求人広告は、ウソかマコトか
求人広告でよく思われる、言われるのは、「嘘を書いているのではないか」「実際に応募・面接したら、求人と話がちがった」「騙された」というネガティブなもの。
さて、求人広告とはウソなのでしょうか。結論から言えば「No」です。
少なくとも、書いてあること”は”おおむね正しいです。理由は2つあります。一つは職業安定法などの法律に基づいていること。もう一つは求人サービス業界には「全国求人情報協会(全求協)」という業界団体が存在していることです。信頼される求人の指針を示し、加入企業に対し、求人広告の適正化をうながしています。
主要な求人媒体を運営している企業は参画しており、まっとうな企業は協会の指針に遵守しています。なぜならば、求人媒体はつねに政府が睨みを効かせており、問題を起こした際には法規制の対象になるからです。そうならないために、各企業は自主規制・自助努力しています。
■では、なぜ「書いていること”は”」というのか
では、なぜ「書いていること”は”」というのか。これは求職者が「騙された」と感じることにも通じます。求人広告は「求人情報」と「広告」という二面を持っているため、表現の問題をはらむからです。
具体的には、曖昧に表現したり、誤解を招く表現をしたりしているため、騙されたと感じます。
たとえば、「月給20万円~50万円」という表記があるとします。明確な数字なので正しい情報です。しかし、どのような人が月給20万円で、50万円もらえるかはわかりません。50万円もらえる人はスーパーマンのような人だけの可能性があります。
また、よく「年間休日120日以上」という記載があります。これも、120日の休日は保証するものの、もしかしたら121日になる可能性があるから、記載しているに過ぎません。書いてある情報は正しいですが、含みをもたせた表現です。
ただ、ここまでの表現は明確に範囲や最下限を示しており、求職者も「ウソだ」「騙された」まではいかないでしょう。
しかし、次のような表現も往々にして存在します。「当社は多くの大手企業と取引実績があり…」「多くの社員が有給休暇を取得しています」といった表現です。
まず「多くの」とは、どの程度なのでしょうか。80%で多いと考える人もいれば、30%でも多いと考える人はいます。また、「大手企業」もどの規模を指しているのか。「取引実績があり」も継続的な取引なのか1回だけなのか。さきほどの数字とは異なり、主観的な表現です。
さきほどの有給休暇について考えてみましょう。世の中の平均は52.4%(2019年度調査)です。A社の有給取得率が55%だったとき、「多くの社員が有給休暇を取得しています」といえるでしょうか。あるいは40%だったら。逆に80%だったら、どうでしょうか。どの数字なら「多くの社員」といえるでしょう。これは平均に基づいた個人の主観に過ぎません。
これが「求人広告はウソだ」「騙された」と思う原因です。主観に基づいているのでウソではない。しかし、誇張・大袈裟ではないかと思うはずです。世の中の求人広告において、ウソだと思ってしまうのは、こうした曖昧で、主観的な表記の仕方のためです。
もう少し突っ込んで、優良誤認させる表現も存在します。たとえば、東京・大阪・名古屋勤務で「地域手当あり」があるとします。しかし、東京勤務の場合のみ5,000円の地域手当が支給されるが、大阪・名古屋には支給されない場合、上記の表現は優良誤認といえます。
正確には「地域手当あり(東京勤務のみ)」と表記すべきです。もっと正確に書くのであれば、「地域手当(東京勤務のみ/月5,000円)」と記載すべきです。
「地域手当あり」だけでは大阪・名古屋希望の方は「騙された」と思います。同じようなことが社員寮・独身寮、各種手当などにもあるのではないでしょうか。
しかしながら、基本的に求人広告に書いてあることは間違いではありません。ウソを記載すれば、それは行政指導の対象になるからです。まっとうな企業・求人媒体なら、行政指導を覚悟してまでウソを書くことはありません。
■問題なのは、書いていない情報
さて、上記の通り、ウソ・騙されたと思う理由は、「曖昧さのある表現」「優良誤認させる表現」だと述べました。
・正確な表現
・曖昧さのある表現
・優良誤認させる表現
・そもそも書いていない
優良誤認させる表現は、限りなく黒に近いグレーですが、もっとも気をつけるべきは「書いていない情報」です。
求人広告上、記載をしていないので、ウソには当たりません。しかし、記載していないだけで、平均残業時間が月60時間の可能性があります。果たして誠実と言えるのでしょうか。そのような求人は誠実ではありません。
確かに正確な情報を伝えたら、応募が来なくなる可能性があります。必須項目でなければ書かずに面接時に説明する、という手もなくはありません。ただ、そのことで求職者が「騙された」と思うくらいなら、中長期的な企業ブランドを考えたら、早い段階で公開してしまうほうが望ましいです。
今の時代、ネットで情報はすぐに拡散します。就職口コミサイトやSNSがあるので、ネガティブな情報を止めることはできません。誠実に情報を公開し、その代わり、ターゲットが求める情報や表現で勝負するほうが適切と言えるでしょう。
今の時代、求人広告では取り繕って、あとから挽回しようとするのは得策ではありません。
■しかし、本当にウソは書いていないのか
では、求人広告は嘘偽りがまったくないのか。と言われると、「Yes」とは断言できません。なぜなら、求人広告の情報は企業から得ている内容なので、企業が悪意を持って事実と異なることを説明すれば、求人媒体としては確認するすべがないからです。
もちろん、偽りの情報が掲載されないよう、応募者からの通報を受け付けています。しかし、あくまで受動的な行動なので、事態が起こってからの対応にならざるを得ません。こればかりは人の善意に頼るほかありません。
ただ善意だけに頼るのも心もとない。だから、私はこのようなnoteを書いています。より多くの人が求人広告の現場を理解してもらい、特に求職者側から声を発してもらうことで、浄化作用が生まれます。求職者全員からそっぽを向かれたら求人媒体は運営できず、自ら厳しい規則を決め、企業側にも求めざるを得ないからです。
また企業側にも正しくない表現をすることで、中長期的なブランド毀損になることを知ってもらい、企業の魅力を発見する、醸成してもらいたいと考えています。
高待遇をうたって、人を集めることは簡単です。しかし、それは中長期的な成長につながるのでしょうか。甚だ疑問です。その会社にしかない魅力を生み出し、魅力に感じてくれる人を採用することが、企業の成長になると、私は考えています。
ぜひ、正しい情報で、正しい人材獲得競争をしていただきたいものです。