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透明な細胞を観察できる位相差顕微鏡とは

私たちは、ガラスやプラスチックなど透明なものを目で見ることができますが、色がついたものに比べて見にくいのは明らかですよね。

たまにきれいに磨かれたガラスドアにぶつかってしまうなんて言うハプニング映像も見かけたりもしますよね。

このように私たちの目は非常に優秀な感覚器官でありながらも、やはり透明なものには弱いという課題があります。

これは、より小さなものを見ようととする顕微鏡の世界でも同じです。
色のついたものならまだしも透き通った小さな細胞を見ようと思っても、なんだか良く見えないというのが実際のところでしょう。

ところが、そのような透明な細胞でもなんとかして観察しようとするのが研究者です。今回はそんな透明な物質を見る技術の1つとして位相差顕微鏡というものを紹介したいと思います。

位相差顕微鏡とは

位相差顕微鏡とはその名の通り、光の位相差を利用して、透明なものでもコントラストを付けて見やすくする顕微鏡のことです。

と、言ってもなんだかよくわからないですよね。そもそも位相差ってなに?ってなります。

位相差顕微鏡 引用元:wikipedia

位相差とは光がたどり着くタイミング(光の波のズレ)だと思ってもらえば良いでしょう。

私たちの目では観測することが難しい、微細な位相差、光の波のズレを利用して、透明なものにも明暗の強弱をつけてやるという手法です。

これも前回紹介した暗視野顕微鏡と同様にノーベル賞を獲得した偉大な研究成果の一つです。これにより生物研究などが一層進展しました。

引用元:https://lavinia.as.arizona.edu/~mtuell/images/phase%20contrast.php

それではざっくりと位相差顕微鏡についてわかったところで、その原理について見ていきましょう。

位相差顕微鏡の原理

位相差顕微鏡では、2種類の光を利用して結像します。

1つ目は通常の顕微鏡で使われる直接光です。これは私たちが一般的に使う顕微鏡と同じですので難しくはありません。

2つ目は回折光というものです。これはサンプルに侵入した光が、向きを変えて進んだ光になります。透明であっても生じる現象であり、この回折光というものを上手に利用することで、位相差顕微鏡のシステムが成り立ちます。

回折光は、直接光に比べて一般に1/4波長だけ遅れて到着します。これが位相差、光の波のズレですね。この位相差=ズレを利用して、透明な物質にコントラストを付けていきます。

光に限らず波には干渉と呼ばれる現象があります。わかりやすい言葉でいえば、波の強めあいと弱めあいです。

雨の日の水たまりにきれいな波紋が重なっているところを見ることができますが、その波紋のぶつかったところではこの干渉が起きています。

それぐらい一般的な現象なんですが、光の干渉というとあまりなじみがないように思えますよね。実はシャボン玉のカラフルな模様なんかも干渉と呼ばれる現象の1つです。

さて、少し話がそれてしまいましたが、位相差顕微鏡でもこの干渉を存分に使い倒します。

直接光と回折光は位相がずれているため、それらが重なると干渉を起こします。しかしながら、ただ干渉させただけでは思っているほどコントラストが付きません。

そこで、位相板と呼ばれる道具を利用して、直接光を1/4波長だけずらしてやります。すると、回折光と同じぐらいの強度でかつ位相が1/2波長ずれた状態を作ることができますね。逆方向に直接光を1/4波長ずらすと位相のズレがなくなります。

位相板により位相差を制御することで,強めあいの光(赤)と弱めあいの光(青)を作り出す.
この2つの光を利用することで透明なものにコントラストをつける.

この操作の何が良いのでしょうか。実は、これにより、波がより強めあったり、弱めあったり、しやすくなるのです。

さらにここでもう少し工夫をしてやります。というのも、直接光の強度が強いため、せっかく干渉のために獲得した回折光の影響が薄まってしまいます。そこで、位相板によって直接光の位相をずらすだけでなく、強度も少し下げてやります。これにより、回折光とちょうどいい強さで干渉させるということが可能になります。

こうして、回折光の影響を直接光に混ぜてやり、コントラストをよりくっきりとつけることができるようになりました。これが位相差顕微鏡の原理です。

簡単に書いていますが、この原理を考えて実際に実現するための道具をそろえた同時の研究者たちは本当にすごいと思いますね。

最後に

今回は位相差を利用することで透明な物質にコントラストを付ける位相差顕微鏡について紹介しました。

物理屋としては光の基礎は学びましたし、位相についてもある程度分かっているつもりですが、このようなシンプルでありながら、コロンブスの卵的な発想ができる研究者には頭が上がりませんし、本当に感心します。

そして、その理論だけでなく、実際に顕微鏡システムを開発するところまで行うというのもまた技術者たちのすごいところです。
このような科学技術の魂を忘れずに生きていきたいものですね。

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