ピックアップしたい逆噴射作品2021(20211213)
とつぜん日本から秋が消えて冬になりました。たいへん寒く我々はゼリーのように震えるしかできない。ところで、今回は404本(death・of・death・・・)の逆噴射小説大賞2021の作品ピックアップをしていきたいと思います。今回も粒ぞろいの作品が多い! 皆様もぜひ読書スコップ片手に読んでいただければと思います。
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※ピックアップする前に※
私は興味の幅が狭い! 特にハイファンタジーやファンタジー類が苦手です。なぜなら異世界や八大陸の勢力図などが出てくると、頭の中でイメージしながら読むどころではなくなり、とにかく文章を読むだけで精一杯になるからです。ですのでファンタジー類はあまり取り上げられていません。「これはお前の既成概念を打ち壊すぜ!」というオススメの作品がありましたら教えてくださると幸いです。
寸評はできる限り簡潔なコメントを心がけていますが、もしかしたら長すぎるかもしれません。そんな時は「こいつは文章の方向性が明後日を向いてるな」程度で流してくださるとうれしいです。
選考基準は「この作品面白いなあ!」で決めています。モノサシに決めているのは800字の本編とタイトルです。ヘッダーは多少影響を与えます(でも挿絵とか入ってるとびっくりします)。
それでは始めます。
1:ライブ絵師JIN
一行目からこんな展開ある!? と読者を思わせる造りが良いし、タイトルのヘッダーからの成長具合から目が離せない。
小説のスタイルは数多くありますが、この作品は単文による造りによってかえって長々しく書くよりも力強さを感じさせる作品。隊長、ネット配信、バズ……配信ネタを使いこなしていて、これからどうなるか期待が持てる。配信する方の事情はよく知らないので、知的好奇心も刺激されます。
スパチャ的な観客が面白さを増幅させます。似たようなサービスだとニコニコ静画での、1ページ1ページでコメントが入る造りを思い出します。運営による刺激と観客による刺激のダブルヘッダーが脳に効く! 小説としての骨格ができているので、ここから桁上りに発展していきそう。
2:代書屋ゴンドウ
【俺】という一人称と、ソリッドな法律用語が適度にミックスされています。仕事モノの小説だと、自動的に一人称が【私】や【僕】となり、キッチリとしたホテルマンやOLの小説を思い浮かべていたので、自分の思い込みを一掃してくれる作品でした。
仕事モノの小説はそれだけで知的好奇心が刺激されるのでアドバンテージがあり、更にこの小説では、パルプ的な勢いがプラスされているので、スピード感を持って小説を読むことができます。好印象。主人公にビシバシ小役人を成敗して欲しいし、いっそうスケールの大きな事件も担当して苦戦しつつ、最終的には勝って欲しい。
3:ドラゴン銀行
メガネをかけた魔法使いの話を引き合いに出して申し訳ないのですが、あの話に出てくるゴブリンは基本的に超強い存在です。ゴブリン銀行に主人公が立ち寄った時に、「君のシマはまあいいけどこっちに侵入したら容赦しないからね?」と、ファンタジーにあるまじき、主人公をやすやすと袖にしてしまう強さです。読んでいて、こわっ……古の種族つよ……と思いました。
この作品に出てくるドラゴンはまさにそのゴブリンそのもので、主人公が戦って勝つとか和解するとかそういうものはナシで、Sekiroの序盤に出てくる侍大将みたいにひよこプレイヤーをひたすら蹂躙していく存在です。私は十回ぐらいこの中ボスに負けてコントローラを投げ飛ばしたくなりましたが、作品ではそもそも死が許されません。プレッシャーがあります。継続してより強いプレッシャーを感じさせて欲しいと思いました。あと単純に髭が長い女性ってイメージが難しいので、挿絵が入るとなお嬉しいです。
4:サラエボの日
時間遡行モノ(今回は私の作品も含めて多く観測している気がする)ですが、一二を争うぐらいスケールが大きいです。なにせ舞台が1914年のオーストリア=ハンガリー帝国。絶妙な時代チョイスなため、私の頭では当時の人がどんな服装をしてるかとか、カフェのメニューでは何が人気なのかわからないほどですが、文章は簡潔なのでスッと入ってきます。
サラエボ――セルビア――較正者。007やTENETを思わせる多国籍なミックス加減が面白く、話の引きも良い。それに、複数の時間軸を絡め合わせるタイムパラドックスは、ほぐすのが本当に難しく、読者でさえ追っていくのが大変なので、作品が進むとどんな感じに調理されていくのか楽しみです。
作中、主人公らの世界は歴史の流れから切り離されていますが、切り離されるとどんな現象が起こり、どんなデメリットが生じるのかが具体的になっていたら、作品の枠に説得力が増した気がします。例えば、織田信長が本能寺を脱出してしまうとか、アメリカが空襲されてしまうとか、太宰治や芥川龍之介がムキムキマッチョマンになってハイカラな老後を過ごしてるとか……
5:微笑みの多元樹
COD:MW(ちょっと古い)を思わすスペクタクル性がたまらない。時間遡行作品か、あるいはパラレルワールドを思わす状況ですが、特に明らかになっていません(でもタグには時空SFとありますね)。
しかし、ワールドトレードセンター……5.56mmNATO弾……三等陸尉……などの用語の配置が、絶妙に明らかになっていない状況の中でも、読者に行間を読ませ、イメージさせる強さを持っています。タイトルの存在は本文には登場してこないのですが、ギリギリでイメージできるというか、配線が繋がらなさそうで繋げられそうな感覚が良いと思いました。ロシア人も登場してますが、共通語って英語でしょうか?
6:旗片の風
用語からフィールドの説明に至るまで、簡潔に著述して、簡潔に話を動かすテクニックが、シンプルに面白い。矢取り女や揚弓場の用語について知らなかったので、コトバンクで調べました。
メインの展開は軍人と矢取り女のやり取りに終始しますが、バックグラウンドが先に挙げたように読みやすい。矢取り女の能力(?)については明かされないままですが、すぐ明白になるより、明かさないほうが次へ引っ張っていく牽引力となるので良いかもしれません。
しかしこのまま作品を展開するとすれば、正式な歴史小説として踏み入る必要がでてくるでしょうし、作る側としては非常にハードルが高いです。しかしこの小説には技術、骨格、筆力があるので、きっと良い作品になると思います。
7:Escape The Zone
文字強調や引用、>など、記号をふんだんに使用することで、プレイステーション的な演出、チャットログ的な混戦模様を作り出しています。この強調路線を続けながら、320枚の長編小説(あるいは短編)にもっていけるか……!? という懸念はあるものの、途中途中で差し挟まれる映像的な演出がピカイチ。なので今回ピックアップしました。
小説というよりはMVの脚本、絵コンテを肉付けしたイメージです。この色合を保たせたまま発展していって欲しい。
8:越海教師芝居学舎
外国人が日本の伝統芸能に挑戦する骨太なテーマですが、ハードルが低いのでがスイスイ入ることができます。開始数行で読者はパブリックスクールに入ることができて、クララと水谷のコンビに出会うことができるし、水谷の背景や、クララがどんな調子で日本語に興味を持つのようになったか理解できる。
歌舞伎をよく知らない人間(たとえば私)は、読んでいて「弁天小僧? 村芝居?」とわからなかったので、NHKのサイトで調べました。
このサイトからの引用です。
弁天小僧は女装した少年。もしクララが弁天小僧を演じるとなれば、もともとは女性が演じるので、舞台上での華やかな感じが強調されそう。
「弁天娘」には登場人物も多いので、拡張させがいがありそう。ダラスのパブリックスクールについて私はよく知らないので、知的好奇心も刺激されます。しかしパブリックスクールの音楽室って日本の学校にある音楽室と違うのかしら。
9:銀の網
一行目の「利三は警察に通報しないまま、残りの弁当を配り終えた。」というところで静かに雰囲気が高まります。「行間を読む」という言葉がありますが、この作品ではまさしく「行間が読める」。文章に登場していない間も、利三が何をしたのか、イメージが喚起されます。
800文字の中に利三の過去や、現在に立ち込めている不穏な影、それでいて作品をストップさせず、チャキチャキと方向性を決定するくだりが圧縮されつつ配置されている。とてもおもしろい作品です。
タイトルも優れていることがこの作品は伺えます。単純にシルバー人材=銀という意味かもしれませんが、あるいはそれ以上の意味を予感させるものがあります。「網」という言葉単体でも、利三が張り巡らせるか、第三者による網なのかも想像が膨らみます。一押しの作品です。
10:『垂乳根(タラ・チネ)』
真面目な人間が真面目なことをしながら、読者にはワンテンポ抜けて見えることがある――そういうトンチキな作品です。しかしトンチキといっても悪い意味でとらないでほしい。ニンジャスレイヤーはニンジャがたくさん出てきてなにかあるとスシばかり食べるのでトンチキかもしれないが、実際にはリアルな登場人物たちが息づいています。映画モータルコンバット(2021)なんて魔界からリザードマンと阿修羅像みたいな敵キャラがやってくるものの、人物たちの葛藤は本物です。
さてこの作品は、主人公である岩田が作業主任と対立しています。どうして対立しているのかというと、岩田が先祖代々守護してきた樹が切り倒されてしまいそうなので、体を張って止めようとしているのです。スティーヴン・キングが書いた『最後の抵抗』を思い出します。
明らかにこのままでは、チェーンソーを持った伐採部隊に岩田は負けるでしょう。岩田の武器は木刀であり、そもそも個人の抵抗だからです。しかし終盤、第三勢力らしき人物らが会話をしています。たぶん岩田に加勢するのかもしれませんが、単に場を引っ掻き回すだけで終わるかもしれません。いずれにせよ諍いは拡大していくでしょうし、どんどんスケールが大きくなるだろう物語を相手に読者はどう対応すれば良いのかというと、ポップコーンとコーラ(オレンジジュースでもいい)を頬張りながら、映画のように眺めていれば良いのです。きっとスカッとしたエンターテイメントが出現する気がします。
今回は十作品の粒ぞろい(というより強豪が多すぎて書ききれませんでした)を紹介しましたが、投稿作は404作品と、つまり四十分の一です。再び思いついたらピックアップをするかもしれません。もしかしたら別作品の感想も書くかもしれません。
また私の投稿作とライナーノーツも投下しておきます。
エルフ連続殺人事件の犯人を追う男。
コンビに固執した男が破滅し、もう片方が破滅に巻き込まれる話。
世界は危ない――けれどもわたしはリクソウさんとゆく。
あとがき
《終わり》