豊穣神話のまとめと行為者モデル【物語元型論】
ここまで3回に渡って、英雄譚の片割れである豊穣神話についての解説をしてきました。なので、この辺りで一旦まとめをしておきましょう。まとめをするにあたり、説明にちょうどいいモデルを見つけたので、まずはそこから説明していきます。
行為者モデルとは
行為者モデルとは物語の役割を6つに分けて、それぞれを関連づけたものです。典型的な英雄譚、つまり「村を旅立った英雄が竜を倒してお姫様と結婚する」物語なら、このモデルは次のようになります。
典型的な英雄譚では、王様の「お姫さまを救い出した者を、彼女の婿とする」というお触れがあるからこそ英雄は旅立ち、戦うのです。
豊穣神話全体の要約
豊穣神話は、季節の変化と循環を説明する神話です。特に、冬から春への変化が重要です。現代の英雄譚は、農耕牧畜社会の豊穣神話から生じています。これは、さらに狩猟採集社会の豊穣神話を下敷きにしています。
狩猟採集社会と農耕牧畜社会を分けるのは、文明の有無です。ここでは文明の始祖を英雄としています。つまり、英雄の登場によって狩猟採集社会から農耕牧畜社会に移行したのです。
狩猟採集社会
↓
---- 文明の幕開け(英雄の登場) ----
↓
農耕牧畜社会
狩猟採集社会の豊穣神話
まずは古い方から説明します。狩猟採集社会の豊穣神話の主役は、地母神です。彼女は自然を象徴とする存在です。もう一人の登場人物は永遠の少年。彼は地母神の息子兼愛人で、植物を象徴としています。
永遠の少年は大人になりません。なぜなら、地母神が彼を食べてしまうからです。これは冬の間は種が地中に埋まり、芽が出ていない状態を指します。しばらくすると、少年は再び女神に生み出されます。つまり芽が出て春が来たということです。神話では、冬から春の変化を死と再生になぞらえているのです。
行為者モデルで説明すると、地母神が永遠の少年を生み出し食べているので、主体と送り手、受け手は彼女です。さらに地母神は誰のものでもなく(=処女)、多くのものを生み出す力(=多産)を持っています。だから手助けなど不要なので、援助者が不在なわけです。加えて、原初の地母神は全てを創り出す大地の女主人なので、阻む者もいません。もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな……。
一方、永遠の少年は、地母神が求める対象です。場合によっては、彼女から逃れようと少年は奮闘します。しかし、おおかた健闘虚しく死にます。そうじゃないと春が来ないからね!
農耕牧畜社会の豊穣神話
農耕牧畜社会の豊穣神話は、新年を迎える前に、王座を巡る決闘を行います。これに敗北した方が(永遠の少年のように)大地への生贄になり、勝利した方が大地の女神(≒地母神)との聖婚を行います。古い豊穣神話で誰のものでもなかった女神は、ここに来て王の妻となります。そして、王と女神の聖婚によって春がやってくるのです。
上図の行為者モデルでは、王への挑戦者である新王を主体、つまり主人公としています。さらにヒロインである女神がメンター(賢者)を兼任しています。現代の物語でも、主人公をサポートしてくれる仲間の1人と最後にくっつくパターンがよくありますね。加えて、敵対者である旧王が、送り手を兼任しているところも興味深いです。悪い王様にお姫様が囚われているパターンに似てますね。