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【論文掲載】日本アスレティックトレーニング学会誌

株式会社ユーフォリアR&Dセンター リサーチャーの山中美和子が執筆した論文、「Internal completeness and validity of the injury reporting when using the newly established consensus recommendation in Japan」が、日本アスレティックトレーニング学会誌に掲載されました。

論文タイトル:
Internal completeness and validity of the injury reporting when using the newly established consensus recommendation in Japan

著者:
Miwako SUZUKI-YAMANAKA, Yuri HOSOKAWA, Koji KANEOKA, Norihiko SUNAGAWA, Norikazu HIROSE, Takashi KAWAHARA, Hanako FUKAMACHI, Hiroshi AONO

掲載雑誌:
日本アスレティックトレーニング学会誌 第10巻 第1号 11-23(2024)

R&Dセンターの山中です。
この論文は、公益財団法人日本スポーツ協会スポーツ医・科学研究プロジェクト「スポーツ外傷・障害サーベイランスシステムの普及に向けた妥当性評価研究」の一部として行った調査の結果をまとめたものです。私は一研究員として上記のプロジェクトに参画させていただきました。論文の内容をざっくりとご紹介できればと思いますが、その前に背景を説明させていただけたらと思います。


調査の背景

スポーツ外傷・障害 (ケガ) 調査をしたいと思ったとき、どういう状態をもって「外傷・障害」と解釈するのか、改めて考えてみると難しいと思いませんか?
例えば...

1.医師の先生の診察を受けたら?
2.チームのメディカルスタッフの評価を受けたら?
3.痛みで競技に支障が出ると感じたら?
4.何か不調を感じた時点でケガ?

上記のように外傷・障害の定義は何種類も考えうるのです。

ただ、上記の例を今一度眺めてみてください。それぞれの定義で収集し得る外傷・障害の重症度や件数は異なると思いませんか?
例えば、医師の先生への受診を検討するような外傷・障害 (1) は、不調 (4) よりも重症度の高い状態の場合が多いと思いますし、何か不調を感じたときに毎回受診するわけではないと思うので、該当する外傷・障害の件数も異なるでしょう。

このように、ひと口に「外傷・障害」と言っても、定義によっては異なる状態を指し、その定義により収集される外傷・障害の性質も変わるのです。

調査の目的に応じて異なる外傷・障害の定義を使い分けることは大賛成なのですが、エビデンスを蓄積していくという観点では、既に確立された定義や手法を用いることが重要です。定義や方法論が統一されていれば、他の調査と比較・統合することができます。

外傷・障害調査において統一された定義や方法論を用いることが重要であるという考え方は国際的にも主流となっていて、国際オリンピック委員会も外傷・障害調査の方法論に関する共同声明を発表しています。

日本においては、2022年、日本臨床スポーツ医学会と日本アスレティックトレーニング学会が共同声明を発表し、国内において従うべき指針が初めて示されました。

調査の内容

さて、前置きが長くなってしまいましたが、今回論文化した調査で何を検証したのか触れていきたいと思います。

今回検証したのは、先ほど紹介した日本臨床スポーツ医学会と日本アスレティックトレーニング学会の共同声明 の内容の妥当性です。
満を持して2022年に発表された共同声明ですが、発表されたら永久に変更がないというわけではないはずです。様々な観点で推奨内容を評価・検証して、より良いものにアップデートしていく必要があります。

具体的には、今回、共同声明の中の表3にあるこちらの調査項目の妥当性を検証しました。

スポーツ外傷・障害および疾病調査に関する提言書: 日本臨床スポーツ医学会・日本アスレティック トレーニング学会共同声明 より

調査では、まず、スポーツ現場でよくみられる外傷・障害で架空のダミー症例を作成しました。
そして、アスリートの評価や診療にあたっている(もしくは過去にそのような経験がある)様々なバックグラウンドの方にご協力いただき、ダミー症例の文章を読んだ上で上記の項目に沿って、入力フォームに外傷・障害データを登録していただきました。

ご協力してくださった皆さんは同じ情報(ダミー症例の文章)を読んでいるので、本来は入力される外傷・障害データが一致していることが望ましいですよね。

同じ情報に触れていながら、抜け漏れが多い調査項目や、回答が割れてしまう調査項目があれば、それは調査項目やその選択肢自体のわかりにくさに起因する可能性があると考えられます。
どの選択肢に該当するのかパッと感覚的に判断できなければ、回答をとばしてしまう(→データ項目の欠損に繋がる)ということや、選択肢の意味がわかりづらいことが原因で誤った回答につながってしまうということは想像できるかと思います。

そういった考えのもと、各調査項目で①どの程度欠損が発生するかと、②どの程度回答が一致するかを検証しました。

①どの程度欠損が発生するか

詳しい結果は是非論文を読んでいただけたらと思いますが、①どの程度欠損が発生するかに関して、一般的にアスリートの外傷・障害の診察や評価にあたるような有資格の方(医師、JSPO-AT、BOC-ATC・理学療法士・鍼灸あん摩マッサージ指圧師など)はほぼ抜けもれなく回答されました。

つまり、共同声明で推奨される調査項目は「欠損のないデータを収集する」という観点ではとても良い結果だったということです。
※スポーツデンティストや無資格の方は比較的欠損の割合が大きかったです。

②どの程度回答が一致するか

次に、②どの程度回答が一致するかに関してですが、まず、疾病に関する調査項目(疾病評価、疾病診断)に関しては、一致割合はとても低く、同じ情報を基にしたときにこれだけ回答が割れると実際の調査で使うのはなかなか難しいなというのが個人的な感想です。

同じ事象を評価しても「誰が記録するか」によってデータが変わってしまうのであれば、その調査項目によって収集されたデータ自体の信頼性が高くないだろうという印象を持ちます。特にサーベイランスのような多くの記録者が関与する調査では、重要な課題となります。

「発症(受傷)歴」「発症(受傷)メカニズムをどう判断するか

改善の余地あり の項目は「発症(受傷)歴」「発症(受傷)メカニズム」です。

発症(受傷)歴は、どの時点まで遡って判断すべきなのかということや、1回目の発症が2回目の発症に影響を与えていないと考えられるときにどう判断すべきなのかということが、回答が揺れるポイントだと見ています。

例えば、20歳のアスリートが3歳のときに同じ外傷・障害を負っていたとしたら「再発」と解釈しますか?それともずっと前の外傷・障害ですし、それが今回の発症に影響しているとも考えられないので「新規」でしょうか?

共同声明ではこの辺りを定義していないので、ご自身が調査をするときに明確な定義を設ける必要があるでしょう。そうでないと、先ほどの通りその調査項目によって収集されたデータ自体の有用性が下がってしまいます。

発症(受傷)メカニズムに関しては、「非接触」「介達外力」を混同される方が多かったようです。どちらも受傷部位に直接的に外力が加わっていないという意味では、似たような受傷場面を連想させるのかもしれません。非接触は他のプレーヤーや物体との接触がない状況下での受傷です。
なので、改善策としては最初から「非接触 vs. 介達外力」を考えるのではなく、まずは「接触 vs. 非接触」を判断して、接触なのであれば次に「直達外力 vs. 介達外力」を考えるという二段階で判断をすると良いのではないかと思っています。

おわりに

公益財団法人日本スポーツ協会スポーツ医・科学研究プロジェクト「スポーツ外傷・障害サーベイランスシステムの普及に向けた妥当性評価研究」は、私がユーフォリア入社以前からお世話になっているプロジェクトでした。

プロジェクトが始動した当時、私自身は外傷・障害調査に明るいわけではありませんでしたが、このプロジェクトをきっかけに外傷・障害調査の方法論に関する専門性を深めることができました。

3カ年のプロジェクトの中で2編の学術論文を公開することができ、今では外傷・障害調査の方法論に関する知識は私の大きな強みになったと感じます。

ご一緒させていただいたプロジェクト班員の皆様には心より感謝しています!

「スポーツ外傷・障害サーベイランスシステムの普及に向けた妥当性評価研究」の成果としての学術論文

Suzuki-Yamanaka M, Hosokawa Y, Kaneoka K, Sunagawa N, Hirose N, Kawahara T, Fukamachi H, Aono H. Internal completeness and validity of the injury reporting when using the newly established consensus recommendation in Japan. Japanese Journal of Athletic Training. 2024;10(1): 11-23.

山中美和子, 吉村 茜, 細川由梨, 砂川憲彦, 広瀬統一, 金岡恒治, 川原 貴. 本邦におけるスポーツ傷害(外傷・障害・関連疾患)調査の方法論に関するシステマティックレビュー. 日本臨床スポーツ医学会誌. 2022;30(3):781-796.

外傷・障害調査の方法論をもう少し詳しく知りたいという方は、是非こちらもご覧ください!▼

山中美和子, 眞下苑子, 砂川憲彦. 共同声明・提言書から読み解くスポーツ外傷・障害および疾病調査手法. 日本アスレティックトレーニング学会誌. 2022;8(1):3-10.

こちらは今回のプロジェクトとは無関係ですが、国際オリンピック委員会や各種競技団体が発表した外傷・障害調査の共同声明や提言書 15編を気合いで読み解いています。


ユーフォリアR&Dセンターでは、スポーツ科学領域におけるさまざまな研究課題の解明や新技術・サービスの開発、そして社会実装に取り組むため、研究活動で得られた成果を国外・国内問わず積極的に発信してまいります。


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