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スパイス料理研究家・印度カリー子さんがイベントで語った、クリエイターとファンを幸せにする「道づくり」とは?(聞き手:有賀薫さん)
学生時代から「印度カリー子」と名乗って仕事をはじめ、ここ4年でスパイスに関する書籍を15冊出版!東大大学院でスパイスを研究したり、スパイスカレー初心者のためのお店を運営したりと、その魅力を伝え続ける料理研究家・印度カリー子さん。
スパイスカレーブームはまだ道半ばと謙遜しながらも、ご自身や商品のブランディング、SNS活用の心得、多くの人に手に取ってもらえるレシピ本づくりの工夫についても、余すところなく語っていただきました。
この記事では、イベントで話された内容をダイジェスト形式でお届けします。今回のイベントのすべては、以下のYouTubeよりご覧ください。
「どうしてないの?」疑問からはじまったスパイス作り(18:29-)
印度カリー子さん 毎日カレーをつくっているときに、スパイスの悩みがたくさんあったんです。例えば、どこで買えばいいかわからないし、余るし、量が多いし、高いし。日本のほとんどの人がスパイス初心者なはずなのに、どうして初心者のためのスパイスが存在しないんだろう? って思っていました。そこで、「初心者のためのスパイスセットがほしい!」と強く思って、1年以内に販売をはじめました。
(寄せられたコメント抜粋)
スパイスセットがあれば、そのカレーは作れるけど、他のカレーを作れない。だからレシピを作った。
— のーどみたかひろ (@nohdomi) August 30, 2022
でも、商売のためではない。みんなが困ってると思ったからやった。必要と思ったからやっただけ。#料理家トーク
有賀「商売にすると、どういう人に届けるのか、価格設定は?」
— のーどみたかひろ (@nohdomi) August 30, 2022
カリー子
「自分のお年玉ではじめた。調合、レシピなんでも自分で考えた」
「めっちゃ倹約家で、小学校の時から貯めた20万くらい手元にあった。10万円を好きなことに使おう」#料理家トーク
確かにスパイスカレーって標準ってないイメージある。標準化、構造化するということは普遍性を与えるということなので、そりゃあ需要あるな。と思う。#料理家トーク #note
— 週末音楽倶楽部:成瀬学(we-mc)(shu-on) (@we_mc_official) August 30, 2022
クリエイターが考えるべきは「道」をつくること(30:57-)
印度カリー子さん 「初心者にとってスパイスは非常にわかりにくい」と自分自身が感じていたし、そう感じている人はきっと多いはずだと思っていました。なので私は、スパイスセットやレシピ本を通して、初心者が渡りやすい「道」をつくっただけなんです。(中略)クリエイターは作品をつくっているだけではダメだと思っているんです。作品をつくっているだけの人は、ただ生んでいる状態。クリエイターがしなければいけないのは、届けたい人を明確にイメージして、いいものをつくり、そこに「道」をつくること。どちらもやらないといけないのに、片方ばかりを追い求めることに満足してしまう人が多い気がします。
(寄せられたコメント抜粋)
クリエイターは、いいものを作るだけじゃだめ。道を作って届けるまでが必要。#料理家トーク
— かなりあつい (@kanari_atsui) August 30, 2022
必要なのは良いものと届けたい人の間に道を作る
— くぼた🌴 (@ytleoo) August 30, 2022
作って満足しない、届ける方ばかりだと続かない
錯覚しないように自分のジャンルの中ではなく普通の生活をしている人をウォッチする
#料理家トーク
自分がいる業界の人とばかりつながっているのはよくないのかも。世間一般の人がどういうニーズを持っているのかをフラットに見ることが重要だな。#料理家トーク #note
— 週末音楽倶楽部:成瀬学(we-mc)(shu-on) (@we_mc_official) August 30, 2022
試した人を100%幸せにするレシピ本へのこだわり(36:47-)(50:27-)
印度カリー子さん レシピ本の通りに厳密につくる人って半分ぐらい。もう半分は分量を少し変えたりと、どこかしらゆらぎが出てくると思うんですよね。だからこそ、きっちり量らないとおいしくできないレシピは出さないようにしています。再現してつくってくださっている方を100%幸せにしたいので。そのための試作が1番多いのは、レシピ本です。
例えば『圧力鍋で作る印度カリー子のスパイスカレー教室』の場合、圧力をかける時間が長いほどブレが出てきてしまいます。その時間を少しずつ変えながら、ゆらぎがあってもおいしくできる時間を何度も検証します。なので、試作の回数は増えてしまいますね。
でもそこまでこだわれるのは、最初から最後まで全部のレシピをつくってくださるフォロワーさんがいるから。レシピを書くときに、その人たちの顔が思い浮かぶんですね。その人たちに100%満足してもらいたいから、とことんこだわり抜いたレシピが書けるようになったんだなと思いますね。
(寄せられたコメント抜粋)
note #料理家トーク に参加しています。
— 愛川真白(あいかわましろ)/おうちごはんの専門家/脱マンネリ!おいしい簡単ごはん☆ (@mashiro014158) August 30, 2022
世の中にあるレシピは「玉砕混合」
良いレシピを書く人は、100発100中のレシピを書く。
信用問題。フォロワーさんの信頼を裏切りたくない気持ち。(by印度カリー子さん)
竹を割ったような性格が素敵です!#note
本で出すレシピは、めっちゃ試作する。
— のーどみたかひろ (@nohdomi) August 30, 2022
例えば、圧力鍋の状態のゆらぎがあってもおいしくなるかどうか検証しまくる。
レンチンの場合、自分家のレンジだけじゃおいしくできないかもしれない。→実家のレンジでやってみる。#料理家トーク
同じ料理のレシピでも見比べてスッと頭に入る方を選びがちなの、数字の美しさが影響してるのかも...カリー子さんの本でスパイスカレー挑戦したくなった。めっちゃ面白い #料理家トーク
— くぼた🌴 (@ytleoo) August 30, 2022
スパイスセットの比率を当初からあえて変えた理由(43:11-)
印度カリー子さん 私の場合、タ・ク・コ(ターメリック・クミン・ コリアンダー)の比率を 1:1:1 にしているんですが、厳密にはターメリックの比率がちょっと少ないんです。でも、それはわかっていて。むしろ、これまでの配分(1:1:1/2)の難しさのせいで諦めた人が何人いるかを考えたかったんです。
実は、『1人分のスパイスカレー』の1番最初の原稿では、比率を1:1:1/2にしていました。そのとき、編集者から「1:1:1じゃダメなんですか」と質問されて。試作したところ、その比率でもおいしかったんですね。私が届けたいのはスパイス初心者。1:1:1でもおいしいのに、1:1:1/2のままにするのは私のエゴでしかないと思ったので、わかりやすくするほうを選びました。
(寄せられたコメント抜粋)
有賀
— のーどみたかひろ (@nohdomi) August 30, 2022
「タ・ク・コ ターメリック、クミン、コリアンダーを1対1対1。これは普通の配合じゃない。これはすごい」
カリー子
「正しくない。それはわかってる。配合を細かくすることで諦めた人のこと考えた?」
「1対1対(1/2)。1対1対1じゃダメなんですか? と聞かれて考え直した」#料理家トーク
インプットを続けなければアイデアは降ってこない(1:01:51-)
印度カリー子さん 発想は天から降ってくるわけではなく、自分のインプットしてきたことの網合わせでしかないと思っていて。過去のインプットや経験の要素の組合せで出てくるもの。常にインプットし続けることをやめないですね。そうしないと、アイデアが出てこなくなってしまうから。4年で15冊のレシピ本をつくりましたけど、それ以上のペースで他の人のレシピ本を見て(実際に)つくっていますね。
(寄せられたコメント抜粋)
面白いアイディアは、勝手に降って来ない。インプットはやめない。過去、自分が取りこんだものの組み合わせで生まれる。たくさん入れるとたくさん出て来る。#料理家トーク #印度カリー子
— 愛川真白(あいかわましろ)/おうちごはんの専門家/脱マンネリ!おいしい簡単ごはん☆ (@mashiro014158) August 30, 2022
"アイデアは降ってくるものではなく、インプットしたものを編み込んだもの。だからインプットはやめない。"#料理家トーク
— もげるブックス (@mogerukiriyama) August 30, 2022
質問 : 悩んだときは誰かに相談しますか?(1:07:30-)
印度カリー子さん 相談しないです。自分の熱量が100%だとすると、それを超える熱量のある人はほとんどいないんです。もし120%の人がいたらすでにやっているはずですし。つまり、自分よりも低い熱量がある人しかないのであれば、マイナスの要素が入ってしまうことが悔しいので。全部やってから事後報告ですね。
(寄せられたコメント抜粋)
"自分の好きなものについて、自分が熱量が100%のはず。周りの人はもっと熱量が低い。だから、相談をするとその人たちに熱を奪われてしまうから、相談せずやって事後報告する"
— もげるブックス (@mogerukiriyama) August 30, 2022
この考え、めちゃくちゃ熱い!そして大変参考になった。#印度カリー子#料理家トーク
視聴者の感想
面白かった!料理家の方ってわりと、イメージで味を再現できる、味の基礎さえ分かっていれば何でもふわっと美味しく作れてしまうように思っていたのだけど、印度カリー子さんはきっちり考え、理論的に料理をする方の印象だった。カリー子さんのレシピでスパイスカリーを作ってみたい。#料理家トーク
— コーセークラゲ (@kosequrage) August 30, 2022
note主催、有賀薫さんと印度カリー子さんの #料理家トーク 面白かったな。有賀さんの圧倒的な包容力の中、カリー子さんが思考実験を楽しんでいるような時間。レシピの分量、数字の美しさへのこだわり。いつかカリー子さんのエッセイ集(名付けるなら『数学する料理家』?)を読んでみたい!
— 松下 大樹 (@iiyudani) August 30, 2022
フードカテゴリ担当者の感想
印度カリー子さんが、なぜここまで多くの人に信用されるようになったかを垣間見ることができました。特に大事だと思ったことは、クリエイターは生み出すだけではなく、読んだ人がつくれるようにするための「橋(道)」をつくること。印度カリー子さんの場合は、「スパイス初心者」という需要のある層にきちんとターゲティングし、その人たちに届くように道をつくったからこそ(スパイスの比率をわかりやすくするなど)、スパイスカレーの裾野が広がっていったのだと感じました。今週末、印度カリー子さんのレシピ本を読みながら、スパイスカレーをつくってみようと思います!(平野)