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議論のデザイン

この記事は2023/03/17に配信を行なったメルマガの転載です。

みなさん、こんにちは。
エスノグラファーの神谷俊です。

春になり、少しずつ温かくなってきましたね。

この時期になると、卒業というキーワードがあちこちから聞こえてきます。昔から、この「卒業」というキーワードは、なんとも言えない気持ちを私のなかに呼び起こします。もの悲しいような、応援したくなるような……。「切ない」とはこういうことを言うのか。

もしかすると……いま自分は「切ない」のだろうか。ややセンチメンタルな心持ちで「切ない」について調べてみると、切なさの語源は「大切」なのだそうですね。

”心が切れるほど大事にしたいものを想う気持ち”…だそうです。「卒業」というキーワードにそこまでの気持ちが生まれているわけではありませんでした。以後、「切ない」の乱用に気をつけたいと思います。


不毛な議論とは

さて、今回のコラムのテーマは「議論」です。どうしてこのテーマを取り上げたのか。

SNSなどで時折、不毛な論争を目にする機会が増えてきたからですね。先日も「外国人お断り」を看板に書いているお店についてSNS上では論争がありました。それを「差別である」と主張する人と、「商売なのだから致し方ないであろう」という人の対立でした。

話し合っても、両者がそれぞれの立場からいくらでも「正義」を主張できてしまう。自らの「正義」を発言者が信じるほどに、相手を論破する筋道をなんとか探ろうと議論に注力していく。

しかし、いつまで経っても全員が納得するところには落ち着かず、「誰がどれくらい賛同したか?」という多数決の論理で鎮火されるか、当事者や周囲の熱が冷めるかして、1つのコンテンツとして終焉する。これは本当に時間や能力がもったいないなと思うのです。

このような論争や対立は、SNS上に限ったことではありません。多様性についての意識が高い時代、個々の主張や発言が拡散しやすい時代です。

きっと子供たちの学校でも、あるいはご家庭でも、もちろん職場でも、どこでも起こりうることなのかなと。このような時代だからこそ、私たちはもっと議論の仕方について学ぶべきなのかもしれない。個々の意見を提示する場を、適切につくり、守ることが社会の発展に進むのだろうと思っています。


不毛にしないための作法

以下では、私が議論をする際に注意していることをいくつか提示します。これを押さえるだけで、かなり議論は発展的になります。

  • 目的への問い:話し合いの目的は何か?

話し合う前に、何のために話をするのか?について共有することが大切です。
私たちは何を目指して、互いの意見を提示していけば良いのか。これが見えなければ、議論は「迷子」になるでしょう。

ここで注意したいことは、その会議の種類・手段・スタイルを「目的である」と認識してしまうことです。例えば、「営業会議」とか「情報共有」「問題解決」といったことを議論の目的だと理解してしまう人も少なくありません。

目的とは、その数歩先にあるものを指します。「営業会議」をすることで、営業チームがどのような状態になることを目指すのか?あるいは「問題解決」をすることで、顧客に対してどのような恩恵をもたらすことにつながるのか?そういったビジョンやミッションに紐づく目的が議論の初めに掲げられているかが大切です。

たとえばですが、会議を「これまでの営業プロセスの問題点を洗い出し、顧客に届ける価値をさらに拡大するためのアイデアを募る会議」と位置づけるだけで、参加者は「どのようなこと」を「どこまで」意見として提示できるのか、目途を立てることができるでしょう。

目的は、議論におけるスタートであり、ゴールです。これが無ければ本来、議論は成立しません。参加者が多様な視点で意見を述べ、結果として議論がかみ合わなくなってしまうケースは意外と多い印象です。

  • 参加者のコンディションへの問い:意見を持っているか?

目的を定めたうえで議論を始めてみると、沈黙が続く……。

そういう企業も少なくないかもしれません。このような状況に対して「心理的安全性が担保されていない」といったご意見もあるかと思います。確かにそういった側面もあるのかもしれませんが、それだけではないケースが多いのではないでしょうか。

沈黙を続ける会議の参加者がいたので、会議後に話を聞いてみたことがあります。その方が仰るには「言うべきことが何もない」ということでした。つまり、議論のテーマに対する情報(経験・知識など)が明らかに不足しており、そのために「何も考えられなかった」ということでした。

その方曰く、知識や経験を持っている他の参加者と対等に意見することが「申し訳ない」と感じ、他者に「任せる」ことにしたそうです。参加者のコンディションが整っていない状態では議論は発展しません。アジェンダは、参加者コンディションを整える使用しましょう。議論をするまえに各自が確認しておくべき情報や知識について提示をしておくことが大切です。


  • プロセスへの問い:私たちの話し合いについてどう思うか?

議論は、中断することが実は重要だと思っています。良質な議論を整えるうえで最も大切なのは、「良質でない状態」を放置しないことです。より良質な議論にするために、できることはあるか?話し合いを中断して、みんなで考える時間が合っても良いのではないでしょうか。

どうして意見を出しにくいのか?
ズレを感じているのはどうしてか?
私たちの議論は、目的に適っているのか?

議論そのものをメタ視点でとらえる。そうすると、「いつ発言していいか分からなかった」「聞き逃したところがあり、それ以降、意見を言えなくなった」「トイレに行きたかった」などの意見が出てきたりする。これらをメンテナンスすることで驚くほど話し合いが活性化することがあります。

人間ですから、様々な事情が「ノイズ」になって議論に参加できないことはあるでしょう。そのことを積極的に認めることで、話し合いの場を参加者にフィットしたかたちにすることができます。

というわけで、今回は議論をテーマに3つほどポイントを提示しました。

話し合いは、集団がより良い方向に向かううえで必要不可欠なプロセスです。このプロセスが機能しなければ、組織的な活動が停滞するでしょう。

その意味で、議論は組織開発の原点と言ってもいいかもしれない。話し合いの巧い会社は伸びるはずです。ぜひ、みなさんも自社の会議のテコ入れを図ってみてください。

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