欧州:脱炭素とエアコン
1月16日(火)、欧州議会がEU Fガス改定案を正式採択したとのニュースが流れた。1年半に及ぶ検討・交渉の結果、一部のエアコン・ヒートポンプ等暖房器具に使用されるFガスの使用禁止などを含む同案は、EUの脱炭素目標に大きく資する内容になったとのことなので、その概要をサクッとまとめてみた。
記事要約
代替フロン3ガスと呼ばれるFガスは、CO2に比べて温室効果ガスが高く、その度合いがGWPという係数で表される。
EUでは、これらFガスに対する規制が2006年に始まり、今回2度目の改定を迎える。
改定内容は、既存のHFC総量規制と高GWPのFガスを使用する特定機器の販売禁止を大幅に強化するもの。今後、閣僚理事会の採決を経て正式発効予定。
1. そもそもFガスとは?
Fガスは、UNFCCC下で採択された京都議定書で規定されている6つの温室効果ガス/GHGの内、HFC(ハイドロフルオロカーボン),PFC(パーフルオロカーボン),SF6(六フッ化硫黄)を指し、日本では代替フロン等3 ガスと呼ばれる。EU域内のGHG総排出量の内、2.5%がこのFガス排出に起因する。
CO2に比べて温暖化効果が高いFガスは、各種ガスが大気に放出された場合に地球温暖化に与える影響を地球温暖化係数(GWP)というもので測定されている(以下一覧表)。日本の家庭用エアコンで使われているのがR32と呼ばれる冷媒で、GWPは675となる(R32を1g大気中に放出するとCO2を排出した場合の675倍もの温室効果がある)。
2. EU Fガス規制概要
①これまでの経緯
これらFガスの大気中への排出を抑えるべく、EUは2006年にFガス規制を制定(EU規制 842/2006)。この時点では、Fガスを使用する各種機器の定期点検の義務付けや使用済み機器からの冷媒回収、作業員の訓練・資格認定等、冷媒漏れの防止を主軸とする内容であった。
そんなFガス規制が改定されたのが2014年(EU規制 517/2014)。この時は、冷媒漏れの防止強化もなされたが、それ以上に主眼に置かれたのが、各種機器で使用されるFガスの低GWP化。そのため盛り込まれたのが、まず、高GWP Fガスを含む特定機器の販売禁止。例として、冷蔵庫、移動式家庭用エアコン等が挙げられる。これら製品のメーカーは、低GWPのFガス冷媒かCO2などの自然冷媒と呼ばれる冷媒への代替が求められた。
もう一点がHFC の総量規制(段階的削減)と割当制度。2030年までにEU域内で売買されるHFCを79%まで段階的に削減(2009-2012年平均値比、CO2換算ベース)するというもの。欧州委員会が毎年決まったHFC販売割当(クオータ)をHFC 生産者及び輸入業者に割り当て、その割当量が年々減少していくシステムで、2015年に実施開始された。
②2023年のEU Fガス規制改定
脱炭素を目指すEUグリーンディール政策の一環として、Fガス規制のレビューが開始され、欧州委員会が改定案を公表したのが2022年4月、それから約1年半にわたって欧州議会&閣僚理事会で審議され、 暫定合意に至ったのが2023年10月。
合意内容は、第一に上述のHFC総量規制の強化。2015年比で2030年までに95%削減(&100%減by2050)が求められ、HFC販売割当が有料になる(半導体使用に関わるものは除外)。第二に特定機器の販売禁止の強化。
モノブロック/一体型ヒートポンプとエアコン(<12kw)は2032年までに、スプリット型ヒートポンプとエアコンは2035年までに販売禁止。
昨日流れたニュースは、上述の暫定合意内容を正式合意とする旨、欧州議会が決定を下したお話。今後理事会側でも可決され、EU官報に正式発効となる。
なお欧州議会内の審査を主導した緑の党のBas Eickeman(オランダ出身)は以下のように述べている。
一方、空調機器メーカーは正反対の意見。欧州の冷凍・空調・ヒートポンプメーカー団体EPEEは以下のように述べている。
③官報発行
2024年2月20日にFガス規制改定案が官報発行。
3. 思ったこと
現行欧州委員会が脱炭素に関して、かなり前のめりな姿勢を示している旨は以前取り上げた。今回のFガス改定は、その脱炭素目標を具現化するための既存環境規制のさらなる強化の一例。同様の動きは違う業界でも起こっており、以前自動車業界の話を取り上げた。
スプリット・エアコン/ヒートポンプのFガス使用の禁止などはR32に注力してきた日本勢にとっては、時間があるとはいえ冷媒代替が必要になるので痛手ではないだろうか。一方、「自然冷媒」に注力する機器メーカーや冷媒生産者にとっては朗報となる。
ただ、大局的にみれば、建築セクターの脱炭素化のためには、化石燃料暖房器具からヒートポンプへの代替が必須となるがまだまだ価格が高く、私自身を含め大体の人は手が出ないのが現状。それを推し進めようとしてドイツ連立政権が失敗したばかり(詳細は以下のリンクから)。
その中で、さらにコスト/価格をあげてしまいかねない形でEU規制が制定された、と欧州懐疑派の人たちは解釈するのだろうなあ、と率直に思った次第。
他の記事もご覧いただけたら幸いに思います。