壁抜けを使って電子を操る単電子デバイス
みなさんは究極のデバイスというとどんなものを思い描くでしょうか?
スーパーコンピューターでしょうか?それとももっとすごいものでしょうか?
今回はある意味、究極のデバイスといってもいいような単電子デバイスについて簡単に紹介したいと思います。
単電子デバイスとは
その名の通り電子1つを制御することができるデバイスです。
中高で習う電流というのは電子の流れと向きが逆とか習いますが、私たちが普段考える電気というのは気が遠くなるぐらい大量の電子の流れによるものです。
つまり基本的にデバイスを使うには大量の電子を動かす必要があるため、それなりに電力が必要になります。
それに対して電子をたった一つだけ操ることができる単電子デバイスは桁違いに小さな電力で動作することができるわけです。
つまり、単電子デバイスを使うと非常に省エネで環境への負荷も小さくなるということです。
電子が1個だけ飛び移っていますね。こんな感じで電子が1個ずつ飛び移っていくのが単電子デバイスです。
しかし、単電子デバイスのすごいところは単なる省エネや環境に優しいという点だけではありません。
単電子デバイスは私たちの常識を超えた機能で動作しているんです!
電子を波として扱う
まず、単電子デバイスを実現するためにはナノスケールの構造を作る必要があります。このナノスケールの構造は非常に重要で、電子の波動性という波の特性を扱います。
波動性というと聞きなれないかと思いますが、非常に小さな電子は粒子としてだけでなく波としての性質も同時に持つということが知られています。
それがどうしたんだ?と思う人も多いでしょう
この波の性質を使うことで、電子のトンネル効果という現象に関係します
トンネル現象とは
これは非常に難しいのですが量子力学の領域では非常に小さな壁を電子がまるでトンネルするかのように通過してしまうという現象です。
つまり壁抜けができてしまうということです。
この現象を量子力学の授業で習うと、人間も壁抜けできるのか!?と SF を想像してしまいます。残念ながら実際に、人が壁抜けするには天文学的な確率になってしまうため現実的ではありません。
しかし、電子ぐらい小さな物体になると非常に薄い壁であれば壁抜けしてしまい ます。この現象をうまく使ってやると電子をひとつだけ壁抜けさせることが可能になります。
そこで単電子デバイスでは、少し変わったナノ構造を作製して、電子を1つ操ります。
単電子デバイスの構造
ちょっと専門的な話になってきましたが、わかりやすいようにやさしめに紹介していきますね。
単電子デバイスでは単電子島という非常に小さな島を用意します。小さすぎて粒にも見えないぐらい小さいです(数ナノメートル)。この島は小さいので、わずかしか電子が入ることができません。
この特殊な構造に加えて先ほどのトンネル効果を使います。
通常、電気を通す物質に電圧をかけると電気が流れます。
このデバイスでも同様に電圧をかけると電気が流れるはずですが、そう簡単には行きません。というのも、電子は薄い壁をトンネルしなければなりません。
しかし、非常に弱い電圧では電子がなかなかトンネルしてくれません。
ここで電圧を上げていくとあるところで急に電気が流れるようになります。つまり電子がトンネルできるようになるわけです。(クーロンブロッケード現象)
この電圧の閾値は決まっているので、私たちは電圧を制御することで電子(電流)を動かすか止めるかを決めることができます。しかも、先ほど作った小さな島があるおかげで数個程度の電子の動きを決めることができるようになるのです。
最後に
この単電子デバイスは最近巷で話題になっている量子コンピューターにも使えるという風に言われています。
実際には現在作成されている単電子デバイスではまだまだ実用には難しかったり、量子計算に使えるほどではないと言われていますが将来的には可能になると考えられます。
世の中が量子コンピューターブームに一色になる前に、このような技術をチェックしておくのいいかもしれませんね。
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