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金魚坂めいろ検証にツッコミを入れる

2020年10月末~翌年にかけて盛んに作られた金魚坂めいろに対する種々の「検証」群について、今更ながらそのおかしな点を指摘していく。

うすうす感じていた人も多いと思うが、これらは大なり小なりトラブルの相手である夢月ロアを擁護する目的で作られていて、「検証」とは名ばかりの牽強付会やでっち上げに近いものが多数含まれている。

金魚坂がその素行の悪さから自分で自分の信用を失った結果として、これらの「検証」もほとんど批判されずに放置されたままとなっているが、業界的には既にいない人物とはいえ、こうしたものを元に誹謗中傷の的になっていることにはやはり問題がある。

なお夢月ロアがイジメをしたかしてないかというような話は別にしていないので、早とちりして噛みついてこないよーに。

自作アニメ内の2秒ほどのダンスシーンが一致するというものだが、対象がBTSとはいえこんなものでよくまあ大騒ぎできたものだ。アイドルの肖像権に触れているのでもなければ海賊版として機会損失や経済的損失をもたらしているわけでもなく、BTS側が相手にする理由がない。わざわざ英語やハングル字幕までつけてどれだけ大ごとにしたかったのかという感じだ。


確かに舞踏や振付には著作権が認められているが、振付の著作権を認めた当の判例(日本のだが)では同時に、たとえ作家の個性が表れている部分であろうと振付の個々のモーションには著作権はないと判断されている。加えて「振付」とはあくまで特定の楽曲や歌詞に対応する解釈として付けられる一連の動作であって、楽曲から切り離された著作物として認められているわけではない。こうした点を考えてもこの2秒のシークエンスにクレジット表記が必要だったなどという根拠は希薄である。


ちなみにこの検証動画が投稿された2020年10月31日時点では、金魚坂めいろはとっくににじさんじから契約解除されていてチャンネルも閉鎖されていた。当のアニメ自体がすでに公式からは削除されていたのであって、その時点でこれが「BTS側の権利のため」に投稿された動画などでないことは明らかだ。他人の権利を別の他人を叩くための道具にするなよ。

ダンス検証で味を占めたことでイラストに対する無数の検証が起こり、その形跡は金魚坂めいろ保管庫なるwikiページに「検証中」などとしてまとめられているが実体としては上のような難癖の寄せあつめである。何の変哲もない正面顔のアップを重ねているだけで顔の各部も輪郭もまるで一致しておらず、トレースで描いたと考える必然性がなにもない。「ほぼ確実」というページでは商用利用可能な素材であることが確認されたものすらトレパク扱いされており、作図に関して何の知識もない連中が検証していることがわかる。


こうした透過画像の重ね合わせによる検証は似ている程度のものまで一致して見えてしまうため、俗に「重ねマジック」などと言われていて無数の冤罪の元となっているものだ。最近もこのような方法でトレパクを疑われた漫画家が名誉棄損を認められて高額の賠償金を勝ち取っている。検証する側も載せている側もノーリスクでないことは理解しておいた方が良いだろう。この「宇崎ちゃん」を切り刻んで重ねているものなどは、検証の馬鹿々々しさ以前にまず比較先の同一性保持権を侵害している。


このような画像の重ね合わせに躍起になっている者たちが理解していないこととして、まず「模写罪」や「トレス罪」みたいなものがあるわけではない。そうした方法によって参照元と同一の「表現上の本質的な特徴を直接感得させるもの」を作ることが著作権の侵害と見なされるのである。部分的な一致を探したり、重ねて見せなければ類似性に気づかないようなものを比較検証している時点で徒労というべきだろう。また構図、ポーズ、アイディア、コンセプトといったものもそれ自体には著作権はない。


問題はこうした法律的知識も作図に関する知識もない者がこぞって「検証」しているため、なんか似てる程度のものや構図、モチーフが似ている程度のものがこのようにずらずら集められ、同レベルに知識のない者がそれを見て盗作と思い込んで誹謗中傷を行う、という愚の連鎖が起きていることだ。なお現在の「検証中」のページ冒頭には「模写やトレースに関わらず金銭発生の場で自作発言していることが問題です」などとも書かれているが、それは少なくともこれらが模写なりトレースなりであることを確定させてから言うべきことであって頭のおかしい一文である。

noteに投稿されているもの。このスプリングボックという投稿者の記事は網羅性に特徴があり資料的に優れた面があることは否定しないが、意図的なものか能力不足によるものか誤認と僻見が散りばめられており、記事をもとに騒動の経緯を確認しようとする人がとそうした僻見をそれとなく植え付けられる上、分量が多すぎるせいで個々のおかしな点を他者がいちいち指摘しづらいという始末の悪いものとなっている。同じ趣旨の文章が同じ間違いを犯したまま書かれているのを前掲のwikiを含む各所で見かけるので、金魚坂をなにか巨悪めいたものに見せようとする陰謀論的な言説の発生源となっているようだ。


上の検証では例えば「(金魚坂は)標準語を喋ると過呼吸とストレス性胃炎を引き起こす」などと書かれているのだが、実際の発言は「配信の緊張がひどくて(過呼吸とストレス性胃炎を起こすレベルで)、まだとても話し方にまで気を配る余裕はなさそうです」であり、「配信の過度の緊張で過呼吸等になる」と言っているだけであるにも関わらず標準語が過呼吸のトリガーだというふうに曲解されている(過呼吸と胃炎については配信でも言及されているが緊張によるものと言っているだけである)。このため「過呼吸になるはずなのに平気で標準語を喋っているじゃないか」とかいった意味不明な批判の元になっている。


また「緊張すると訛る」と「気が抜けると訛る」という両方の発言があり整合しないなどとしているが、訛りが「地」なのであれば緊張して標準語を取り繕う余裕がなくなる結果訛りが出ることと、リラックスした場面で気が抜けることで「地」の訛りが出ることとは何も排中律ではなく両立しうる現象である。人間の精神状態は過度な緊張状態と気が抜けた状態の2種類しかないというのであればともかく、言葉尻だけとらえて矛盾しているかのように言う詭弁である。


変な切り抜き動画を真に受けて「金魚坂は自分の「でよ」は接続詞と言っていたのに語尾についている」などと不思議がっているのもおかしい。まず「でよ」はどうみても自立語ではないので「接続詞」ではない。品詞的には理由を表す接続助詞<で>+呼びかけの終助詞または間投助詞の<よ>である。そして接続助詞で後続を続けずに終わる文は「言いさし文」などと言われていて日本語ではありふれた用法だ。「今からバイトなんですけど」「どうせ暇だ」といったものである。そこに挙げられている例だと

「めろね、地図が読めん女だでよ。車のさ、助手席に乗せてはいかん、地  図が読めん女だでよ」→「めろは、地図が読めない女だからね。車の助手席に乗せてはいけない、地図の読めない女だからね

となり何もおかしな点はない。当然「だよ」由来のキャラ語尾である夢月の「でよ」とはたまたま形が同じなだけで用法も意味も別物である。


また金魚坂が初配信開始時にミュート忘れで標準語でしゃべっていた、ということを不審な点のように書いており他の投稿でも繰り返しているが、これについては初期の配信で「もともと標準語で配信するつもりだったため事前に標準語の友人と話してチューニングした」「ミュート忘れに気づいてから動転して緊張による訛りが出た」というふうに説明されており、ここで標準語を喋っているのはむしろ本人の説明と整合している点である。

こうした点はあくまで辻褄が合っているというに過ぎず金魚坂が真実を話しているかどうかはまた別問題だが、整合してる点まで不可解な点のように繰り返し言い立てて実際以上に矛盾があるように見せかけているのはおかしいのだ。

同じ投稿者の記事だが、こちらではDMのやりとりについて「金魚坂めいろの不可解な長文」「一方的な主張」と奇怪な断定を行っている。不可解なのは評者お前である。この2人はこのDM以前に運営を介して散々やり取りをしておりここで初めて直接言葉を交わしているのだから、まず論点を整理して意見を述べるのは「社会人として」当然のやり取りだろう。DM全体をみても(少なくとも表面上は)論理的に話そうとしている金魚坂と、感情に訴えて通話したがっている夢月とでコミュニケーションエラーが起きているだけにしか見えない(※なお夢月が通話のことを指して「話す」と言っているのに対して、前半では金魚坂がそれを文章上のやり取りのことと誤認しているようにも見える)。


で、この投稿者は続いて「返答ができなくなる前に一言添えていないのは社会人失格」とか「個人事業主としての心構えがなっていない」とか急にTwitterのクソリプレベルのことを言い始めるのだが、1日の間にどういう時間間隔で行われていたやりとりかもわからないのに難癖もいいところである(というかDiscordのDMにそんな礼儀作法があるなど初耳だが、どこの世界の話だろうか)。個人事業主というなら夢月も同じであって、それでいうならまず夢月がビジネス上の連絡を私情から始めているのは社会人としておかしいと言わねばならないだろう。


もっと言えば、同じ事務所の新人が自分の訛りに起因する問題を提起しているのを知っても自分から何もフォローしないどころか運営任せにしておきその後ろで表の配信活動を停止する、というような相手に不信感を持たれてもしかたない行動を夢月がしているのは一社会人として相当おかしいのだが、そうした点はスルーしているだけでなく夢月の復帰配信については「自己啓発を求め、考え方を変え、活動の幅を広げたいと語る彼女を見ると、自分の不甲斐なさに苦しんでいるだけのように感じられないだろうか?」などと心情に寄り添ってポエムを書き始めており、夢月がこの復帰配信で同僚に相談して回ったと吹聴することで金魚坂が同僚間での立場を悪くされたと感じたかもしれない、といった可能性には思いつきもしていない。どだい中立的な立ち位置からものを見ていないのである。


また金魚坂が活動中にたびたび行っていた夢月への当てつけらしき行動については確証のないものまで含めて逐一紹介し、公式声明文にある「(夢月が)不安を抱いた」ためにブロック解除に及んだという説明がいかにも正当だったように見せているが、であれば夢月がミュートで済んだはずのところをわざわざフォローがはずれて周囲に察知されうるブロックのほうを選んでいるという点にも触れなければフェアではないだろう。「ブロック解除のあとすぐ再フォローすればフォロー順は変わらないことの検証」などという、明らかに郡道美玲への偏見に基づいた動画を紹介するならば猶更だ。


なお金魚坂の友人「イヴ」のヘッダー画像夢月のヘッダー画像と似ていて云々という点については、実際のヘッダー同士は大して似たものではないにもかかわらずわざわざ反転して角度調整してサイズ調整していかにも似通ったものに見せるという印象操作を行っている。まず金魚坂が頬を寄せているほうはイマジナリーフレンドなのでこの画像がどう夢月への当てつけになっているのかもいまいち分からないが、「似ているとして物議を醸し出している」といった口ぶりといい精査の甘さといい印象操作といい、全体としてこの投稿者は記事中で自分がさんざん批判している鳴神裁と同レベルなのである。

この件に対する同じ投稿者の最後の投稿だが、ノアズアークで風向きが変わったことを踏まえてかここではもはや金魚坂の悪印象を後押しするためだけの雑な切り貼り羅列記事と化している。例えばオーディション動画の京都弁についてはそれまで留保的な書き方をしていたのに、この記事では何の説明もなく「運営は当然そのキャラクターでいくものと信じて京都寄りのキャラクターを作り上げていった」などとまるで見てきたかのようなプロジェクトX風の話にすり替わっており、正確性に対する最低限の慎重さもない。

また同じ投稿者がこの記事のわずか12日前に上げた前掲の訛り検証記事では、金魚坂が「京都弁に寄せて喋っていた」だけだったことをDiscordの発言で確認しているはずなのだが、こっちの記事ではなぜかそれを忘却して「本来の訛りではない可能性がある」などと不審点の一つのように書いているのもおかしい。12日の間に頭でも打ったのか。


ちなみに金魚坂は自分のキャラクターデザインについて担当絵師と緊密に連絡を取っていたことを話しているので、プロフィールや衣装のモチーフについても単に自分の和物趣味を自分の意向で入れた可能性のほうが高いだろう。オーディションといってもにじさんじのものは自由な形式の1分間の動画を送付するに過ぎず、特に金魚坂はキャラありオーディションではないから双方とも採用後の活動を縛るようなものとみなしていたとは考えにくい。以下はえま☆おうがすとのキャラ無しオーディション動画。


で、金魚坂が夢月と同じ読み間違いをしているとか無名同人作家時代に他のアマチュアイラストレーターの名前や作風を真似していたとかいった事象を列挙することでほのめかされているのは結局のところ「金魚坂が悪意をもって似た訛りを被せた」といったことなのだろうが、そうした言説を書いたり信じたりしている者が都合よく見落としているのは金魚坂と夢月は訛り以外には別に共通点はないという点だ。

喋り方からして夢月が高めの快活な声でまくしたてるように話すのに対し、金魚坂は低めのおっとりした声でゆっくり話すイメージが強い。デザインとしても13歳という幼めの設定でスレンダー体型の夢月に対して金魚坂はグラマラス体型の女子学生でアピールする層がはっきり異なっている。配信内容も夢月は当時は長時間のマイクラ実況が中心、金魚坂はお絵かき雑談やレトロアクションゲームなどであり方向性がまったく違う。訛りにしても金魚坂のそれは東北弁を思わせるような濁音交じりのもので、また用法の異なる「でよ」は使っても「お」とか「のだ」といった他の夢月の特徴的な口調を使っていたわけでもない。要は互いにまったく別の個性を持つVチューバーとして完全に成立していたのであり、故意にキャラを被せたような形跡はどこにもない。


にじさんじには当時から関西弁を喋るライバーが多く在籍しており、すでに同じ方言のライバーが複数いた時点でV事務所において「方言や訛りが被る」ことが問題になりうるという認識はそこまで自明なことではない。実際問題として、金魚坂がこれまでに経験したことはないであろう数万人の視聴者への生配信で想定外に緊張してイントネーションが乱れた結果咄嗟に「訛りキャラ」に切り替えることにしたという可能性(緊張で訛りが出るのはよくある現象のようだ)も、事前に夢月の配信を見て人気があることを知っており密かに「訛りキャラ」を準備していた可能性もどちらもあり得ると思うが、「一個人事業主に過ぎない」金魚坂からすれば自分ができることを最大限に生かして自分の顧客を増やそうとするのは当然である。契約にあたって向こうから確認を取られたわけでもない訛りの制限で不利益を被らされる謂れはないのだ(だから運営側も「訛りを止めないのなら辞めてもらう」ようなことは言えていない)。


一方で初配信から「魔界出身ですか」とか「ハンムラビ法典て言ってみて」といったチャットが流れていた金魚坂に対して夢月が懸念を抱いたとしてもそれも無理はないと言える。問題は夢月が前述のようにこの問題を運営任せにした上で配信活動を無言で止めるといった行動をとっていることで、特に夢月が過去に雪城真尋の訛りを止めさせているという情報をDMで受け取っていた金魚坂からすればこれはそれを裏付ける行動と映り「配信ストライキで圧力をかけて他人の訛りを止めさせようとする邪悪な人間」だと思っただろう。その結果として間違った正義感を暴走させて「悪」を懲らしめるため乃至抵抗のそぶりとして活動中にそれとなく夢月を刺すような行動をする一方、デビュー直後の重要な時期に長期間このような「悪」に足を引っ張られ続けたことへの不当感が募り、そのような「悪」がまったく世間に知られないことに我慢がならなくなった結果、さほど自分に不利でもなかった妥協案すらも蹴ってほのめかし配信から鳴神へのリークに及ぶというわけである。


このように金魚坂の行動原理自体は(共感できるかはともかく)単純なものとして説明可能であり、夢月への陰謀論的な悪意などを想定する必然性はない。にもかかわらずこのような言説が吹聴されたり信じられたりしているのは、金魚坂がそのような巨悪だったとでも考えない限り、本来は新人に優しく手を差し伸べるような人間であることが期待されているにじさんじライバー像とはかけ離れた上記のような夢月の裏側の行動を正当化できないからである。しかし夢月の炎上の本来の核はここにあるのであって、「夢月がいじめを行ったか」とか「いじめと言えるか」などという話は論点がずれているのだ。


そしてもう一つ、訛りを「被せた」とか意図的に隠していたなどと非難している者たちが都合よく忘れているのは、この問題が顕在化する以前には両者の訛りが似ていると思う者はいても、そのことが両者の配信活動の支障になるなどと想像していた人間は皆無に等しかったということだ。夢月が配信停止から復帰して匂わせのようなツイートをしたときまでにその停止の原因が金魚坂に違いないなどとは誰も思っていなかったし、鳴神が最初に「パクリではないかと話題になっている」などと言及したときにも「そんなわけないだろ」「どこで話題になってるんだ」の大合唱で、夢月の匂わせの原因が金魚坂であるなどという話は少しもリアリティを持っていなかったのである。その時点で「夢月と似た訛りを回避したり修正する必要があった」などという主張は根拠を失っているのだ。

一部で金魚坂が夢月の訛りを「パクっていた」証拠のように言われているもの。要は金魚坂の訛りが夢月の配信から反復学習で習得したものであるため一人称までうっかり「ロア」と言ってしまったのだと言いたいらしい。まず「ロア」と言っているのかも微妙だが、であればその「ロア」と言っているらしき部分の発音が夢月自身が「ロア」と言うときの発音と違っているのはおかしいだろう。夢月の「ロア」は文章上の位置や助詞の有無に関わらず通常「ア」と語頭にアクセントがあり、動画のように上がり調子ではない。

ちなみにこの動画のシーンは例の「でよ」について説明している部分なので、ロアと言いそうになったのであれば夢月を意識しながら喋った結果言い間違えたか、これも当てつけの一環だったかのどちらかだろう。いずれにしても日頃夢月の配信を見てきた者であれば当然発音の違いに気づくはずなので、この動画を見て「パクリ」だと信じ込んだ者にリリンを名乗る資格はないと言っておこう。


夢月の訛りに関しては、公式声明文で「夢月ロアの口調は、現実の『なまり』や『方言』に依拠するものではなく~」などという書き方がされていることもあって夢月がゼロから創り出したものと思い込んでいる者も見かけるが、訛りというのは基本的には音韻変化の規則の集合なので、現実に存在する訛りとは全く無関係に文章全体にわたるそのような規則の体系を作り出して喋っていたなどと考えるのは非現実的である。初期からのリスナーには周知だがデビューした頃の夢月は標準語アクセントで喋ろうとしており、にもかかわらず言葉の端々に独特の訛りがあったのでそれを面白がったリスナーが魔界訛りと言い出し、夢月も訛りが受け入れられるとわかって徐々に訛りを前面に出していったというのが魔界訛り定着の経緯である。Aさんとして答えている記事でももともとイントネーションがおかしいと言われていたと話しており、ライバーになる以前から特定の方言由来の訛りがあったと考えるのが自然だろう。


「ロア」の発音に触れたところで、ついでに夢月の他のイントネーションがどのようなものであるのかを調べてみよう。以下は(用言は難しいので)体言(名詞)に絞り、適当に選んだ切り抜きから抜き出したものだ。専門家ではないので正確性に自信はないが、強調した部分はアクセント位置と思われるもので、標準語アクセントと発音が同じと思われる語には " † " マークを付けてある。

おいしそうにラーメン食べる夢月ロア【うまーいしあわせ】
†お(お湯) †あ(味)タイマー  スープ  †カプサイシン †い(犬) †ん/め(麺)たま/ †たご  †わりばし †すきやき  ベーコン  †しあわせ

【夢月ロア】洗った?ネタにツッコミするのかわええな
†ほうちょう †のこぎり †はいしん(配信) でんしれんじ/†でんしれんじ ぱいの/ †ぱいのみ(パイの実) †さとう(砂糖) カレールー  †のこ

と、こうしてみると名詞については意外と標準語アクセントで喋っていることがわかる(そもそもアが共通語アクセントだ)。また金魚坂の訛りについて同じ単語でもアクセント位置が変わるとか訛り直しているとか言われていたが、そうした特徴は実際には夢月のほうが顕著である。ただしもっと遡って初期の8万人記念配信などを見るとかなり非標準語アクセント優位で喋っているようだ。まあおそらくライバーになる前、変だと言われていた方言由来のイントネーションを抑制して標準語イントネーションで喋ろうとしていた結果、元の訛りに一部共通語イントネーションが混ざった訛りが形成されたというところではないだろうか。夢月の訛りがどこの方言か分からないというふうに言われていたのもこうした特徴のためではないかと思われる。


同様に金魚坂のイントネーションを見てみよう。

ひたすら惚気話をしてくれる金魚坂めいろ【にじさんじ・切り抜き】
オープ
ニング おとこのこ ダンス うごきかた †えんじょう(炎上)
しんぱい(心配) まもり †きんぱつ(金髪)え(駅)まちあわせ

【金魚坂めいろ】住んでいる寮が想像以上に凄かった件
あまもり(雨漏り) りょ(寮) おととか(音とか) てんじょう(天井)
さいきん(最近) あ(雨)マンション もん(文句)びら レベ

このように上記の夢月の例と比べるとかなり一貫して非標準語アクセントで喋っていることがわかる。標準語アクセントぽく聞こえる「炎上」や「金髪」も、文頭ではなく文の途中にあるので文章全体の音調の影響を受けている結果だろう。並べてみれば夢月の真似どころかこちらの方がオリジナル(起源)に近い訛りに見える(勿論これから配信業でやっていこうとしている者が身に覚えのない訛りを一から習得して配信で喋ろうとしていた、なんて想定は端から馬鹿々々しいのだが)。

そして喋っている当人にこうした違いが分からないはずはないので、鳴神が言いふらしていたように夢月が「金魚坂の訛りを自分の訛りのパクリだと思っていた」などということも考えにくい。単に同タイプ(同一方面)の訛りをベースにした喋り方をする人間が後から入ってきたことを夢月が気にしたというところだろう。


金魚坂の訛りに関してこれまで見落とされているのは、金魚坂が自分のことを「訛りキャラ」と自認していたという点である。つまり配信上で見せていた金魚坂めいろの「訛りキャラとしての訛り」と、ライバー用Discordで「私には九州方面(恐らく幾つかの複合)の訛りがあるのですが、」というふうに言及している「素の訛り」とが、べつに様相として一致しているとは限らないということだ。

過去の発言との整合性を考えると、「九州方面の訛り」は祖父母由来で幼少期に獲得した後に矯正した訛りであり、実生活においては言葉の端々に名残があるとか、普段は目立たない程度に抑制されていて何かの拍子に出てくることがある程度のものだが、それが数万人集まった初配信の過度の緊張で出てきてしまったため、中途半端な訛りのある標準語キャラでいくよりは訛りキャラに振り切ったほうがいいと判断して、幼少期の記憶や祖父母の記憶をもとに矯正前の訛りを誇張気味に再現して喋っていたのではないか。方言学でジモ方言と呼ばれているものに近いだろう。

そのようなものであればもちろん配信の緊張に慣れれば標準語で話すこともできただろうが、初配信からすでに「訛りキャラ」を印象付けて評判にもなっていたのだから、2回目から急に標準語キャラに変更しろと指示したところで抵抗にあうのは当たり前である。RPを気にする必要があったのは夢月だけではないのだ。


参考文献

・友利昴『エセ著作権事件簿: 著作権ヤクザ・パクられ妄想・著作権厨・トレパク冤罪』パブリブ 2022年
・『日本語アクセント入門』松森晶子編、三省堂、2012年
・『方言学入門』 木部暢子 他編、三省堂、2013年
・飯島歩「フラダンスの振付けに著作物性を認めた大阪地裁判決について」弁護士法人イノベンティア、2018年
・「頻発するトレパク騒動 イラストのトレースと著作権法を解説」河瀬季監修、弁護士法人モノリス  2022年
・田昊「日本語教育文法における「言いさし」の研究」2017年
・田中ゆかり「着脱される「属性」―方言「おもちゃ化」現象―」2007年
・「OJAD - オンライン日本語アクセント辞書」  東京大学 大学院工学系研究科 峯松研究室 / 齋藤研究室


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