鬼鈴『寄せ集めふるはうす』――掌編は四つ。宇宙は四つ
『寄せ集めふるはうす』江月堂、2015を読んだ。同人誌である。
2013年から2014年までのコミティア発表作を一冊にまとめた本である。四冊が一冊になっているのでかなりのボリュームだ。面白かった作品を特に時系列順でないがピックアップしていく。
『猫も杓子も』
夜ふかししたらネコミミが出てくる世界で、女子高生が起きたらネコミミが生えていた。
ネコミミには種類がある。『振りネコミミ』『想われネコミミ』『想いネコミミ』などだ。この世界のネコミミは恋愛系だが、そうなると「告られて一度振ったがよく考えたら好きだったかもしれないネコミミ」や「同性になんか告白されて反射的に断ってしまったがドキドキが収まらないネコミミ」「幼い頃に結婚の約束をしたお姉さんと十年ぶりに再会したら人妻だったが頭には依然としてネコミミがあるし常にこちらを向く」も射程内に収まる。しかしそもそもそういうポケモンみたいな区別で良いのだろうか? 我々はネコミミだけでなくネコシッポやネコボイスも同様にまとめるべきでは?
『ネコミミ概論』
ネコミミを研究する教授の話だ。ネコミミはどうやら古事記にも記されている。南米のインディオみたいな羽飾りもどうやらネコミミだったらしい。そうなると古今和歌集や万葉集にも隠れネコミミが収録されていた可能性は否めないし、〈去年今年貫く棒の如きもの〉もネコミミ一句であったと否定できなくなる。おそらくファラオや万里の長城もネコミミの産物なので、これは正直ホモサピエンス全史はネコミミ全史と称しても過言でなくなる。これに対抗できる存在といえば……イヌミミだ。
『長閑な湖畔』
人魚が湖畔に佇む。
人魚と熊が対決する話がある。人魚が熊と戦ったが、石をメリケンのように掴み、人魚は熊を眉間ごと貫いた。かなりの肉体的な強さなので、人魚は古代の荒ぶる神々か侍の子孫であることが証明されている。
この場合に検証すべきは人魚と人間の戦闘ケースだ。水場では人魚に地の利がある。フルアーマーの騎士団が水場周囲を囲んだとしても、数人の人魚がメリケンを握ったら勝率はゼロに等しい。あるいは人魚がモリを担いで攻めの隊形になっても詰みだ。白兵戦では勝てない。
幸い人間にはダビデの時代から、飛び道具という裏ワザがある。水場から離れたところに拠点を構え、人魚の警戒エリア外から砲弾を放ち続ければ、湖ごと人魚を爆砕できるだろう。一日近く砲撃を続ければ地形が変わるに違いない。
問題は人魚による魔法報復である。あるいは湖に設置されたカウンター魔法陣でもある。対処法としては砲撃前に防御術者を用意しておくか、物理的に防ぐならば塹壕を掘ることだ。魔法用の銃眼から砲弾をぶっ放すのだ。最もスムーズに行くのは魔法範囲外からのエリア指定爆撃だ。
結論としては人魚には爆弾をぶつけるのが手っ取り早い。
『迷子でっていう。』
地図を見ても迷子になることがある。これはマジな話で、なぜかというとケータイを見ても「ケータイの方角」と「現実に自分が見ている方角」とがズレているからだ。目的地が有名なスーパーならば大通りを三十分ぐらい歩けばたどり着けるが、欲を出して住宅街をショートカットしようとすると、悲惨なことになる。
とにかく住宅街は狭くて曲がりくねっている。そのたびにケータイを取り出してあっちこっちに右往左往するのだが、姿は不審者なので、脱出しなければいけない。このシーンにおいて時間は味方にならない。もし夕方になれば、時間とともに景色が変わる。暗くなるので余計に道がわからなくなる。
『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』というゲームでは、主人公のリンクが三日間以内に世界を救えという無茶な指令を出されて、時間に追われながら冒険していた。あんな風に「あと何分……あと何分……」と反芻しながら歩いていくと、心に余裕がなくなってくる。そうなるとふとした拍子に道から外れているし、ケータイを取り出してもバッテリーが減っているので更に余裕が減る。最終的には訳がわからなくなり、交番で道を尋ねるかタクシーを呼ぶことになる。
こうした面倒を解決するにはどうすればいいか? 方向感覚を鍛えるのだ。感覚を鍛えるには? 近場で迷い、ピンチになり、五感を最大限まで研ぎ澄ますことだ。私はある日それを実践してマジで迷子になったことがあるし、あれから住宅地には一切入らないで大通りを歩くことにしている。効率は捨てた。
《終わり》
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