Trip|「瞳の奥にもっと良くしたいという思いが宿る」平田明珠さん|ヴィラ・デラ・パーチェ
9月下旬、友人の料理人で、2021年に都内でレストランをオープンする予定の大野尚斗さんと、豊洲に拠点を置いて、日本各地の食材を都内のレストランに紹介するスーパー八百屋「eff」の吉岡隆幸さんとともに、石川県と新潟県を旅してきました。
加賀れんこんの農家、川端崇文さんの畑から日本海沿岸を走る「のと里山街道」を北東へ。県道2号線に接続した先で七尾市にたどり着きます。
石川と新潟の食材ツアーの夜は、最初の食事は能登半島の中央部で、富山湾の奥にある港町、七尾です。尾張国に生まれて14歳で織田信長の小姓として仕えた始めた前田利家が1581年に七尾城主となり、その後江戸時代には「加賀百万石」といわれる大藩になった加賀藩の始まりの地ともいわれています(七尾城にいきたかったけど、今回は時間がなく断念)。
能登の玄関口で、海と山に囲まれた七尾にある一軒家レストランが「ヴィラ・デラ・パーチェ」です。2016年に、都内のイタリア料理店で修業してきた平田明珠さんが、2016年に帰郷しオープンさせたレストランです。
「“能登だから”できること、“能登だから”作れる料理」をコンセプトに、能登の食材をふんだんに使ったイタリア料理を出されるということで楽しみにしていました。
シェフの平田さんにお会いすると「noteをいつも見ています」といっていただきびっくり。じつは平田さんのnoteを読んで、「応援したいレストラン」という自分のマガジンに投稿していたんです。
お店の名前が覚えられない僕。そういっていただいて、ようやく思い出したという超・超失礼な話。だけど、地方のレストランで値段を上げるということに挑んだ平田さんの話は覚えていて、「そうでしたか!」と、一気に親近感がわき、ますます楽しみなディナーになりました。
能登の食材をふんだんに使ったイタリア料理
僕たちが訪れたのは、9月23日。じつは「ヴィラ・デラ・パーチェ」は、現在の山の中にある店舗から、七尾湾を臨む海沿いの地に移転が決まっており、22日が旧店の最終営業日でした。
そこをスーパー八百屋「eff」の吉岡隆幸さんが特別に頼んでいただいて””延長戦”をしてくださったのです。ありがたい!
蕎麦がき
お店からさらに山の方に入っていたとことで採れたという蕎麦から作った蕎麦がき。スープは、同じく地元の山で採れるシイタケのコンソメ。シイタケの旨味が一気に鼻孔を駆け抜けます。
甘海老 茄子 トマト(右から)
アミューズのフィンガフード3種類。
アオリイカ 背油 おぼろ昆布
前菜の1皿目。アオリイカにラルド(背油)を巻き、さらに能登名産のおぼろ昆布をまいてあります。
花白
ハナジロとはブリの幼魚。バルサミコの甘酸っぱいソースが、イタリアのアグロドルチェの料理そのもの。平田さんのイタリア好きさが感じられます。
畑
おくらやトマト、そうめんカボチャなどの野菜をさまざまに加熱して、土を見立てたパウダーを散らして、畑を再現した見た目も味も楽しいひと皿。
焼き茄子 わらび
手打ちのタリアテッレには、わらびと独特の食感を出すために葛粉が練り込まれています。ソースは焼き茄子のジュ。茄子の旨味をしっかりと吸わせてパスタのようなパスタでないような、挑戦的な冷製パスタでした。
甘鯛
鱗焼にしたアマダイに合わせたのは、長屋農園のサンマルツァーノ種のトマト。酸味と甘味のバランスのよいトマトが、タイの旨味を支えていました。
本州鹿
本州鹿を丁寧に火入れ。地元のクレソンとともに。
烏骨鶏
烏骨鶏のタマゴを使ったプリン。烏骨鶏の力強さが前面に伝わってきます。
浜茄子 浜香 猿梨
猿梨は、小さなキュウリのような植物。七尾港は、古く北前貿易で栄えた港らしく、さまざまな文化が混ざり合う土地であることを感じさせる。
茶菓子
この日の白眉は、満場一致で「焼き茄子 わらび」。イタリア料理は、よくも悪くもイタリアの型のようなものが強くて、そこから抜け出たとたんイタリア料理じゃなくなるっていう部分があるように思います。それが、イタリア料理をベースにしたイノベーションが起きづらい原因なんだと思っています。
しかし、この「焼き茄子 わらび」は味の構造として油脂分がほとんどなくて、パスタもワラビを練り込んでいるから、小麦の香りや咀嚼した甘味がないので、パスタの醍醐味はほとんどないわけです。だけどこの料理がパスタだと思うのは、たぶん葛粉の独特な食感なんだと思う。
それは、食感がパスタと同じだということわけではなく、食事をするさいに口のなかでさまざまな情報が渦巻くわけですが、そのなかで食感の要素の割合が、おいしいパスタのそれと同じだったことだと思います。
料理から人が伝わるかどうか
食事のあと、平田さんといろいろなお話をしました。移転先にはレストランだけでなく宿泊棟も併設しているそうです。その場所の目の前は一面の海。ただその景色を眺めることが贅沢であるということを伝えたいということや、生産者さんとの繋がりなど。
僕からも食べて感じたことをいろいろお話しました。たぶん、「なにくそ」と思ってしまうこともいっぱい言ったのですが、平田さんは一つひとつの意見に耳を傾けて、もっと良くしていきたいという目で僕を見てくれます。
僕も、誰にでも意見を言うわけではなくて、良くなってほしいとか、すごくいいものがあるけどまだ編集しきれていないみたいなところを感じたときにだけ意見させてもらっています。なので、けっして「おいしい」とか「おいしくない」とかはいいません。僕が話すのは、いつだって「料理を通じて想いが伝わってきたかどうか」、「料理の向こうにあなたが見えるか」とうことです。
そういう意味でいうと、平田さんの料理には「能登への愛」がとても詰まっているんです。そして、それをもっと高度に伝える方法があると僕は感じるので、その部分をもっと磨いていったら本当にすごいレストランになるんじゃないかと思いました。
平田さんのようにこれからどんどん良くなっていくしかない、そんなことを感じさせてもらえる人にお会いできると、僕は本当に未来が明るく感じるんです。
いまでさえも十分なのに、もっと良くなりたいと思える強い心をもてるというのは、ものすごい才能です。
「また、食べにきたときにもっとおいしくなっていて欲しいな」
そんな思いをもって楽しい夜を過ごしました。
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明日は、2日目の旅の様子。七尾港の朝について書きます。
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