【東京感光】東京へ行く。祭を見る。
この5月にも実は行ったのだが、それは息子ちゃんの接待旅。
今回は完全なるプライベート。
学生時代の部活仲間と会う。卒業して以来の再会の人もいたが、昨今のSNSのお陰が久しぶりという感覚が全くなかった。それから皆老けていない。あの頃のまんま。むしろ女性陣はキレイになってたりして、年齢って関係ないな、と感じたりもした。
あまりに普通過ぎて、なんだか感動もしないくらい、「いつもの飲み会」だった気がする。そう、いつもの、そして本当は帰ってくることのないはずの、そんな「いつもの」がその飲み会にあったことをとても嬉しく思う。
さて。写真の話。いや、カメラの話か。
飲み会以外はとにかく撮り歩くことにした。
ルートはバイト先のあった銀座から、徒歩でホテルのある湯島へ。そういうルートを計画していた。たぶんに山手線周辺でも東京らしさがあるあたり。新しいものから古き良きものがある場所だと思う。
バイト先に顔を出して、その後銀座のライカに立ち寄りズミルックス 50mm(もう旧型になっちまった)レンズの小ささによだれを垂らし、それからレモン社へ。以前は目もくれなかったライカのレンズたちを見て再び涎を垂らす。いくつかのレンズを試させてもらい、それで気が良くなったのか、さらに別のカメラ屋へ。そこでは、ズミルックスの1st、所謂貴婦人が鎮座なすっていた。それも、2本。
どれも時代としては良品なんだろうけどレンズに拭き傷があったり、鏡胴が少し歪んでいたり。ただ実写にはそこまで影響はなさそうで、鏡胴歪みもフィルターには影響していない。それでお値段が2ndより少しだけ高いくらいなんだから、これはお買い得なのではないか、とちょっと心揺らいだ。
店員さんもこの前価格下げたばかりだよー、買いだよーと勧めてくるもんだから、揺らぐ揺らぐ。
でも、ちょっと冷静になってシリアル番号を調べて見たら、これ、鏡胴は貴婦人の、レンズ構成が2ndってやつじゃないか。それならこの価格は相場のそれだと納得。試写して、どうも割と開放からしっかり写るなと思った。
とはいえ、以前、ガワは貴婦人で、レンズがセカンドというのも良いなと思っていたのでさらに気持ちは揺らぐ。
とはいえ、貴婦人というのはこのレンズ仕様が変わったものもそう呼ぶとは聞いていたけれど、こちらが初期型だと思い込んで話を進めていたのを否定なさらず、さも初期型のような感じで話を進めるのはちょいとなあ、と思いつつ結局店を後にした。
ようやっと、写真の話へ。
そうして晴海通りを来てしまったので、そのまま築地方面へと向かう。ここで大幅なタイムロスと、ルート変更が生じてしまう。当初は銀座から東京を経由して、神田、秋葉原と上り御徒町まで行こうと考えていたわけだが、もうここで大幅な予定変更となりそう。しかしそれもまたよし。
築地はこれから波除神社の例大祭らしく、人混みもあるし、法被を着た人たちがそこここにいる。ああ、江戸の祭りだ。学生の頃三社祭を見て以来の雰囲気である。
なにか違う。江戸の祭りと地元の祭りは空気感が違うように思う。いや違っていて当たり前なんだけど。
まだ担がれていない神輿を撮っていると、後ろにいたご老人に声をかけられる。法被をピシッと決めた佇まいだ。
「それはフィルムカメラかね?」
「いえ、デジタルです」
そう答えてライカの背面の液晶を見せる。するとほうほう、いいカメラだね、と応えてくだすった。
祭りは何時から始まるのか尋ね、まだ時間があることを知る。そのついでに、僕九州の人間で、たまたま東京に来たついでにここに来たんですけど、担ぎ手は皆地元のひとなんですか、と尋ねてみた。
ご老人はかぶりをふって、ここへんも昔からの人はだいぶいなくなってしまった、店を閉めて出て行った人もいる。マンションが建ち並ぶようになって、いわゆる一軒家に今でも住むような、もともとからここにいた人は少ない。
そんな話をなさってくれた。
一方で九州はいいよ、とご老人は言った。
博多のどんたくだとか、その時期になるとよそに行った人も帰ってくるんでしょう? それがいいよね。
僕は福岡の人間ではないため、その実際は知らない。だが、地元の神楽ではそういう故郷へ帰って舞をする人、観る人を知っている。だから、うん、と頷いて、東京にも「地方化」があるのを改めて感じた。そうだ、昔教科書で読んだことにある井上ひさしの「ナイン」のような話だ。あれは舞台が四谷だった。そうして、その土地らしさは、消費されていき、最後にはなくなっていき、だれでもいい誰かの街になってしまうのだろうか。
場外の周辺を歩きながら、少しずつ方向修正をし、北を目指す。出店が並ぶ通りを抜けると、あとはけっこう日常だ。しかしところどころの広場に御輿が置いてあって、そこに人だかりがあったりする。祭がいよいよ始まる、という空気がそこかしこにあって、それはとても気持ちのいい雰囲気だった。
結局、徒歩で御徒町、湯島を目指すのは諦めて、地下鉄の駅を見つけて乗り込む。新御徒町駅で降りればいいや、と思い、なんなら蔵前でやっているという鳥越神社の例大祭も見てみようと思う。僕が東京に行った日は、けっこう大きな祭がふたつもある日だったのだ。
果たしてその神社までえっちらおっちら行くうちに汗がびっしょり。湿度が高いせいか、気温はさほどではないはずなのに、すぐに汗をかく。途中遅めの食事をして(焼肉ライクにでも行ってみようかと考えながら結局行かなかった)、神社のある方へ向かう。ところどころで、祭から帰ろうとする家族連れや、法被姿の人を見かけるようになる。遠くでお囃子が聞こえたかと思えば、それは録音されたもので、そう、すでに初日の祭は、一旦小休止か、ピークが過ぎたころだったようだ。
とはいっても、一基の御輿を見つけて、近づいてみる。ああ、これこれ。三社祭のときに感じた熱気とはまた違って、落ち着きすら感じるけれど、下町の狭い通りを御輿が通り、まわりを人々がすし詰めになって移動する。この光景を見て胸が高鳴った。
翌日、雨。
鳥越神社の宮出しが6時からある。しかし雨である。その上に、昨夜はうまく眠れず、ほぼゼロ睡眠である。天気が良いのであれば、それでも早くチェックアウトして撮影しようかと考えてはいたが、流石にカメラをこの天気に晒すのは躊躇してしまう、そのギリギリのラインの降り方だ。よし、諦めよう。少しゆっくりしよう、そうしよう。
そんなわけで、2日目は大学の後輩と待ち合わせ、雨なら室内を撮ればいいじゃない、ということで、東京駅に向かって、一度撮ってみたかったkitteを見に行こうと考えた。それから有楽町まで移動して国際フォーラムなんか撮ったりすりゃあ、雨の中でも楽しめる、そう、都市部は雨でも濡れることを心配せずに撮影できる場所がたくさんあるんだよね、ってことで早速移動、ところがKITTEはまだオープンまで1時間もあるというじゃないか、じゃあとりあえず移動しちゃえってことで、そのまま銀座まで行く頃には、再び築地へ行くことになっていた。
だらだらと、文体もへったくれもなく書いて来たが、もう少しお天気が良ければ、もっと祭を撮っていたろうし、もっと雨がしっかり降ったならば、違うところを撮っていたろう。どっちつかずになってしまって、ぐっと入り込んだような祭り写真はなかなか撮れなかった。
でも、だ。 学生のころならもっと気楽に見に行けたであろう江戸のハレの日を、何にも知らずにボケーっと酒を浴びることばかりに費やして、見に行くこともなかったその分を、そのほんの少しを味わうことができてうれしいとも思う。あんなに「こち亀」で読んだ東京下町の祭を、その場にいながらにしてスルーしていたのは、後悔の一つだったから。