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【映画感想】Fワード満載だけど最高にクールな映画『思いやりのススメ』

原題は『The Fundamentals of Caring』。

うむ、たしかに訳しづらい。直訳すると「ケアの基本」。ケアっていうのがポイントで、思いやりにもなるし、介護とか誰かの世話をする、気遣うといった意味もある。ススメがちょっとしっくりこないのかな。私はどちらかというと、そのまま捉えることにした。

最初から最後まで口悪いし品がないけど(子どもには見せられない)、最高にクールな映画だった。

作家になるという志をあきらめ、介護士として働きはじめたベン。なおもくすぶりを抱えたまま臨んだ初めての仕事で、彼は筋ジストロフィーを患う車椅子の少年を担当することになる。ぶつかり合いながらも、次第に心を通わせていく2人。

世界一深い穴を目指す旅

ずっと家に籠もっていたトレヴァーは地図上に謎スポットを集めていた。そのなかの「世界一深い穴」を最終目的地として旅は進む。途中で誰かに出会い、初めての感情を体験し、学び、成長し、そして別れがやってくる。これだからロードトリップが好きなのだ。

巨大な牛を見に行くのがシュールで笑った。「車椅子だからって見られないのはおかしいだろう!?」とありえないほどの勢いで権利を主張して、電動車椅子を大男2人がかりで牛(の剥製?)がいる2階に上げてもらって見るのだが、そのシーンのカメラワークが最高だった。

牛の目、ベンの目、トレヴァーの目、牛、ベン、トレヴァー…。いや、シュール!しかもものの数十秒で満足して、今度は下ろしてもらう。

関係を築くということ

介護士を目指すベンが受けた講習では、介護の基本は「ALOHA」であると教えられていた。「Ask」「Listen」「Observe」「Help」「Ask again」の頭文字だ。

ベンとトレヴァーの関係は基本に忠実ではない。むしろその逆である。遠慮しない。「してあげる」側と「してもらう」側という立場で接していないのだ。ただ友人として、人間同士の関係があるだけだ。

けんかしてベンが「服を表裏逆に着せるぞ」と脅す。トレヴァーは食べ物がのどに詰まったフリをする(そして嘘でしたーとやる)。今度はベンが、命に関わる薬をなくしたフリをする(そして嘘でしたーとやる)。かなり際どいジョークだし、見ているこちらはヒヤヒヤしたけど、それによって絆は深まっていく。

実はこの物語、原作の小説があるそうで、エンドロールに流れたそのタイトルに深く納得した。直訳すると「改訂版 介護の基本」。つまり、本当に繋がりを持つのならば踏み込まないとね、という物語だったのだ。

「ハンサムでクール」というセリフで泣いたのは初めてだった。

(2016・アメリカ)


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