を見返すと、映画のシーンが脳内に容易によみがえってくるし、インタビューがさらに映画のストーリーに深みをもたせてくれる。そしてさらに、本編では語られなかった住民のサイドストーリーを妄想し、2度も3度も楽しめる素敵な写真集だ。映画、本を見る人にとって描かれる内容が変わる、あなただけの九龍城塞のストーリーを味わってみてはいかがだろうか。

九龍城の写真集についてはこの記事で触れています。
九龍城探訪(英名:City Of Darkness)


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