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ヤモリの手を真似すると掃除が必要なくなる話

ヤモリというとツルツルのガラスでも何事もないように上ることができる不思議な手足を持っています。

彼らの手には非常に微細な毛が生えており、その1本1本の毛が微小な引力を持つことにより、手には粘着力を持ちます。

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ここまでは、生体模倣(バイオミメティクス)分野ではかなり有名なお話で知っている方も多いかもしれませんね。

しかし今回紹介するのは、ヤモリの手は汚れが付かないという特殊な能力を持っているようです。

ヤモリの手がもつセルフクリーニング

ヤモリの手は面白いことに、どんなにホコリが多い場所を歩いても、たった4歩で80%の汚れを落として、粘着力を回復するようです。

そんな話を聞くと、ヤモリの手を真似すれば、私たちは掃除いらずになるのかな?と思ってしまいますよね。実際はそんな単純な話ではないようですが、そこに潜む科学は非常に面白いんです。

それでは、ヤモリの手を真似した新材料の特徴を見ていきましょう。

ヤモリの手を模倣した新素材

まずはホコリやチリがくっついてもすぐにきれいになるヤモリの手を再現した新材料がどのくらいの性能を持つか調べなければなりません。

そこで研究チームは親水性のアルミナと疎水性のポリスチレンという2種類の粒子をホコリのモデルとして使いました。つまり、水とくっつきやす物質と水とくっつきにくい(油とくっつきやすい)物質を使って、ヤモリの手を真似した材料はどちらの方がくっつきやすいか調べたわけです。

その結果、非常に面白いことが分かったようです。

なんと、この粒子のくっつきやすさは、周りの温度によって異なっていました。温度が高くなるとアルミナ粒子はくっつきにくくなり、一方で、ポリスチレン粒子はくっつきやすくなったようです。

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参考文献より引用(高温ではポリスチレンPS粒子(青玉)がつきやすく、低温ではアルミナAl2O3(白玉)がつきやすくなる)

片方しか落ちないなら、全然きれいにならないじゃないか!と思いますよね!確かにそうかもしれませんが、これはある意味重要な能力でもあります。

というのも、水にくっつきやすい粒子をくっつきにくい粒子を、周りの温度を変化させるだけで自由に分離することができるというわけです。要は水につきやすいものをとりたいときは温度を下げて、反対に水と仲が悪いものをとりたいときは温度を上げればよいということですね。

つまりヤモリの手を模倣した新材料を使えば、選択的に汚れを落としたり、粒子を吸着したりすることが可能になります。


不思議な吸着力の正体

どうしてこんな不思議な現象が起こるのでしょうか?

これはあくまで考察の域を出ませんが、論文では次のように考えられています。

アルミナ粒子は水素結合で表面とくっついており、温度が上がると、水素結合が弱くなるため材料表面から外れやすくなります。

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参考文献より引用(左が低温、右が高温)

反対にポリスチレン粒子の場合、温度の上昇に伴って分子鎖が動きやすくなり、広い領域にわたり材料表面にくっつくことができるため、吸着力が上がるという理屈です。

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参考文献より引用(左が低温、右が高温)

個人的には、これには他にも考察の余地があるのでは?と思いますが、とりあえず、現状得られている結果からは合理的な理由と判断されているようですね。

単純な方法にはなりますが、他の粒子を使って結果を出していけば、著者の説は立証されるのかなと思います。


最後に

親水性か疎水性のどちらかの汚れしか落とすことができないというのはセルフクリーニングなのか?と思いますが、少なくともこの研究で見つかった発見は非常に興味深いと思います。

乾いた状態で接着するヤモリの手を模倣してみたら、選択的な吸着・脱離を制御する新素材ができたというのは素晴らしい研究だなと感じますね。


参考文献

Challenges, including low mechanical strength, low stiffness, and short fatigue time keep these materials from being used in practical applications.

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