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ショート小説 : とある日のコーヒー
![](https://assets.st-note.com/img/1732779713-jNbxoeYt8G2DdFEJRvScWy6V.png)
『とある日のコーヒー』 執筆:かおすけ
コーヒーの味なんてわからない。
カフェインが苦手で避けているし、苦くて酸味があったりして、正直どんなふうに飲んでいいのかわからない。
味がわからないだけで、マズイと感じるわけでもないけど。
でも、何となく味がわからないのに飲むのも、コーヒーに申し訳ない気がしてあまり飲まない。
同様にビールもそう。
苦くて味がよくわからない。
先日、ちょっとした旅行に友人と行ってきた。
2人で街並みをだいぶ歩き、疲れてきた頃にコーヒーしか置いていないカフェが。
友人はコーヒーが好きらしいし、私は別に味がわからないだけであって、コーヒーが飲めないわけじゃないから、他に休憩できるところもなさそうだったし、そのカフェに入った。
「お店で自家焙煎してるんですよ。」
店主が優しい笑顔で言う。
焙煎という言葉は知っているが、焙煎自体すらよくわかってない私。
常識的に知っていないといけない気もするけど。
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「美味しいです!」
一口飲んで友人が言う。
ああ、ここのコーヒーは美味しいんだ。
相変わらず味はわからないと思うけれど、私もコーヒーに口をつける。
鼻を抜けていくコーヒーの香ばしい薫り。
続いて追いかけてくる苦味。酸味。
でも、嫌な味じゃなくて、ゴクゴク飲める。
美味しいかと言われたら、やっぱりよくわからない。
けれど、私はその気持ちをつい正直に口に出してしまっていた。
![](https://assets.st-note.com/img/1732779863-Ra0GIfoibWZxyMPluUr7sB8d.png)
「コーヒーはわからないけど、美味しいのがわかる。」
店主さんは本当に優しい人で、そんな言葉にも笑ってくれた。
「ありがとうございます。」
何だろう。
コーヒーの味はよくわからない。
と言うより、コーヒーの良し悪しがよくわからない。
苦ければいいのか、酸味があればいいのか、香ばしければいいのか。
まあ、好みなのかもしれないけれど。
相変わらず良し悪しはわからない。
けれど、いいなって思う気持ちがあって、飲んでいて心が嬉しい。
美味しいかと言われたら、やっぱり苦いし得意な味ではない。
でも美味しいって気持ちになる。
不思議な気持ちだ。
「いい店だったね。」
店を出て友人が言う。
「うん、いい店だった。」
私は素直に答えた。
何だかとても気持ちが満たされた。
一杯のコーヒー。
ただそれだけなのに、たくさんの不思議な気持ちで満たされた。
コーヒーの味はわからない。
けれどまた、時間が経ったら飲みたいと思うかもしれない。
苦いし味覚には合わないけれど、なぜか美味しいと感じるこの気持ち。
色々なことに対して、このバグみたいな感覚を、私はもっと大切にしたいと思う。
【END】
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・執筆 かおすけ さん
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