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人間はいくつの言語まで使えるのか

 アジアに住むと「1言語しか話せません」という人にはほとんど見かけません。何かしら別の言語を話す人が多いのですが、さて、ここで思うのが、人間はいくつの言語までしっかりと使うことができるのかです。

 眼科医の新名美次さんは40数言語話せるそうです。通訳の種田輝豊さんは20カ国が話せたそうです。それぞれ本が出ているので、詳しく知りたい方はアマゾンなどでお探しください。

 こんなに話せる人は世界をみてもそれほどいないとは思いますが、アジアに住むと4~5言語はわりかし普通にみな話します。これは多民族社会だからというのがあります。数言語話せないとアジアでは意外に不便で、生活がままならないことが多い。

 僕は今、マレーシアに住んでいますが、周辺をみても特に華人は北京語、広東語、英語、マレー語を話すのは普通です。これに福建語や客家語、潮州語が加わり、周辺諸国のタイ語やインドネシア語を話す人もざらにいます。こういった環境のなかで生活してきたため、僕もいつのまにか7言語は話せるようになりました。

 日本の方々は複数言語話せると「すごい」と褒めていただけますが、アジアに住むと至って普通。生活のなかで使わざるをえないため、話せないと先に進まない。例えば、クアラルンプールに住むと、中華レストランに行っても注文時に英語またはマレー語、会計のときに広東語または北京語というのは普通です。ウェイターやウェイトレスはミャンマー人であることが多く、彼らは英語やマレー語を話すため、注文時にその言語を使い、レジはたいがい華人なので、そのときに広東語ということが多いのです。英語だけですべてを押し通すことは可能といえば可能なのですが、それでも無理が出てきます。人によっては全く話せない人もいるので、結局複数言語を使わないと会話が成り立たないのです。

 僕は今、マレー半島の東海岸に住んでいますが、ここでも同様。普段はマレー語を使っていますが、華人系の店に行けば、北京語を使います。また、タイ国境に接しているため、タイ語を話せる人も多い。逆に英語を話す人は医者ぐらいで、僕の場合は病院に行くとき以外は使いません。要は民族によって業種が違うため、言葉を使い分けていく必要がマレーシアではあるのです。インドネシアではインドネシア語一本でいけそうなものですが、それでも華人の店にいくと北京語で話したほうが実は喜んでもらえうというのもあります。地方にも多くの言語があり、バリ島にはバリ語があります。タイもタイ語だけでいけますが、ムスリムはマレー語を使うし、東北地方にいけば、そこの言語もあります。カンボジアやベトナムも同様といっていいでしょう。

 こういう環境になっていくと、やはり4~5言語話すのは普通になるのはおわかりでしょうか。僕の友人の中には12言語を話す人がいます。英語以外はアジアの言語を話すことができるのですが、毎日使っているわけではなく、年に数回の旅行のときにいくつかの言語を使うという程度らしいのです。

 毎日複数言語を使っていれば、それらの言語はある程度は流暢のまま維持できます。しかし、長年使っていなかったりすると、だんだん人間は忘れます。僕も20年前にタイ語をバンコクで習いましたが、10年以上はほぼ使っていなかったので、再び使いはじめたころはなかなか大変でした。毎日のようにほぼその言語に触れていないとどんどんレベルは落ちるので、やはり身につけた言語はメンテナンスが必要です。

 そう、このメンテナンスは実は非常に重要。先に上げた種田さんの『20カ国ペラペラ』は語学を勉強する人にとっては面白い内容ですが、メンテナンスについては書いていないのです。最初に勉強しはじめるときの勉強法についてはかなり詳しく書いておられますが。僕は昔フランス語をやっていましたが、メンテナンスを何年もしなかったので、結局使える言語にはなっていません。フランス語を使う環境が今はないので、仕方ないといえば仕方ないのですが、少なくとも毎日触れていかないと能力は落ちていくだけなのです。

 このメンテナンスのことを考えると、習得してしっかりと使える言語数というのは5言語あたりが限界ではないかと思います。語学には読み書きとリスニング、スピーキングがありますが、どの言語も勉強してもこの4つを全言語均等なレベルを維持している人は稀でしょう。スピーキングだけこの言語は達者だけど、その言語では書けないという人も多いのが実情です。5言語以上でこれら4つを均等に勉強していくというのはなかなかの至難の業だと思います。

 僕は12言語習得をずっと目指していますが、やはり習得した言語はメンテナンスの時間が必要なので、なかなか新しい言語に移れません。あと5言語ぐらいは流暢に使ってみたいものですが、スピーキングだけ流暢に終わらせるかもしれません。いずれにしても複数言語を操るというのは楽しさは多いのですが、レベル維持の努力は常に必要で、苦労するといってもいいでしょう。

 

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伊藤充臣
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