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SF短編小説 : 遥かな未来でみかんを食う


「遥かな未来でみかんを食う」  執筆・T


荒廃した惑星/挿画:ゼロ

これは、俺と同じ「掃きだめ地域」に住んでる爺さんが
いつも話している太古の時代の話だ。

この世界が荒廃する遥か前の時代、
この世界は常に煌びやかだったらしい。

今とは違い、闇夜であったとしても常に光が世界を照らし、
捨てる程の豊富に食料が溢れ、地上から天を突かんばかりの摩天楼が存在した。

どれもこれも聞いただけじゃ、
全然想像がつかない、まったく違う世界の話を聞いている様だった。

何せ今は、瓦礫と乾いた地面と残骸と濁った空気だけが
今の世界の全てだからな。
そのせいで禄に植物も家畜もほとんど育たないときてる。

だが、幸運な事に太古の時代の物品や食料は
そう簡単に壊れたり、腐ったりしないらしい。

様々な古代の世界から続く、
古代の残骸とも呼ばれる場所にそう言った物がある。

「古代の都」そう呼ばれている場所は
特にそう言った物が多い。

無論だが危険がないわけじゃない。

滑落事故、
瓦礫による落石事故、
今の世界の環境に適応した危険な動物による殺戮、
それ以外にも様々な事故が存在する。

そんな油断すれば死ぬことが当たり前の時代......。
誰だって死にたくない、俺だって、
だが生きるためには自分の命を天秤に掛けるしかない、
生きるために死地に向かうなんて馬鹿な連中達だが、
それが掃きだめで生きる住人達の生き様だ。
だから俺も、生きるために瓦礫を搔き分けて前に進んだ。

太古の時代には、「カガク」が発達していたらしい。
爺さんの話では、当時の人類は、大陸同士を行き来し、
大海を渡り、空を駆け、そして、空の向こう側の宙でさえ渡ったと。

なんだかもう、空想としか思えない話だった。
まだ与太話だと言っていた方が現実味があった。

だけど、もしそれが事実だとしたら
俺もそんな時代に生きてみたかったな、と爺さんの話を聞いていて思った。

(まぁ結局はこうして滅んでる訳だからもう叶わない夢だけどな)と、
その時、友人たちに話を聞いていて思っていた事
を馬鹿正直に言ったとき
爆笑されたので赤っ恥をかいた黒歴史を思い出して、
頭を振って当時の記憶を振り払った。

瑞々しいみかん/挿画:ゼロ

それにしても、
瓦礫の山を瓦礫のビルから見下ろしながら思う。

なんで滅んだんだ、と当時の「カガク」とかいうものを
極めた栄華の時代ってやつだったのに
こんなになるまで滅んだ原因ってなんだ。

爺さん曰く、分からない。だそうだ。

正確には滅んだ理由が錯綜し過ぎて分からないらしい。
でっかい隕石が降ってきたとか、
カガクが発達し過ぎて自滅したとか、
友人達は面白おかしく憶測をしていた。

俺としては、自滅が濃厚だとは思ってる。
理由は、まぁ、人類なんて愚かじゃ無い奴の方が珍しい、
今の俺とか命懸けの探索の途中だしな。

過去の人類は馬鹿だなぁとは思うが、
それでも嫌いと言うわけじゃない。
どちらかと言えば好き......いや、これは好きって感じじゃ無くて憧れてるって言った方がいいな。

太古の時代の人類がどう暮らし、
どんな道具を使い、どんな食事をしていたとか、
瓦礫の山を掻き分けて出てくる遺物から考え巡らして、
想像通りなのか、それとも想像以上なのか、そう考えるだけでもワクワクする。

あと少ししたら引き上げるかーー
背嚢に溜まった遺物達を思いながら思う。

こういった遺物は、いろんな用途に使える。
遺物は自分で使う事もできるし、売って金にする事もできる。
他の奴らもそろそろ引き上げる頃だろうし、
瓦礫をパルクールで縦横無尽に飛び越え、
フックを使って降りたり、瓦礫の山を駆け抜ける。

もうすぐ古代の都を抜ける途中で民家を発見し、
自分の記憶の中でここを調べていなかった事に気づいた。

まぁ、見つけてしまったので一応探索をした。
そして今、過去の俺のその時の判断を
今の俺はナイス!と褒めちぎりたかった。

何せ目の前には10個ばかりの缶詰があったからだ。
この世界では食べ物は貴重だ。
人は生きるという行為に食事が欠かせないからだ。

ラベルは流石に朽ちていたが
缶詰自体に傷一つない。

流石古代の遺産、やはり古代のカガク恐るべしだな。

ゴクリ、自然と喉が鳴った。
探索で疲れていたし、更に腹の虫が鳴った事もよくなかったかもしれない。
自然とナイフを取り出していた。

缶詰の蓋をナイフでこじ開ける。
蓋が開いた瞬間、中身の香りが鼻をくすぐった。

これは.....果実か? オレンジ色の果実か?

おそらく、みかんだな。
仲間内では中々お目にかかれない類のものだ。

......(すまん皆、俺はこの誘惑に抗えない)

脳裏に映る友人達に謝罪をしつつ、
指でみかんを摘む。

滴るシロップを切って口に運ぶ。

身体全体が震えた様な気がした。

みかんの缶詰/挿画:ゼロ

う、うめぇ〜、流石に大声はここでは拙いので心で叫んだ。

僅かな酸味にこの甘み。
古代の人類はこんなものを食ってたのか、羨ましすぎる! 

二口目を運んだ。
別の感想を言いたかったが、結局、同じ感想が浮かんで来た。
他の缶詰が一体なんなのかわからないが
これと同じく美味いものである事に違いない。

流石に独占は良心が痛む。これは友人達と分け合うか。

探索は命懸けだ。だがそれに見合うリターンはこうして返ってくる。

まぁ大半はスカる事が多いが、
それでもやっぱり明日を生きる為に
俺はこの命懸けの世界で泥臭く生きていくだろう。

そう思いながら、俺はみかんを頬張った。

【END】

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・執筆 T さん
・挿画 ゼロ さん
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