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求人を見るときのポイント:裁量労働制

求人でわかりづらい言葉の一つに、「裁量労働制」があります。職種によっては聞き馴染みのない言葉ですが、IT業界ではよく見かける言葉です。

本来は知的労働者に対し、労働時間を自由にすることで就業時間や勤務時間に縛られることなく、能力を遺憾なく発揮してもらうための制度…なのですが、この制度を悪用する企業も少なくありません。

■裁量労働制とは

裁量労働制とは、実際に働いた時間とは関係なく、企業と社員の間で労使協定に定めた時間を働いたものとみなし、その分の賃金が支払われる制度のことです(ただし、深夜・休日労働に対しては法律で定められた割増賃金が支払われます)。

裁量労働制は、一言でまとめると上記のとおりです。裁量労働制の一つのポイントは、労使協定によって決められるので、企業側が勝手に決めてよいものではありません(労働基準監督署への届け出が必要です)。

■専門型と企画型の違い

また、労働裁量制には「専門型裁量労働制」と「企画型裁量労働制」の2種類があり、特に専門型は厚生労働省が定める19の業務しか適用できません

<専門型裁量労働制が適用できる業務>
(1) 新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務
(2) 情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であつてプログラムの設計の基本となるものをいう。(7)において同じ。)の分析又は設計の業務
(3) 新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送法(昭和25年法律第132号)第2条第4号に規定する放送番組若しくは有線ラジオ放送業務の運用の規正に関する法律(昭和26年法律第135号)第2条に規定する有線ラジオ放送若しくは有線テレビジョン放送法(昭和47年法律第114号)第2条第1項に規定する有線テレビジョン放送の放送番組(以下「放送番組」と総称する。)の制作のための取材若しくは編集の業務
(4) 衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
(5) 放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
(6) 広告、宣伝等における商品等の内容、特長等に係る文章の案の考案の業務(いわゆるコピーライターの業務)
(7) 事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握又はそれを活用するための方法に関する考案若しくは助言の業務(いわゆるシステムコンサルタントの業務)
(8) 建築物内における照明器具、家具等の配置に関する考案、表現又は助言の業務(いわゆるインテリアコーディネーターの業務)
(9) ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
(10) 有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務(いわゆる証券アナリストの業務)
(11) 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
(12) 学校教育法(昭和22年法律第26号)に規定する大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る。)
(13) 公認会計士の業務
(14) 弁護士の業務
(15) 建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)の業務
(16) 不動産鑑定士の業務
(17) 弁理士の業務
(18) 税理士の業務
(19) 中小企業診断士の業務

また、企画型裁量労働制もなんでも適用できるわけではなく、下記の業務のみ適用が可能です。

<企画型裁量労働制が適用できる事業場>
(1)本社・本店である事業場
(2)(1)のほか、次のいずれかに掲げる事業場
  (A)当該事業場の属する企業等に係る事業の運営に大きな影響を及ぼす決定が行なわれる事業場
  (B)本社・本店である事業場の具体的な指示を受けることなく独自に、当該事業場に係る事業の運営に大きな影響を及ぼす事業計画や営業計画の決定を行っている支社・支店等である事業場

わかりやすく説明すれば、本部(=経営)に直結する事業所・部署で、経営に関わる企画立案・実施を行う業務に適用されます。言い換えれば、飲食店の店長には適用されません(本部から遠いうえ、経営に関わる企画立案にも携わらないから)。

ありていな言い方をすれば、裁量労働制はクリエイティビティ(創造性)を要する業務に適用される、ということです。

そのため、ITエンジニアでもプログラマー(PG)には適用されないことが多いです。もっといえば、プログラマーに裁量労働制を適用するのは違法の可能性が高いと言えます。

裁量労働制は純粋なシステムエンジニア(SE)に適用されるものです。SE兼PGの場合も、プログラミング業務がメインだとしたら、適用されない可能性があります。

■みなし労働時間制とは

裁量労働制ではありませんが、近い制度に「事業場外のみなし労働時間制」というものがあります。

たとえば、一日中外回りをしている営業やリモートで働く業務など、事業所に縛られない働き方をしている業務に対して、「▲時間働いたこととみなす」というものです。

というのも、企業側が労働時間の管理をすることが難しく、実態を把握しきれないからです。

適用される業務はかなり限定され、あまり見かけることはありません。しかし、外回りの営業には適用されることも多く、知っておいたほうがよい制度でしょう。

■裁量労働制でも残業代は発生する

以上のように、柔軟な働き方を実現するための制度である裁量労働制ですが、一歩間違えると、残業代の支払いを逃れるために悪用されるケースも存在します。

経営者の中には、「裁量労働制さえ適用すれば残業代を支払わなくてよい」と考える方もいます。しかし、それは誤りです。裁量労働制であっても下記3パターンの場合は残業代の支払いが必要です。

(1)1日のみなし労働時間が8時間を超える場合
(2)深夜勤務が発生した場合
(3)休日出勤が発生した場合

週休2日制と完全週休2日制でも説明しましたが、法律によって「1日8時間、週40時間までの労働」しか認められていません。そのため、みなし労働時間が8時間を超えている場合(たとえば、8時間30分や9時間など)、超えているぶんの残業代は支払わなければなりません。

また、深夜勤務(22時~翌5時)の場合や休日(法定休日)は割増分を支払う必要があります。

けっして、裁量労働制=働かせホーダイではありません。あくまで労働者に柔軟な働き方を提供し、最大限のパフォーマンスを発揮してもらうための制度です。

ぜひ、雇用側には適正な制度運用をしていただき、企業・労働者ともに満足のいく労働環境にしていただきたいですね。

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似非教授
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