羊と仲良くなりたい
羊と仲良くなりたい、と思っている。というか僕は仲良くしているつもりなのだが、どうも思いが通じていない。つまり片想い。あと正確には仔羊と仲良くなりたいかも。大人の羊はもう仲良しなので(思い込み)。
なぜ羊と仲良くなりたいと僕は思ったか?というには少し前提をシェアする必要がある。
今住んでいる英国では、フットパスという制度があり、public right of way、すなわち通行権という法制度のもと、ここは歩いていいよ〜と私有地の一部も含め開放されている。地図などでもフットパスは表記されていて、田舎の方のみならずロンドン近郊にもたくさん設定されていて縦横無尽に設定されたフットパスをルートを考えながら歩くのはめちゃくちゃ楽しい。多分イギリス人も楽しいと思っている、めっちゃ歩いてるし。こういう権利を設定するくらいだし。
で、このフットパスだが田舎の方ではたいてい農場なんかに設定されていることが多い。というか田舎は農場しかないので必然的にそうなる。なので、場所によってはフットパスの通行の際、めちゃくちゃ大量の羊がいるのだ。
いや、いるというと烏滸がましく、僕たちがむしろ、羊たちの世界に、羊にとっちゃ知ったことのないであろうこのお散歩の権利を盾にコソコソお邪魔して通らせてもらっているかたちである。去年行ったウェールズでも2、3日トレイルを走っているところ羊のほうが人間より間違いなく出会った。
僕は未年生まれということもあり(?)、もともと羊が(食べるのも見るのも)好きなので、そんじょそこらの人よりかは、かなり友好的に羊の横を通っていっている自負がある。大抵の場合、すれ違う時に登山者同士がするような挨拶さえしている。一応イギリスの羊なので日本語じゃなく英語で「Hi」とか「Hello」とか。走っている時は「よっ」というふうに少し手をあげたり視線を合わせたり。とりあえずなんとなくお邪魔します感を出しつつ「無害だよ〜、無害な人間だよ〜」と精一杯アピールをしているつもりである。
わかっているのかわかっていないのかは不明だが、まぁ大体羊の方も慣れているので、なんか見慣れないアジア人が歩いてるなぁくらいでぼーっと見つめられるか、ちょっと視線をうつした後、引き続き草を喰むことに戻ったりしている。ちなみに羊の目はよくみると結構怖い。
まぁ、僕の気持ちが通じているかどうかはともかく、羊の方も少なくともあまり気にしていないくらいで敵意や怯えが出てくることはそうそうない(気がする)。
なので僕と羊のちょうど良い距離感というのは、着実に形成され良好な関係が(一方的に)築かれていたのだが、今回5月に湖水地方に行った時には少し事情が違った。どうやらちょうど仔羊(ラム)たちがうまれて少ししたばかりのようでとにかく仔羊たちがわんさかいるもだ。はちゃめちゃに可愛い。
ちなみに、今回調べて知ったのだが(雌)羊はちゃんと餌である草の豊富な時期に子供が生まれるよう季節繁殖という繁殖サイクルを持っているらしい。羊、めちゃくちゃかしこい。
ということでこの肌寒い北イングランドの湖水地方ではちょうど5月くらいの今、めちゃくちゃ仔羊がいるということも納得がいく。ようやく春なのだ。とにかくどこを見ても羊の保育園かというくらい子羊がいる。季節繁殖は日照時間などをもとにタイミングが決まるらしく、それはすなわち同じ地域だとおおむね同じタイミングで仔羊が生まれるということなのかもしれない。春の仔羊シーズン!!!すごいかわいい、最高にキュート。
しかし、この仔羊ちゃんたちが、まだ人間が見慣れていないからなのか本能なのか、とにかくビビって少し近づくと逃げちゃう。いや、こっちも別にあえて近づいているわけではないのだが、前述通りフットパスが農場になっているので歩いていると羊が目の前にたくさんいるのでこっちも目的地に近づくためには結果的に近づいてしまうのだ。羊は別に縄に縛られているわけでもなんでもなく区画のなかを自由にしているのでフットパス上にいることだってある。(フットパスの出口は大抵柵で閉じられていて出入りの際だけ開けさせてもらうシステム。もしくは階段上になっている)
大人の羊なら肝もすわり、お邪魔してくるフットパスハイカーたちも無害だと理解して、慣れているからなんかそのまま太々しくいてくれたりするので「よっ友」感覚だが、仔羊はとにかく逃げるのでなんだかこっちも可哀想なことをしている気分になる。
「メーメー(どこに逃げればいいんだーーー!)」と言いながらバタバタ。んで大体大人の羊が低い声で「メ〜(あっちに行きなさい〜)」とか「メェ〜(大丈夫やから少し道避けなさい)」とかいって指示を出している(多分)が、仔羊は結構逃げるのが下手なことがあって、農場の柵のほうに追い込まれたり行きたい方向と被って逃げたりする。というかこの仔羊と大人のメーメーコミュニケーションは明らかに何かを伝え合っているのをすごく感じるので興味深い。
こうなると僕も僕で「そっちじゃない!あっちにいきなさい」とか仔羊に指示を出すが、メーメーコミュニケーション能力が低すぎて、あまり伝わらない。適当に「メー」とか言ってみる時もあるがてんでダメである。
結果的になんかめちゃくちゃ仔羊たちがバタバタ走ることになってしまい、なんだか毎回かわいそうなことをした気分になって少し凹む。こっちは全くの無害で何も傷つけるつもりはない、むしろ仲良くなりたい。伝わらない気持ちが、かなしい。スマホが怖いかな?と写真を撮らなくても、特に変化はない。(可愛いので結局写真を撮ってしまう)。けどフットパス通らないわけにもいかないのだよ、ごめんね。
というのが、僕が羊と仲良くなりたいと思ったわけである。前述通りもともと羊には、かなり親しみを感じていたのだが、特にイギリスに来てからは日本で見たであろう10年、20年分の羊に1年足らずで出会っている。イギリスの山、フットパスといえば、羊、である。そんな身近な存在になったので、切実に羊と仲良くなりたいのである。特に今回仔羊が逃げ回るのが可哀想で(本能的に仕方ないかもだけど)、なんとかして僕もメーメーいうことで羊たちとコミュニケーションがとれないだろうかと考えながら山を歩いたりしていた。
そういえば、イギリスと羊といえば。イギリスではスーパーで羊肉がかなりメジャーに手に入る(だから羊が多いんだろうね)。Waitroseなどのスーパーの精肉コーナーではウェールズ産の羊肉が、比較的手頃な値段で売られていて買って焼くだけでめちゃくちゃ美味しい。日本だと輸入ラム/マトンは冷凍になるからだろうが、日本で食べる羊より絶対に美味しい。ウェールズラムは日本だとなかなか見ないが、ロンドンのスーパーでは主にウェールズ産のラム肉が置かれていてとにかく美味しい。まぁあんなところで伸び伸び育てば美味しいよなぁと思う。
まぁ、こんなこと書いてたら羊もそりゃビビるか、と思ったりもする。けど別に美味しそうとか思って羊を見ているわけではないので、羊さんたち、ええ、なんとか今後もよろしくおねがいします。仲良くしようね。
(追記)
色々羊が気になって調べたら、上の購入品写真にもあるコースターのHerdWickというのが湖水地方原産の種類らしく、色が黒から白になったり尻尾が長いままになっていたりというネットで調べたら特徴を踏まえると今回みた羊のほとんどはどうやらこの種類らしい。そしてほぼ湖水地方にしかいない品種らしい。
今まで羊かわいい、という程度の粗い解像度でしかなかったが、なかよくなりたいといってるからには、まずちゃんと相手のことを知らないといけないので、色々調べてもっと羊に対する解像度を上げようと思った。