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【マネジメント連載企画vol.13】マネジメントできないマネージャーたち~介護経営の陥穽(おとしあな)~」

第3章 介護現場マネジメントの方法①




介護事業所は「1本の樹木」である


「介護事業樹」の構造

 
 さて、ここから先は「どうすればマネジメントできるのか」がテーマだ。介護専門職中学を卒業し、中四病の落とし穴に落ちることなく、無事、介護マネジメント高校に入学したあなたには、はじめにこの図を見てもらいたい。僭越ながら、この樹木のことは「介護事業樹」と呼ばせていただく。


介護事業樹


 「介護事業樹」は、各地域に根差す介護事業所をあらわしている。この樹木は、不可視だが不可欠な、ケアという酸素を地域に供給する一方で、地域からは二酸化炭素や陽光や水を与えられ、周囲の生態系と共存している。この樹が地域から得ている諸々のものは、介護報酬や人材、あるいは信頼ということになると思うが、ここで重要なのは樹木の中の連動性である。
 まず、管理者は「根」である。その管理者が組織を率いる姿勢と行動がリーダーシップであり、これが「幹」にあたる。次にそこから伸びる「枝」がマネジメントで、その先に繁っている「葉」が職員だ。「根」である管理者と「葉」である職員は、リーダーシップとマネジメントでつながっていて、この接続部分のはたらき次第で、職員のパフォーマンスは大きく左右される。
 さらに、葉が繁り、花が咲いて実を結び、実の中の種が地中で発芽して根を張ると、次の樹木が生まれることになる。これが人材育成のプロセスである。成長して成果をあげた職員の中から、やがて新たな後継者が育っていくのだ。


葉が果たす役割の大きさ

 
 つまり、ひとつの事業所の中には、根-幹-枝-葉-花-実(種)-根という「マネジメントの連動」があり、その後半は人材育成になっている、ということである。
 単なる喩え話だ。だが、比喩というものは概念を具体化してくれる。樹木内のメカニズムに介護現場のマネジメントを重ね合わせることで見えてくるものもある。特に注目したいのは葉の機能だ。
 葉は、光合成で得た糖や栄養を全身に送り出すと同時に、根が土壌から吸収したミネラルと水分を蒸散作用で吸い上げて全身に巡らせているのだが、この根が蓄えた養分というのは実は、葉の吸い上げがなければ全体にいきわたらないのである。根自体の力だけでは不十分なのだ。樹木全体の循環のメカニズムは葉の役割に負うところが大きい。樹木の主役は、葉なのである。
 そのまま事業所にあてはめてみよう。職員は、サービス活動で得た報酬や情報を組織内にフィードバックすると同時に、管理者が蓄えた見識や知見を吸い上げて自分たちの仕事に活かしているのだが、管理者が蓄えたこの見識や知見というのは、実は、職員が吸い上げなければ組織内にいきわたらないのである。管理者の力だけでは不十分なのだ。組織全体の循環のメカニズムは職員の役割に負うところが大きい。事業所の主役は、職員なのである。
……それほど違和感はないと思うのだが、いかがだろうか。


事業所の中心は介護現場


 違和感があるとするなら、「管理者が蓄えた見識や知見は職員が吸い上げなければ組織内にいきわたらない」「管理者の力だけでは不十分」のあたりだろうか。
 確かに、ピラミッドの頂点に管理者が居て組織全体をコントロールしているという視点で見れば、見識や知見は上意下達で管理者から職員に伝えられるもの、ということになるのかもしれない。
 だが、実際の介護事業所は、ピラミッド型の組織にはなっていない。それは、利用者のその時々の状態に合わせて臨機応変な対応を行うのに、上意下達を旨とする組織形態は不向きだからだ。
 介護事業所の組織の中心は常に介護現場にある。ケア上の重要な意思決定や緊急対応も含めて、ほとんどのことは現場で処理されていて、逐一上の指示を仰ぐようなことはほぼない。もちろん、現場の統括責任は管理者にあり、必要に応じて指示・命令もするのだが、その頻度はかなり少ない。あくまでも、日々のケアを主体的に行っているのは職員なのである。いや、むしろ職員主体でなければ現場がまわらないだろう。そもそもそういうサービスなのだ。
 このような視点で見ると、見識や知見は職員が吸い上げなければいきわたらない、管理者の力だけでは不十分、という表現はしっくりくる。本来、上司の見識や知見というものは、必要に応じて職員が主体的に吸収するものである。管理者が上意下達で伝えるものではないはずだ。



ピラミッドの呪いを解け


 本連載の今後の全体像を示すにあたって、ピラミッドではなく、樹木を選んだのは、上記のような理由からである。入所・入居系施設のフロアやユニット、在宅系のサービス提供責任者等をリーダーとするケアチームは、自己完結型の最小単位のマネジメント組織だ。それは、樹木の枝が、根とは繋がっているが他の枝との間では養分の行き来がなく、各々が独立性を保っているのと同じである。このような自律的な現場に、上意下達の組織形態が向いていないのは明らかだ。
 しかしながら、私たちは、自分たちが思っている以上に、組織というものはピラミッドなのだと刷り込まれている。それゆえに、組織と聞けば、管理者だけでなく職員までもが典型的な支配型のリーダーシップとマネジメントを思い浮かべ、それを実行しようとする。管理者は必要以上に上意下達の管理体制を敷き、職員は自分たちで考えることをやめて指示に従おうとする。だが、介護現場に向いているのはいわゆるフラット型の組織であって、ピラミッド型ではない。今この瞬間も、このようなすれ違いのマネジメントが介護現場で繰り返されている。まさにピラミッドの呪いである。
 人材育成を含む「マネジメントの連動」の原動力は職員である。彼ら彼女らが行っている最小単位の自律的なマネジメントを尊重しつつ、各機能の連動性が滞らないように全体を統制することが、管理者の最も重要な役割なのだ。以上が、介護マネジメント高校第1日目の学びである。





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