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第1回「商品・サービス開発プロジェクト2024」レポート

「これからの地域を支えるデザイン経営」を本気で学ぶ場所として、2023年にスタートした越前鯖江デザイン経営スクール。今回は、2024年9月14日(土)、15日(日)に開催された第1回目の「商品・サービス開発プロジェクト」の様子をお伝えします。

商品・サービス開発プロジェクトとは

越前鯖江の企業と参加者(クリエイターや右腕人材の卵)を結びつけ、これからの時代にあった商品やサービスを開発する実践型のデザインスクールです。約半年間を通し、広義のデザイン視点を携えた協働の姿勢を育みます。毎月2日間の現地プログラムに加え、オンラインでのコミュニケーションも行います。

2024年度は、越前鯖江地域内の4事業者と、福井県内外のものづくりやデザインに携わる13名の参加者が集まりました。

参加事業者紹介

01/ 高橋工芸|鯖江市
1925年創業の越前漆器製造業。主に木製品の塗りの工程を担当。創業時から様々な漆器製品の製造販売をしており、近年ではお茶道具や節句人形の屏風・台を中心に製造。自社商品には、お茶セットを収納できる「IPPUKU BOX」、お盆や収納としても使える「TSUM」がある。4代目の高橋亮成(あきのり)さんは2018年に地元に戻り代表に就任。

02/ 鯖江シホン|鯖江市
鯖江市でシフォンケーキ専門店として不定期に営業。厳選した材料、独自の製法・長年の経験をもとに「フワフワしっとり𝘤𝘩𝘪𝘧𝘧𝘰𝘯」を完成させた。味と共にきめ細やかな断面が特徴。シフォンケーキは鯖江市のふるさと納税の返礼品にもなっている。

03/ 中西木材|越前市
大正10年(1921年)創業の木材総合問屋。森林の整備をはじめ、伐採した木材を活用したオリジナル商品「デザインウッド」や「ふくゆか」の製造販売や木造住宅の設計・施工など、木材の可能性を開発している。

04/ 山伝製紙|越前市
明治1年(1868年)の創業から手漉きチリ紙製造を営み、昭和38年に機械漉きに移行。越前和紙の技、精神を守りつつ、新しい技術や素材も使用し、伝統的な越前美術紙や機能紙を製造している。「工芸を工業製品に」が経営理念。

プロジェクト講師紹介

講師は以下の4名です。

新山 直広合同会社TSUGI 代表 / 一般社団法人SOE 副理事
1985年大阪生まれ。2015年TSUGIを設立し、地域に特化したクリ エイティブカンパニーとして「RENEW」の総合プロデュースや福井の スーベニアショップ「SAVA!STORE」などデザイン・ものづくり・地域という領域を横断しながら創造的な地域づくりに取り組む。2022年産業観光を軸としたDMC「一般社団法人SOE」を設立し副理事に就任。

内田 裕規株式會社ヒュージ 代表
文化創造拠点「FLAT」、工芸を繋ぐ場「CRAFT BRIDGE」など、リノベーションによる拠点づくりを行う。千年先に向けた工芸の祭展「千年未来工藝祭」プロデュース等、クリエイティブな思考で社会課題解決に取組む。他に越前市観光協会のブランディング、越前市創造都市加盟戦略委員、北陸古民家再生機構理事などに携わっている。

時岡 壮太株式会社デキタ 代表
福井県おおい町出身。2009年早稲田大学大学院修了、2011年に株式会社デキタ設立。築地場外市場や気仙沼市等での施設開発に携わったのち、2018年に伝建地区である熊川宿に会社を移転。現在、熊川宿においてシェアオフィスや宿泊施設、加工所等の古民家活用を進めるとともに若狭地方の公民連携まちづくりに携わる。

内田 友紀|YET代表 / Re:public inc. ディレクター
早稲田大学建築学科卒業。イタリア・フェラーラ大学院にてSustainable City Designを修め、ヨーロッパ・南米・東南アジアなどで地域計画プロジェクトに参画。現在は、リサーチ、ビジョン構築、組織開発、コミュニティデザイン等を通じて、産官学や市民らとともに持続可能な社会に向けたエコシステムの構築に携わる。グッドデザイン賞審査委員。内閣府地域活性化伝道師。

商品・サービス開発プロジェクトがスタート!

2年目となる商品・サービス開発プロジェクトがいよいよ始まります!
まずは講師陣の自己紹介とスクールの概要説明。昨年度の商品・サービス開発プロジェクトの取り組み内容や成果についても紹介がありました。

講師の新山さんから越前鯖江エリアの概要や産地の現状、商品開発の手順について説明いただきました。

続いて、参加者による自己紹介です。本プロジェクトには、学生や会社員、公務員、フリーランスなど個性豊かな13名が参加しています。職種もデザイン、広報、プロジェクトマネジメント、人事など様々。福井県内を中心に、東京や滋賀、愛知など全国から集まっています。

福井県内の企業で採用業務を担当している高橋さん。広告デザイナーになりたかった学生時代の気持ちを思い出してプロジェクトに取り組みます。
自治体で広報の仕事をしている岩﨑さん。
まちづくりや課題解決などの広義のデザインを学びたいと意気込みます。

今回が初めての顔合わせということで緊張した面持ちでしたが、お互いの共通点などを知って緊張が少しずつほぐれていく様子が見られました。

事業者見学

越前鯖江エリアの概要や参加メンバーについて理解を深めたところで、事業者見学に移ります。現地プログラムの初回ということで、半年間を共にする4事業者をチームに分かれて訪問しました。

4代続く越前漆器メーカー、高橋工芸

鯖江市にある高橋工芸では、4代目の高橋亮成さんに案内いただきました。2025年に創業100周年を迎える高橋工芸は、初代の曽祖父が木工所として事業を始め、祖父の代から現在の塗装業にシフトしたのだそう。

工房内では、越前漆器の吹き付け塗装をする作業場や、塗装した木地を乾かしている様子を見学しました。高橋工芸は、漆器の製造工程のうち主に「塗り」の工程を担当し、茶道具、節句人形の台や箱などが主力商品です。最大で1m×1mの素材に塗装でき、シルクスクリーンでの加飾もできるそう。また、研ぎの工程はすべて手作業で行います。取引先からのオーダーをもとに木地メーカーへの発注も行うそうで、問屋さんのような一面もあります。

幼少期からものを作ることが好きだという高橋さん。難しいオーダーがあったときにどうやったら塗れるのかを考えるのが好きだそう。また、ミュージシャンでもある高橋さんは、楽器に塗装したり金箔を貼ったり、ビンテージ風のデリック加工を施してみたりと新たな試みにもチャレンジしています。

事務所では、自社商品や試作品を見せていただきました。気軽にお茶を楽しめる「IPPUKU BOX」、お盆としても収納としても使える「TSUM」が人気で、福井県内のホテルの客室にも採用されているそうです。

高橋工芸が目指すことは、「木の塗装なら高橋工芸」と認知してもらうこと。しかし、広報に力を入れられていないのが課題です。高橋工芸ができることを知ってもらうための発信や、他社と差別化できるオリジナルの塗料や吹き付けの技法の開発が期待されます。

趣味から始まった事業。鯖江シホン

鯖江市の住宅街にあるシフォンケーキ専門店「鯖江シホン」へ。店主の堀光晴さんにお話を伺います。

趣味から始めて15年以上シフォンケーキを焼き続けているという堀さん。「知人からシフォンケーキのレシピを教わって、作ってみたら上手にできたんです。友達から宇宙一美味しいと言ってもらえたのがうれしくて、シフォンケーキを焼き始めました」

サラリーマンとして働きながらシフォンケーキを焼き続け、ついに7年勤めた会社を退職し、イベント出店や間借り営業を経て、2021年4月に「鯖江シホン」をオープン。

シフォンケーキを試食。ふんわりしっとりとした食感とやさしい甘さで、毎日食べられそうです。

現在、お店はテイクアウトのみで週1〜2回の営業。
メニューはプレーン、紅茶、コーヒー、抹茶、マーブル、ココアチョコなどの定番商品や、福井県産米粉を使ったシフォン、北海道産薄力粉と極みというヨード卵を使った「極」など、1日あたり7〜8種類を販売しています。メニューは売れ行きを見て堀さんが考えているそう。

興味津々の参加者から質問が続きます。

ヒアリングを続けるなかで、現在の販売価格には「人件費が含まれていない」という指摘も。今後だれかを雇うことを想定し、製造や販売にかかる人件費も踏まえた価格設定を行う必要がありそうです。

堀さんに鯖江シホンに込める思いを伺いました。「鯖江シホンの名前の由来は、私が鯖江市出身で鯖江が大好きだからです。鯖江といえばメガネとシフォンケーキと言ってもらえるように、食べた人が心地よくなる日本でオンリーワンのシフォンケーキ専門店を目指したい」と堀さんは意気込みます。

堀さんには将来的に東京に進出したいという夢があります。日本全国や世界に、鯖江を代表する「鯖江シホン」が届く日が楽しみです。

木材のプロフェッショナル、中西木材

中西木材では、従業員の渡辺さんと多田さんに工場を案内いただきました。安全帽を着用し、広大な工場内を歩いて見学します。

中西木材の主な事業内容は以下の5つ。
①建築資材部門:建材の仕入れ・製造・販売
②物流資材部門:物流パレットの製造・販売
③リサイクル部門:樹皮や解体材を固形燃料や建材、堆肥として再生
④住宅新築リフォーム
⑤林業部門:福井県内の杉を伐採
これらの事業を通して、森林資源の有効活用と豊かな住環境の実現を目指しています。

解体した建物から出てきた木材

まずは多田さんに木材の基本知識を教わります。「木材の密度は産地によって異なります。また、建材には適した樹齢や太さがあって、だいたい直径20〜50センチ(樹齢50年くらい)の木が扱いやすく、大きすぎると用途が限られてしまうんです」

また、木の種類にもそれぞれメリットとデメリットがあるんだそう。「ナラ、クリなどの広葉樹は傷がつきにくい反面、足触りが硬くて割れやすいです。一方で、杉やヒノキなどの針葉樹は傷がつきやすいですが、足触りはやわらかく加工しやすいです。どの木材を選ぶかは、用途や施主の判断によりますね」

緑の機械(皮剥き機)で皮をむいて製材。

続いて、中西木材の所有する様々な設備を見学しました。製材工場で丸太を製材・加工し、建築用資材や物流用のパレットを製造しています。福井県内ではめずらしい集成材を作るプレス機もありました。

また、自社商品の「デザインウッド」の製造現場も見学。国産杉を貼り合わせることで、豊かな色合いと寸法の安定性を実現しています。家具用部材として、福井県内の新幹線駅のベンチやこども園の家具、企業のオフィスなどに使用されているそう。

熱心にメモをとる参加者

「無垢の木は曲がったり穴があったりと個性があります。木の皮も燃料の一部に利用したり、檜皮葺(ひわだぶき)に使ったりと、木は捨てるところがないんです」と多田さん。木材への愛と魅力をひしひしと感じる事業者見学でした。

150年以上続く老舗和紙メーカー、山伝製紙

越前市にある機械抄き和紙メーカー「山伝製紙」。明治元年の創業で、150年以上の歴史を持ちます。4代目の山口真史さんは2024年6月1日に代表取締役社長に就任しました。

主な事業内容は、機械漉き和紙の製造・販売、酒類の販売です。もともと手漉き和紙から始まり、機械漉きに移行。最近は古民家の廃材を使った和紙の開発や、漆塗りとのコラボなど、ユニークな取り組みも行っています。また、大河ドラマにちなんだムラサキシキブの花酵母を使ったクラフトビールを開発し、自社製造の和紙ラベルを貼って販売しています。

「引っかけ」の技法に使用する金型。産地内で作る人がおらず、自社で昔作ったものや廃業する工房から買い取ったものを使っているそうです。

工場内を歩き、和紙の製造過程や機械を見せていただきました。機械漉きといっても半分は手仕事。完成後はすべて目視で検品しています。

工房見学やヒアリングを通して見つかった山伝製紙の強みは、以下の3点。
・抄紙(しょうし)から加工までの社内一貫生産
・機械漉きでは小ロット対応(最低ロット2000m)
・紙にまつわる幅広い協力会社の存在

また、課題としては、
・和紙の需要縮小
・従業員の高齢化
・設備の老朽化
が見つかりました。製造した和紙の7割が問屋さんに納品されるため、自社製品がどこで何に使われているかがわからない点も課題として考えられます。

続いて、山口社長にユニークな和紙を見せていただきました。革っぽい質感の和紙、ウコンを漉きこんだ名刺カード、杉の間伐材を使ったかばん、ウレタン塗装やフィルム加工を施した防水の和紙など、和紙の新たな可能性を感じるものばかり。

山伝製紙が目指すのは、既存の枠組みを超えた和紙作りです。BtoBをターゲットにした、山伝製紙にしか作れない和紙を開発し、「和紙のことなら山伝製紙に頼めば間違いない」と思ってもらえる状態を目指します。

4事業者の見学が終了。事業者がどのような思いでどのような事業をしているのか、解像度がぐっと上がる時間となりました。現場で得た情報を元に、どのように課題にアプローチできるのか検討します。

チームごとのディスカッション

会場に戻ったあとは、チームごとのディスカッションが始まります。まずは自己紹介シートを作成して、チームメンバーの得意なことや苦手なこと、半年間のプロジェクトで成し遂げたいことをチーム内で共有しました。

次に、各事業者のビジョンや課題を記載したグランドマップをもとに、気になった点を事業者にヒアリングします。10年後、3年後、「社員にとって」「地域にとって」「業界にとって」どんな存在になるのかを各チームで検討し、今後取り組みたい内容を発表しました。講師陣からアドバイスをもらい、今後のリサーチに活かします。

***
2日間にわたる初回プログラムが無事終了。1ヶ月後の現地プログラムまでに、各チームでリサーチやディスカッションを進め、チームの方向性を検討します。半年後、地域の資源や人材を活かしたどんな商品・サービスが誕生するのか楽しみですね。

(文:ふるかわともか)

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