「胃カメラ初体験」#1 〜定期検診〜
会社の定期検診。
節目の年ということもあり、いろいろなオプションが付加できるらしい。
ついでだからと受けられるものをいろいろ申し込んでみる。
指定された時間にクリニックに到着すると、ものすごく綺麗だった。
コンシェルジュみたいな人が4〜5人いる。
持ってきた問診票をテキパキと確認してくれ、タブレットで本日の検診内容を示してくれる。
「本日12,214円のお支払いがありますのでご準備頂いてもよろしいでしょうか?」
「はい」
そんなに申し込んだのか。思ったよりお金かかった。しかし、金がないからと言って今から帰るわけにはいかない。
健康には金をかけるもんだしな、と思いつつ、更衣室で着替える。
ロッカーに検査着が入っているらしい。
ロッカーを開けると、検査着が2着あった。
どっちだろう。
お店風に畳まれている方かなと思い、下に置いてあった検査着を選択。
もこっとした柔らかい綿の生地で、なかなか着やすい。
フロアの真ん中が待合スペースになっており、ふかふかの黒いソファが背中合わせにずらっと並んでいる。
壁側はそれぞれの検査場所に分かれていて、名前を呼ばれてそれぞれの場所へ入っていく仕組み。
確かに受診者にとっても移動距離が少ないし、名前を呼ぶのがフロア全体に聞こえるので聞き逃す心配があまりない。
うまく作られているなーと思っていると、すぐ名前を呼ばれた。
検診開始。
最初に心電図を測った後、聴力や身長・体重を測る。
身長計でいつも思うことだが、足のマークに足を合わせると踵がバーにつかない。
踵をつけるのが正解なのかな、と思いつつ少し離れた状態で測定完了。167.0cm。3mm減った。ドンマイ自分。
視力測定は次々と映し出される輪に対し、自分でレバーを上下左右に動かして見えている向きを測るものだった。
確かに人力でランドルト環を映す必要はないな。省人化に納得。
待合スペースに戻り、再び名前を呼ばれた。
次はレントゲンらしい。
検査室に入って台の前に立ち、アゴを乗せて胸と肘をぴったりと正面の台につけ、手は後ろに軽く回す。
「はいそのままでいったんドアを閉めますのでお待ちくださいねー」
ガチャンバタン
「はい大丈夫ですよ、お疲れさまでしたー」
レントゲン史上最速の撮影完了。言い忘れたことがあって戻ってきたのかと思ったぐらいドアの開け閉めが早かった。
採血の順番が来て、カルテを見た看護師さんが首を傾げた。
「レントゲン撮られたんですよね?」「はい、撮りました」
「『肺』って書いてありますね…これ何だろう」
カルテのメモに「○→肺→カメラ」と書いてある。(○は忘れた)
肺機能の検査か何かだろうか。
自分で申し込んでおいて何を検査するのか分かっていないので、申し訳ないことにこちらも答えられない。
「『肺』ですよね」
「はい」
看護師さんが半笑いで採血の準備にかかる。
意図せず世界一くだらないダジャレを言ってしまった。
看護師さんが肘の内側に注射針を刺した。チクっとした痛みが走る。
いつもは見ないが、ちらっとだけ見てみた。
紅とは言えない赤褐色の液体。針一本でこれだけ血が抜けるのだから技術も体もすごい。
採血終了。
しばらくソファで待機して、名前を呼ばれて眼底を測る。終了。
「続いてこちらの椅子にどうぞ。肺活量を測ります」
そうか、肺は肺活量のことだったのか。
自分で申し込んでおいて「へー」と感心する。
「こちらを口にくわえてくださいね」
機械から伸びているピアニカのチューブのような白い管を渡され、先を口でくわえる。
自分で鼻をつまむのかと思ったらピンチで鼻をつままれた。よりちゃんと測定できそう。
最初は軽く息を吸ったり吐いたり。
すると、白い画面上にあったプラスのマークが小刻みに揺れながら動いた。
呼吸に応じてマークが移動するらしい。
「はいそのまま息を吐き切ってー、吐き切ってー…最後まで吐き切ります。そこから一気に吸う!」
看護師さんの誘導につられて一気にすうぅぅと吸い込む。
次の「吐いてください!」の一言で今度は一気に出す。ふうぅぅ。
プラスマークが一気に上昇した後、続いて右下に流れ落ちていった。
画面上に数値が出た。
「こちらが肺活量です」
3.3とある。
「あの、すみません、この数値はどうやって見たら良いのでしょうか」
「身長や体重から割り出した平均値のようなものがあって、大体数値のこの8割まであれば標準と言われています」
なるほど。平均値を見ると、3.5。
あれ、平均値を超えていない。
思わず口にすると、看護師さんはいえいえこれなら全然大丈夫ですよ、と慰めてくれた。
違うんです。私週一でテニスしてるんです。多分、平均より運動してるはずなんです。
ここは平均値より上を出したかった。
あと、歌うたってるんです。だから、ここは肺活量が平均値超えてないとまずいんです。
肺より心がしぼむ。しゅううううぅぅん。
看護師さんにお礼を言って悲しさと共に待合スペースに戻る。
つづく。