【電気ウナギを超えろ】シルクを使った生物由来電池が開発される
タイトルが大渋滞ですが、今回紹介するのは電気ウナギの発電方法に着想を得て、シルク(絹)を使った実現した新しいタイプの電池のお話です。
シルクと聞くとシルクロード、そう高級な衣服を想像する方が多いと思います。
現在、シルクの有用性は医療用材料や高強度材料など様々な領域で注目されている将来有望な材料の1つなのです。
今回は、シルクで作り上げた極薄の膜を使って電池の材料にしてやろうという研究を紹介してきたいと思います。
電気ウナギから着想を得た電池
電気ウナギは、自ら発電できる非常に有名な動物の一種ですよね。この電気ウナギは発電することができる細胞を持っており、約600Vといわれています。
wikipediaより引用
ピカチュウの10万ボルトに比べると大したことがない気がしますが、電源コンセントが100Vであることを考えると非常に強いことがわかります。
この電気ウナギの細胞は非常に微細ながらも、体内のイオンを適切に移動させることができる仕組みが整っています。電気というのは電位差、つまり何かしら電気的な偏りが生じることで発生します。
イオンというのは微弱ながらも電気(正しくは電子)を帯びており、プラスのイオンとマイナスのイオンがそれぞれ分かれて集まることによって電気が発生します。※
今回は、シルクを使って電気ウナギの細胞のようにイオンを上手に分離することができる膜を作成し、その膜を使って電池を作るというお話です。
シルクフィルムの構造
シルクといえばカイコという蛾が吐き出す糸です。その肌触りや色合いから上質な衣服に使われます。
カイコの繭(これをほどくとシルクになる)
このシルクを液体に溶かして広げるとシルクでできた薄い膜が出来上がります。ちょっと語弊はありますが、ティッシュを水で溶かしてグチャグチャにしてから広げて乾燥させたような感じですかね。
重要なのはこの薄いシルクの膜には非常に小さな穴が開いているという点です。この穴を使ってイオンを分離していきます。
シルクの薄膜のナノポアといわれる小さな穴は約36~54nmであるようです。おおよそインフルエンザウイルス(100nm)よりも小さな穴です。
しかし、今回分離したいナトリウムイオン(Na+)や塩化物イオン(Cl-)はもっと小さいです。そこで研究グループは少し大きめな分子をシルクの表面にくっつけることで穴のサイズを調整しました。また、くっつけた分子の種類によってナトリウムイオンや塩化物イオンを選択的に分離します。
参考文献より引用
この分離膜を交互に大量に積層させることで大電力を取り出すことも可能になります。最終的には1.58Vの出力を出せる電池ができたようです。
この電池のセルをたくさん集めると…こんな感じになる
参考文献より引用
いったい何に使えるの?
世の中、様々な電池があふれていて、なにを今さらシルクで電池を作って役に立つの?と思う方が多いと思います。
ここで重要なのは、このシルク電池ですが、シルク以外は海水のようなものしか使っていないんです。海水、つまり食塩水は私たちの体に触れてもそれほど害がある物質ではないですよね。(過剰に取ったら良くないですが)
つまり、生体から作られるようなシルクと海水で作られた電池は体の中に入れることも可能なようです。
実際研究グループはラットの体の中に電池を埋め込むインプラント手術を行いました。そして体の中に埋め込まれてもしっかりと電池として機能したそうです。
最後に
言われてみれば、確かにと言えるような研究ですが、ここまでやりきるのは本当に骨の折れる仕事だと思います。実際ナノテクに携わっていると、いかにナノ材料を作るのが難しいのかわかります。
そんな中で、正確に材料を作り、実際に電池まで作ってしまうあたりは本当に大変なことだと思います。
まだまだ、電気ウナギには及ばないですが、これから研究が進むことでシルクを使ったエコナ電池ができるかもしれませんね。
※イオンと電気の発生の説明に関しては大きく語弊を含む可能性があるので、教科書などを読んでください。
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参考文献
Biomimetic Salinity Power Generation Based on Silk Fibroin Ion-Exchange Membranes