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『運動・減塩はいますぐやめるに限る!』読んだよ

大脇幸志郎『運動・減塩はいますぐやめるに限る!』読みました。

著者の大脇氏はこれまでも『「健康」から生活をまもる 最新医学と12の迷信』を書かれたり、『健康禍』を訳されたりと、徹底して世の「健康主義」を批判し続けている異端の医師です。歯に衣着せぬ物言いも特徴で、よく「健康主義」の医クラの面々とレスバを起こしています。


江草も過去に『健康禍』の感想を書いてます。


さて、本書『運動・減塩はいますぐやめるに限る!』は、世の中で「健康のために良い」と崇拝されている運動や減塩などの「健康習慣」の根拠や効果、そして巷にあふれる健康情報が、いかにイマイチでいい加減なものであるかをひたすらに指摘する身も蓋もない話が続きます。

たとえば、運動ではやせないし、減塩では血圧もほとんど下がらないし病気の予防効果もほとんどないことを示し、そのために貴重な時間や美味しいごはんを我慢するのはおかしいとか。
だいたい健康情報の解釈は非常に難しくて高度なのだから、素人が下手に手を出しても自分の信念に合う都合のいい情報を集めるだけ(つまり確証バイアスですね)で意味がないとか。
こんな調子です。


よって、本書を通じて「健康情報なんて集めず、健康のことなんて忘れて各自が好きに人生を生きるべきだ」と大脇氏は説きます。
言ってみれば、白饅頭氏がよく言う「われわれは今すぐインターネットをやめるべきではないか」の健康版で、「われわれは今すぐ健康を気にすることをやめるべきではないか」という感じです。


案の定、全編にわたりけっこうな毒舌っぷりで語られるので、人によっては(とくに健康主義派の医療者は)読んでて気分が悪くなってくるかもしれません。江草は、大脇氏の主張にもある程度共感的な立場なのもあるのと、もともとの大脇氏のキャラもSNS等で存じ上げているので、むしろそのバッサバッサと切り捨てる感じが小気味よくってとても楽しんで読んでしまいましたが。


これがまあ、よくある「健康になりたいなら医師にかからず○○を食べなさい」とか「コロナは陰謀で医師は利権を守りたいだけ」とかいう低レベルの反医療的言説だったらよかったんですが、大脇氏は普通にジャーナルやコクランにもガッツリ目を通してるエビデンス知見にツヨツヨな方なので、本書の指摘もなかなか痛いところを突いてくる鋭いツッコミなのです。

完全に納得同意するかどうかはさておき、こうした手強い批判をいただけるのは大人になると貴重でありがたいことなので、医療者としては誰もが考えておくべき指摘が詰まった一冊ではあるでしょう。



さて、本書の貴重なところは、大脇氏の人生論も記されていることです。

かねてから大脇氏のことは面白い方だなと思ってフォローさせていただいているのですが、実のところどういう価値観で動かれてる方なのかなというのはつかめてなかったんですよね。

でも、本書の終盤で大脇氏の人生観をまとまった文章で読むことができて、ようやく腑に落ちたところがありました(あくまで赤の他人ですからこれで「理解した」とはもちろん言いませんが)。


江草が勝手にまとめるのも失礼千万なのは承知なのですが、読後の個人の印象として述べてしまうと、大脇氏は個人の自主性を重んじリアルな人間関係を大事にされる方なんですね。

毒舌っぷりからは一見想像しがたいのですが、本書もひたすらに「あなたの人生なんだからあなたがどうしたいか決めなさい」「責任を取らない赤の他人の言説ではなくあなたを大事に思ってくれる近しい人と話すことこそを大事にしなさい」というメッセージが込められていて、実のとことても優しい方だなと思います。

一般的な「反健康主義」の印象に反して、「無駄な延命治療だ」として批判されがちな胃ろうにも擁護的ですし、大脇氏はむやみに医療技術を否定しているわけでもありません(むしろ「自然に還ろう」的な言説もけちょんけちょんに批判してます)。

とにかく個人を一人の人格を持った人間として尊重して扱うことにこだわってらっしゃるなと感じました。


そう見てくると大脇氏の毒舌も氏の価値観を反映したものとも言えそうです。
他人の評価を気にして媚びて生きるのではなく、自分がしたいように生きよと。



そして、何より本書の面白いところは、途中で何度も「この本を読むのをやめてゴミ箱に放り込んでください」と強調されるところです。
なぜそんなことが言われるのかとといえば、「他人から提供される情報なんて見なくていい」というのが本書の主張であるから、本書自身も「見なくていい対象」に含まれてしまうという矛盾した構造になってるからなんですね。

「まだ読み続けてるんですか。早くゴミ箱に放り込んでください」と言われながらも読み続ける、そこはかとない罪悪感に満ちた読書体験は初めてでとても面白かったです。


もっと言えば「レビューも書かないでください」「人にオススメもしないでください」的なことも書いてあったので、最後まで読み切り、かつ、ゴミ箱に放り込んでおらず(Kindle版なのでそもそも放れないのですが)、こうして勝手な感想をネットに公開してしまっている江草は、大脇氏の指示を二重三重に無視しちゃってる大変にひどい人間なわけです。

ただ、これはほんと申し訳ないことに、江草は基本的に人の言うことを聞かないワガママなタチでありまして、面白かったからつい最後まで読んでしまいましたし、面白かったからつい感想を書きたくなってしまったのです。
おかげで人生が豊かになりました。

まあこれもひとつの自主性の発揮ということで何卒お許しください。


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江草 令
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