『人口は未来を語る』読んだよ
ポール・モーランド『人口は未来を語る 「10の数字」で知る経済、少子化、環境問題』読みました。
一部で話題となっていた人口論の一冊。著者のポール・モーランドはイギリスの人口学者。少子高齢化、移民、世界人口ピークアウトなど現代世界が抱える人口問題を概括されています。
結論から言えば、評判になってるだけあって非常に面白かったですね。広くオススメできる良書です。
江草は以前から人口問題に関心があって、過去に『人口大逆転』や『2050年世界人口大減少』などを読んだ感想も書かせていただいてました。
なので、「あ、これ進研ゼミでやったやつだ!」的に知っていたというか、覚悟は出来ていたというか、今回の『人口は未来を語る』が示してる、人口問題の難題さについても、あまりショックを受けることなく「そうそうそうなのよー、ヤバいよねえー」ぐらいのテンションで読むことはできましたが(しかし背筋はグッショリと冷や汗をかいている)、本当にこの人口問題の全貌を知らない人がみると、途方もない大問題にショックで寝込めるぐらいの内容になってるかと思います。
さすがに日本において少子高齢化が大問題になってることは多くの人は理解されてると思いますが、これが日本に限らず世界的にグローバルに進んでることのやばさについてはまだあまり実感を持って受け入れられてないのではないかと感じています。
この状況において、まさにこうした世界的な少子高齢化問題を概括されている本書は、ほんと時流を突いた素晴らしい書籍だなあと思います。
ところで、本書の原題は『TOMORROW'S PEOPLE』という格好いい感じのタイトルなんですが、邦題は先ほどから述べてるように『人口は未来を語る』です。
原題『EMPTY PLANET』が邦題では『2050年世界人口大減少』になってる時にも思いましたが、
なんで邦題すぐにダサくなってしまうん?
映画ジャンルでもこういう「ダサい邦題」傾向は指摘されてますが、とにかく説明的タイトルじゃないと日本だとなぜか売れないのですかね。。。
閑話休題。
ともかくも、そんな感じで、人口問題を理解するにはとても良い本だったと思います。
で、せっかく提示したので先の類書2冊(『人口大逆転』『2050年世界人口大減少』)との比較をしておきましょう。
(あくまで江草の主観ですが)本書『人口は未来を語る』の特徴はバランスが取れた内容であることですね。
『人口大逆転』が経済学的な視点、『2050年世界人口大減少』が世界各地の取材に基づいたルポのナラティブ的な視点が強めであったのに対して、本書『人口は未来を語る』はほんとまんべんなく色んな話題を展開している印象です。言うなれば、地理の教科書的な立ち位置でしょうか。
世界の人口問題の状況がどうなってるかを数値も示しつつバランス良く概括してくれる感じです。
なので『人口大逆転』や『2050年世界人口大減少』も良書でしたが、とりあえず全体像を把握するには本作の『人口は未来を語る』が最も適切な気がします。
何より、この中では最後発なのもあって『人口は未来を語る』自体が『人口大逆転』や『2050年世界人口大減少』の内容を紹介しながら考察されてるので、前二者の内容もふまえられてるという優位性もあります。
だから、今読むならとりあえず本書からとオススメできる、バランスが良い内容なんですね。
もっとも、バランスが良いというのは逆に言えば無難でもあります。
『人口大逆転』は(主流派から外れる)大胆なインフレ予測を主張したり、『2050年世界人口大減少』は「脳は最も重要な生殖器である」といういくぶん刺激が強いメッセージを強調したりと、良い感じでクセがあったのですが、本書『人口は未来を語る』はできるだけ現状把握に徹して尖った考えをあまり強調しないように努められてる印象でした。
もちろん本書でも著者の主張はそこかしこにちりばめられてるのですが、あまり押しつけがましくないように配慮した言い回しが多かったですね(それこそ「脳は最も重要な生殖器である」と本書も実際には潜在的に主張しているのですがだいぶマイルドな表現になってます)。丁寧かつ誠実な姿勢でとても良いのですが、その意味でも教科書的ではありました。
特に著者の経済観と教育観については、少々、従来(近代思想)型の発想に依った優等生的な見方かなという感じはします。すなわち、経済成長と高度教育の重要性をやや無批判的に受容しています。これも、よく言えば常識的ですが、悪く言えば無難、凡庸ともとることはできるでしょう。「近代後の世界はどうあるべきか」と問題提起してる著者にしては「近代」に拘泥してる点が残ってしまってるところはちょっともったいないなと思われました。
とはいえ、思想的なところで大胆でないというだけで、十二分に様々な点にファクトベースで広くよく考察されてる書籍であり、とても良かったと思います。
特に人口問題に対しては「経済力」「民族性」「エゴイズム」のトリレンマがあるとする分析は非常に便利で分かりやすい整理で感嘆させられましたし、左派、右派両方に対する批判で締めるフィナーレも(もともと江草も同感の考えだったのもあって)非常に素晴らしかったと思います。(ここでこれらを簡易的に説明してしまうと野暮なので、詳細はぜひ本書でご確認ください)
総合的によくまとまっていて世界の人口問題の現状を把握できる一冊として、とてもオススメです。