吉例顔見世 上方を継ぐもの
5年ぶりの顔見世。お目当ては三部の「鴈のたより」コテコテの関西弁で台詞をやりとりする主人公五郎七(ごろひちと発音します)に幸四郎さん、脇を固めるのは上村吉弥さん、松嶋屋のお弟子達、そしてバカ殿に我當さんの長男進之介さん。
指導は仁左衛門さんとあって、随所ににざさまの可愛らしさを見せる幸四郎さんは上方の役者が支えられながら関西弁爆裂。あとは関西人の間合いを体に入れてもらえば完璧。仁左衛門の上方感を全て吸収して上方の華になってくれないだろうか。
歌舞伎俳優の中でおかしみのある上方歌舞伎を愛してくれているのは幸四郎さん。近松の悲劇や狂気を表現出来るのは二枚目でかつ笑いが大好きな幸四郎さんが一番だろう。
山城屋の芸は猿之助さんが継承してくれる。
いつか二人で「曾根崎心中」やって欲しい。
進之介さんは性根に合ったお役過ぎてちょっと悲しい。身長もあり年を重ねて面立ちも十三世に似てきたのに。1年に1度くらいしか歌舞伎の舞台に立たなくてはファンもやってられない事だろう。
特筆すべきは千壽さんがバカ殿の愛妾として大抜擢されたこと。
姿形も美しく声も愛らしい千壽ちゃんだが硬いよ。硬すぎる。もっと自信をもって!
天国の秀太郎さんに喜ばれる芝居をして欲しい。一般人から出発して20年以上教えを受けて来たのだから自信さえ持てば上方の真女方として舞台の真ん中に立てる。同期より出世するのが支えあう同期への恩返しにもなる。
高麗屋にはお相手になる女方は猿之助さんが勤めるが猿之助さん自身も座頭、いつもお相手を勤めると言う訳には行かない。秀太郎さんと言う旦那を失った今、東京の仕事がメインになるだろう。松十郎さんはにざさまの元で、千次郎さんは既に色んな御一門で重宝されている。
立役も出来てしまう千壽ちゃんは今こそ真女方として素敵な主役に引き立てて貰う努力をして欲しい。
秀太郎さんの柔らかい上方の女を歌舞伎座で思う存分発揮してくれる事を心から願う。
三部のもう一つの番組は「蜘蛛の絲梓弦」(くものいとあずさのゆみはり)
おもだか屋以外では愛之助さんがよく掛ける演目だ。こちらは小姓、太鼓持、座頭、傾城、蜘蛛の精の五役、猿之助さんは最初に童で登場してからの6役で上演している。
土蜘蛛、蜘蛛絲梓弦など糸を使う演目の面白い所はお家お家で糸が違う。
糸の投げ方もあるだろうがふんわりと滞空時間が長い糸歯おもだか屋。今回は細く繊細な糸が相手に思いきりかかってしまったり、後見の回収が遅くて舞台上に残ってしまい、立ち回りが少々やりにくそうだった。
愛之助さんの女方は忘れるくらい久しぶり。お痩せになったかして美しかったが、観たいのはこれじゃない。
愛之助さんはもっと上方歌舞伎に力を入れて欲しい。
秀太郎さんのお弟子の後ろ盾は愛之助さんなのだから。映像の仕事で歌舞伎に興味を持って貰うなんて所詮無理な話。意欲的な上方歌舞伎に精進願いたい
#吉例顔見世
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