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BUMP OF CHICKEN試論#short004_信頼のゲーム―「時空かくれんぼ」

ここのところ『orbital period』ばかり聴いている。だいたいこのアルバムはジャケットからして既に素敵すぎるのである。

「時空かくれんぼ」を聴くたびに、嫌なことを言うなあ、とつい思ってしまう。自分という閉鎖系における「僕」と「君」の、過去と現在の、終わることのない騙し合い。自己欺瞞、脳内会議、言葉のいらないひとりごと。これは誰もが苦しまなくてはならないありふれた地獄のひとつだけれど、BUMPはこれを「かくれんぼ」として描き出した。

隠れる場所は/どこであろうと/常に世界の中心だから

BUMP OF CHICKEN「時空かくれんぼ」作詞・作曲:藤原基央


ゲームの舞台は、まさしく「心が作った街」である。
そして、このゲームには審判も観客も存在しない。いるのは当事者であり同時に世界そのものでもある「僕」と「君」だけなのだ。

対戦相手は世界最強のハンターであるところの「君」である。隠れおおせる筈もない。しかし、それがわかっていても「僕」はつい物陰に潜んでしまう。明るいものや温かいものに恐れをなして、その喪失を予見して、尻尾を巻いて逃げていく。

温かいものは/冷めるから/それが怖くて/触れられない
貰わなければ/無くすこともない
(略)
輝くものは/照らすから/それが怖くて/近寄れない
見つめなければ/見られたりしない

(同上)

でも、本当に恐ろしいのは見つかることではなく、見つけてもらえないことである。逃げたまま、隠れたままで、ゲームに「勝って」しまうこと。これこそが取返しのつかない敗北だ。だから、「かくれんぼ」は「信頼のゲーム」なのかもしれない。未来の自分が、今より少しだけ強くなった自分が、過去の弱かった自分を必ず発見してくれる。光のあたる場所へ引っ張り出してくれる。怖いことである。でも、僕らはそのようにして少しずつ大人になっていくしかない。そんなゲームを、僕らは死ぬまで繰り返す。BUMPはそのような生の残酷さをみずみずしく描き出すことで、逆説的に僕らを癒してくれる。

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