この手作り英語教材がすごい!―100%の小学生が伸びを実感
◇子どもたちが目を輝かせる英語の授業を
中学校・高校と英語は好きだったものの、ペラペラとネイティブスピーカーのように話せるわけでもなく、子どもたちに英語を教えることになるとは思いもしなかった、教員歴17年の松倉邦幸先生。2008 年度に、小学5・6 年生を対象とした外国語活動の授業が始まるとなったとき、「どう教えればいいのか?」と悩んだそうです。
そんなとき、当時赴任していた小学校で、ある教材と教育法に出会います。それは、この学校が取り入れていた民間の学習塾・花まる学習会のメソッド(この学校は、官民一体の先駆けとなった小学校でした)。テンポのよさが特徴で、子どもたちが目を輝かせながらその授業に取り組んでいました。
松倉先生はもともと教材作りに熱心。この授業の特徴を取り入れた、「英語モジュール(英語の単時間学習)」作りに取り組み始めます。子どもたちから意見を聞きながら、時間配分や問題のボリュームをなどを試行錯誤。子どもたちが自己肯定感を得ながら、英語に興味を持ってもらえる教材を作ることが目標です。こうしてできた「北相木メソッド」(長野県の北相木村の小学校で作り上げたことからこの名称がつきました)では、100%の児童が伸びを実感!その後、松倉先生が赴任した、長野県内の大小様々の小学校でも取り入れられ、松倉先生は県内外で講演や研修を行っています。
英語教育はやれば必ずできます!
―松倉邦幸先生
◇「英語は楽しい!」を引き出すポイント
小さいころから英語を習う子どもが増えた結果、授業を始めた時点での、生徒たちの英語に対する興味の度合いは様々だといいます。すでに「大好き」な子、逆に「嫌い」になってしまっている子…。松倉先生がまず重視するのは、“抵抗感”をいかに払拭するかです。
一つの教室に「英語が好きな子」「英語が嫌いな子」がいるのは、算数などの他の教科と同じ。さまざまな子どもをしっかりと教えてきたこれまでの授業を考えてほしいそうです。
これまでに松倉先生が、「英語の嫌いな子」を見て分かったことは、そのような子は「普段の生活でもチャレンジを嫌う」ということでした。つまり、「英語」の特性によって「嫌い」になったわけではなかったのです。そして、「チャレンジ精神のない子どもには、「できた!」という体験が乏しい」という共通項を見出します。では何が必要か?それは、自己肯定感を高めることでした。自己肯定感を高めれば、最初は苦手で敬遠していた英語でも、積極的に学ぶ姿勢を見せてくれるようになるそうです。
◇時間の使い方と自己肯定感、チャレンジ精神
授業時間を長くするより、短時間で繰りかえし英語に触れさせるほうが効率的に学習できる。そもそも、そのために作られたのが、松倉先生の「英語モジュール」です。モジュール学習とは、10 分から15 分程度の短時間学習のこと。1回45 分の授業を3回に分けて、15分授業を週3回行い、規定の学習時間としてカウントしていきます。
頻繁に英語と接することで、英語に慣れ親しむ機会が増えて理解しやすくなることから、「自己肯定感」を高めることへにも繋がる時間構成です。
松倉先生は、このモジュール学習を始めてから、別の授業でも、その効果が表れたといいます。跳び箱に何度挑戦してもジャンプすらできなかった子が、「先生、手はどうやってつけばいいの?」「どこでジャンプしたらいいの?」と質問するようになったり、新しい学習や難しい問題を目の前にしては「えーやるの?」と言っていた生徒たちが、「もっとやりたい!」「難しい問題だと燃える!」と、発言するようになったり…これは、モジュール学習が「物事に取り組むチャレンジ精神を養う」「物事から逃げない力を育くむ」ことの証左でした。
◇英語モジュールを「訓練」にしないための工夫
この英語モジュールを開発した当初、「英語モジュールをすれば効率が上がる(はず)」という思いとともに、「子どもたちにやらせたいこと」をどうやってこなすか、ということばかりに夢中になっていたという松倉先生。しかし、成果はでなかったと言います。むしろ、生徒たちが窮屈そうに見える始末…。
原因は何か?それは、毎日決められた言葉だけを、決められた時間だけ発音していくという、無味乾燥な、ただの「訓練」状態が子どもたちに苦痛を与えていたと気づきます。そこで、意識したのが、
①スピード感・テンポ感を取り入れる…リズムに乗せて英単語や表現を復唱する
②英語の授業と連動した英単語・表現の選定…「これは英語モジュールでも習った内容だ!」と英語モジュールの意味を実感できるようにする
③ 子どもの実態に合わせ、子ども自身が必要性を感じる題材
この3つでした。「英語モジュールの意味を子どもたちが実感できないのなら、教師にとっても英語モジュールを取り入れる意味は残念ながらない」というのが、今の松倉先生の考えです。英語モジュールを本当に意味のあるものにするためには、これらの工夫が不可欠です。
◇ワークシートの一部をご紹介!
こちらが松倉先生が実際に使っているワークシートの一例です。生徒たちの英語の進捗度の違いも考慮に入れた上で、出来る子を飽きさせない工夫もなされています。
STEP2の英単語のワークシートの例 ※左が試作版 右が完成版
クラス全体が英単語や表現に慣れ親しむことと、次の英語の授業のときに全員が困らないようにどういう単語を選んだらよいかという視点が大切です。次の授業に向けてクラス全体で取り組みたい内容を入れつつ、苦手意識を持っている子どもにも確実に慣れ親しんでもらいたい英単語や表現を織りまぜることで、クラス全体の底上げを図ります。―本文より
松倉邦幸さんによる『1日5分で英語の授業を劇的に変える方法 すぐできる!北相木メソッド 担任の先生だからこそ使いたい』には、これらのワークシートが、Excel ファイルでプリントアウトできるようになっており、必要事項を入力して授業で活用することができます。また、忙しい先生に合わせて、「1日5分」で準備できるように工夫されています。
▽Excelデータをこちらからダウンロード(無料)!
松倉先生の考える「よい授業のための3条件」
①子どもたちが「できた」「わかった」を実感し楽しく学べる
②子どもたちが人として成長できる
③教師も楽しく授業をできる
◇ALTとの連携を諦めない方法
多くの先生が、ALTの先生との連携をうまく取れず、それ故に活用しきることができないという悩みを抱えているそうです。せっかく「本物の英語」に触れる機会を生徒たちに与えるチャンスなのに…。その原因は、やはり言語の壁。学習指導要領では、「学級担任」が英語を教えることとされていますが、ALTの力も借りては、というのが松倉先生の考えです。そこでお勧めしているのが、「打ち合わせカード」。
ALT と言葉だけでやりとりをするのではなく、授業内容の予定や、ALT にお願いしたいことをこのカードに記します。簡単な内容であれば日本語、書いて伝えるのが難しい内容は英文で書いていきます。松倉先生は、これをもとに打ち合わせすることで、授業での役割を理解してもらいやすくなったそうです。
松倉先生の授業を受けた生徒たちが中学校に上ると…?
全員が
・特に抵抗感なく英語の授業に取り組めた。
また、
・「英語は好きだ。特に抵抗感はない。嫌いではない。」
と答えました!
–松倉 邦幸(まつくら くにゆき)
1979年生まれ。長野県在住。長野県須坂市立高甫小学校教諭。前任校、長野県北相木村立北相木小学校にて、当時の先生方と共同で国語や算数を中心とした自己肯定感向上を目的とする「モジュール学習(北相木モジュール)」を開発・研究・実践する。その中で新学習指導要領の内容に基づいた、外国語の短時間学習「英語モジュール」を開発・研究・実践する。近年は「英語モジュール」「モジュール学習」に関する講演・研修を県内外で行っている。
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