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30日間の革命 #革命編 168日

 鳥越は、ゆっくりと、そしてしゃがれた声で学生たちを次々と座らせていった。そして、残ったのは白の会のメンバーと、馬場、仙波だけになった。鳥越は残ったメンバーを見渡し、

 「ほうほう。やはりこの学校は優秀な先生たちの教えもあって、優秀な学生が多いですね。しかし、それでも一定数は”おバカさん”が出てしまうものなんだよね。そして、悲しいかな、そのおバカさんの中には現生徒会長や副会長までいるとは……。いいかい? これが最後の通告だよ? 今その場で座れば不問にする。さぁ、どうするんだ?」

 とメンバーたちへ問いかけた。会場には緊張が走る。しかし、彼らは決して座ろうとしなかった。

 「……そうかそうか。なら君たちは”停学”ということでいいのかな? よーく見れば、3年生がたくさんいるようだが……君たち進路はいいんだね? この後、後悔しても遅いぞ? いいんだな?」

 彼らの様子を見て、鳥越はそう脅してみせた。鳥越としては、”停学”をちらつかせることで、彼らの気を削ぎ、この場を鎮める算段だった。しかし、ここから鳥越の予想外の展開となる。それは、”停学”という言葉を使っても、彼らが一切座ろうとしなかったからだ。全く座る素振りを見せない彼らに対し、鳥越は少し声を荒げ、

 「お、おい。停学だぞ? 本当にいいのか? 君らは進学するつもりなんだろ? 今停学をくらえば、確実に志望の大学にはいけなくなるぞ。もし就職だとしても一緒だ。自分の希望の進路に行けるなんて思わない方がいい。それにこれは脅しじゃあない。君らが信頼を寄せている坂本くんが現にああやって停学になっただろ。ああなりたくなければ、今すぐ座りなさい。さあ、どうするんだ?」

 と再び彼らに向かって話した。会場には相変わらずピンと緊張の糸が張り詰めていたが、その場で立っている者たちは、まったく動じる様子はない。

 するとついに、

 「おい! お前ら聞いているのか! 停学にすると言ってるんだ! 何か言ったらどうなんだ! おい、聞いているのか!」

 と鳥越は大きな声で怒鳴り上げた。鳥越はマイクを使って話をしていたので、その声はスピーカーを通して会場へと響き渡った。それは、大友の怒鳴り声とはまた違い、耳にキンとくるようなものだった。しかし、それでも彼らは全く座ろうとする素振りは見せなかった。

 もし、これが学生たちの意志で革命に反対であったなら、大人しく引き下がろうと思っていた。しかし、鳥越の話は全校生徒の意志ではない。むしろ、坂本をはじめとした白の会が最も変えたいと思っている核心の部分であった。なので、事前に打ち合わせをしたわけではないが、誰一人として座ろうとはしなかった。

 鳥越はマイクを下ろし怒りに震えた。武蔵中央高校で教頭として3年勤務し、この規律ある学校の伝統を引き継いできた。それは決して乱れることのないもの。学生は教師の言うことをしっかりと聞き、規則を守る。武蔵中央高校の学生は、全国で一番規律正しくあれといつも言ってきた。しかし、今鳥越の目に映っているのは、教師に対して反抗する学生たちの姿だ。それが何よりも許せなかった。

 鳥越は再びマイクを口元へ上げ、もう一回怒鳴りあげようとした。しかしその時、鳥越の前に一人の男が立ちふさがった。その男とは、3年1組の担任である高橋だ。

 「な、何だ、急に人の前に立って!」

 鳥越は驚いた表情を見せた。対する高橋は穏やかな笑顔を見せ、

 「教頭、ここは私にお任せください」

 と小さな声で話した。そして、鳥越からゆっくりマイクを取り上げる。鳥越は一瞬抵抗しようとしたが、高橋の妙な迫力に押され、マイクを手放した。

▼30日間の革命 第一部
まだお読みでない方は、ぜひお読みください!

▼30日間の革命 ~第二部革命編~
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