「国民配当」で実現するベーシックインカム
いわゆるジャストアイディアなんですが、ちょっと思いついたことがあって聞いていただけたらなと。
江草はベーシックインカム支持派なんですが、だいたい揉めるのがその財源なんですよね。極論、MMT的に国債バンバン発行っていう手もあると思うんですが、確かにちょっと乱暴すぎるかもなーという印象もあって、すっきりしない気はしてたんですよね。
そんな感じで普段から良い方法ないかなーと思っていて、ふと思いついたのが「国民配当」というアイディアです。ベーシック・キャピタルとも呼んでもいいかもしれない。
一言で言うと、要するに国民全員に平等に渡される株式会社の配当金です。今は、株主が所有株数に比例して企業から配当をもらってますでしょ。あの配当の感じで、各企業の利益から国民全員にも配当を与える枠を作ってもらうというアイディアです。株式を持ってない人も含めて全員が対象、かつ、株主配当と違ってもらえる額は全員一律です。
既存の株主配当の仕組み自体はそのまま残してもらって結構です。ただ、それと別途に国民配当という枠を作ってもらうよう企業に促すわけです。企業が国民配当枠に拠出してくれた分をきれいに国民全員に配布するシステムを整備しておきます。
形式が配当なだけで、全員が一律でもらえるという意味で、受け取る側の体感としてはほぼベーシックインカムですね。ただ、財源が配当であるために、企業自体が利益をあげ続けることも前提となっています。
つまり、国民配当を取りすぎて企業が潰れたり縮小したりすると国民配当も減ってしまうおそれがあるわけですね。ここに配当を取りすぎることはできないという意味でのバランス作用があります。これは既存の株主配当と同じで、配当を取りすぎて「タコが自分の足を食べる」ことになるのは避けようという力学が働く期待があります。
逆に、国民配当をケチる企業を抑制するために、各企業が国民配当枠をどれぐらい用意しているかは一般に公開していただくことにします。一応各企業でどれぐらいの国民配当を用意するかは自由にします。既存の株主配当金の設定も自由なのと同様です。ただ、儲けてるのに十分な国民配当枠を用意しない企業は、自ずと国民から反感を買うことになります。国民とはすなわち市場ですから、国民配当をケチるあの企業からは商品を買ってやらないという悪評がつくと、市場での競争でも不利になることが期待されます。
この仕組みの正当性のロジックとしては、すべての企業は市場の維持存在に恩があるということです。株主や従業員といった直接的なステークホルダーだけでなく、十分な可処分所得を有して商品やサービスを選好してくれる人々がいてこそ、企業は市場から利益を得ているわけですから、儲けた分の一部は市場に還元する義務があると言えます。
もっとも、そうした市場やインフラの維持のためという名目で徴収されてるのが税金のはずなのですが、税金の使い道(政府支出)というのは用途が不定であり、政府の方針次第で偏った分配をされてしまう可能性があります。というより、理屈上、ベーシックインカムのような平等で一律の分配以外は必然的に偏った分配でしかありません。一般的な政府支出はそれこそ企業や富裕層のロビー活動によって正当な分配が捻じ曲げられるおそれも有してます。
したがって、納税では企業は市場全般に対する均一で普遍的な義務を果たせない(果たせてない)と言えます。だから、納税ではなく、国民全員に一律に配当する国民配当という仕組みがいいんじゃないかなと思ったわけです。あくまで、企業は儲けた分を政府に返すのではなく国民に返す。このコンセプトが肝要です。この方が、利益が上がった分の恩返しというニュアンスもよく出やすいですしね。
しかも、政府としてもメリットがあります。国民に一律に国民配当を分配しようとすると、「国民」という国家に従属する概念を用いている以上、国のサポートは不可欠です。ちょうどいいことに、今はマイナンバー制度によって還付金を渡すシステムの構築が進められているところです。なので、この国民配当の給付はこのマイナンバーに紐づいた還付システムを用いることにします。これはマイナンバーシステムの普及や活用につながることが期待され、マイナンバーを推進してる政府としても嬉しいはずです。
かといって、配分は徹底して平等一律なので、政府の権限が拡大することもないというちょうど良さがあります。もっとも、マイナンバー制度を管理する業者や、多分この仕組みを運用するにあたってどうしても登場するであろう国民配当基金(仮名)みたいな仲介担当の第三者機関において汚職や腐敗が発生する可能性はありますから、そこは注意しないといけないポイントです。
なお、現在国が推進してるNISAやiDeCoもおそらく国民に投資を促して配当(インカムゲイン)やキャピタルゲインを受け取ってもらおうという意図と推察されるので、国民配当と狙いが重なるところはある制度と思われます。しかし、いかんせんNISAやiDeCoは自ら投資する原資を持ってる人が対象なんですよね。つまりは、もともと投資に回せるぐらいある程度余裕資金がある層しかメリットを享受できないので、逆進性があります。しかも投資額に量的に比例してメリットも大きくなるのも、よりその格差拡大の傾向に拍車をかけます。この辺の特性は、もともとの投資の有無に関わらず全員に配ろうというベーシックインカム志向の国民配当の発想とは相容れないところがあって、あくまで別の制度と考えます。
まあ、国民配当、まだまだ粗いアイディアなので、色々と問題がありそうですけれど(法や制度もバンバン変えないといけなくなりそうですし)、ベーシックインカム的なものを受け取れるという点で国民にもメリットがあり、市場の維持拡大を国民も支持してくれるという点で企業にもメリットがあり、マイナンバー制度システムの普及と支持が得られるという点で政府にもメリットがあると、結構面白い仕組みなんじゃないかなと。それぞれの立場の権限が強くなりすぎないバランスでもあるのも良い気がしています。
何より、企業の利益は市場すなわち人々が健全にあってこそ生まれてるという初心を忘れないための仕組みであることに意義があると思っています。
とりあえず、面白そうなアイディアじゃないかと思うんですが、いかがですかねえ。
なお、ちょろっと調べたところ、この「国民配当」に似たような発想を実は有名な経済学者のシュンペーターが述べていたらしいという噂は見かけたのですが、詳細はわかりませんでした。