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飯田線秘境駅めぐり⑥ 塩沢集落〜小和田駅(復路)
さて、小和田駅に戻ります。
最初の記事と前回の記事はこちらです。
吸血のち尻もち
さて、下りです。塩沢集落から小和田駅に戻ります。
しかし、いきなり大きな問題にぶち当たります。
「往路」を読んでくださった方は、以下の点にお気づきになったでしょうか。
昨日の雨の影響で
道が全体的に苔むしていたり
最終盤の急坂は本当にきつかった
つまり、いきなり濡れた苔に覆われた急坂を下らないといけなかったのです。
少しでも気を抜いたら滑って転ぶと思って、慎重に慎重に、足場を選んでそろそろと進んでいったのですが、忘れていました。下り坂に対して人間は無力だということを。
足が滑ってあっ、と思った次の瞬間には派手に尻もちをついてしまっていました。身の回りを確認すると、左手の親指の付け根の皮がえぐれて血が……
血はすぐには止まりそうもないので、先ほど吸血痕を拭ったウェットティッシュにまた登場してもらいました。
傷口を縛って、解けないように握りしめながら下り続けます。
軽傷で済んで良かったものの、血を流したことですっかり弱気になってしまいました。
そして、こういうときには悪い想像が捗るものです。
万一骨折でもして動けなくなったらどうなるのだろう。場所が場所なので誰も助けに来てくれず、何時間も救助を待つことになりそうだ。そのまま夜になってしまったら、暗闇の中で一夜を過ごさなくてはいけない。そのあいだに野犬やクマに見つかってしまえば最悪死ぬ可能性すらある……
想像するだに恐ろしくて、道を下りながらもガタガタガタガタ震えが止まりませんでした。
快晴の昼時で気温は高く、急坂を上り下りしていて、しかもこの気温にしては厚着のはずなのに、汗は引いてしまって震えが止まらないのです。
こんな経験は初めてです。恥ずかしい。いい大人なのに。
特に、途中で道が崩れた場所。行きに全く同じルートを通っているはずなのに、絶望を感じました。
軽傷なんですけどね。
その後、2回尻もちをつきながらも奇跡的に傷を増やすことなく、急坂のエリアを抜けることができました。
ところで気付いておられるでしょうか、これまでの記事と比べて写真が極端に少ないことに。
とにかく怪我することがないように足元に精神を集中させすぎて、写真を撮る余裕などありませんでした。
人間、生命の危機を感じるとゾーン状態に突入するんでしょうか。このエリアは記憶もほとんどありません。
生還
ヒルに襲われたところの吊橋まで戻ってくると、やっと安心して撮影の余裕が出てきました。
このとき、揺れる吊り橋を動画に撮っています。
橋を渡りきったあとはヒルに襲われないように速やかに迂回路を走り抜け、廃屋たちの横を通って、ようやく天竜川のほとりへと帰ってきました。
小和田駅への帰還はなんとか成功のようです。助かった……
そこまで来るとなんとか震えもとまり、安心して川に向かって大声で笑ってしまいました。安心すると、人ってわざとらしい笑い方で笑っちゃうんですね。
誰もいないのをいいことに川に向かって恥ずかしいセリフも言いました。
今思えば、確実に自分に酔ってるムーブです。重ねて恥ずかしい。
気がつくと親指の付け根から出血し、右足首にはヒルの噛み痕、ジーンズの裾と靴に血痕が残り、右手に持っていたコンビニ袋を握りしめすぎて右手首が痛くなっていましたが、どうやら帰れそうなので、駅までの道を意気揚々と歩きます。
次の電車まで30分ほどを残して、小和田駅に到着しました。
たどり着いた駅舎の前を再度よく見てみると、なんと杖が置いてありました。
山道の険しさを知ったあとで見つけるとなんと説得力のあることか……
コンビニ袋なんて握りしめてないで杖持っていけばよかった。鈴を忘れたので熊よけのつもりだったんですけどね。
廃墟探索
最後に、残った時間で周辺の住居跡と製茶工場跡を撮影しました。
きっと、ここも佐久間ダムができたときに放置されたのでしょう。
戦後それほど時間が経っていない時代のものと思われるレジスターがありました。
民家跡にはブルーシートがかかっていましたが、もう崩れかけで危ないのでしょうね。
三県境界駅の標が前日になくなっていた話
撮影を終えても15分ほど残ったので、駅前の「三県境界駅」の標の横で川を眺めながら駅ノートを記入しました。
書き忘れていましたが、ここは長野県・愛知県・静岡県の境にあるのです。実際の県境は天竜川の上なのですが、それでも駅から見えるくらいの位置にあります。
雲ひとつない天気の中、自分以外誰もいない場所でのんびり思い出を記録に残す。最高の贅沢ですね。
駅舎内には虫がめちゃくちゃいたので記入どころではなかったのもありますが。
「三県境界駅」の標といえば、駅のホームにあった「長野県」「愛知県」「静岡県」を矢印で示した標がなくなっていました。
在りし日の標はこちらです。
↑引用元です。
昨日、金野駅に行く途中には見かけたので、2021/04/29の13:19から翌日04/30の10:11の間になくなったものと思われます。なくなった標の情報を探している方のために、書き残しておきます。
さよなら小和田駅
駅ノートを記入し終わってホームに行くと、すぐに電車がやってきました。
文明のありがたさをこれほど思い知ったことはありません。ありがとうJR東海。
次はラスト、千代駅に向かいます。
(つづき)