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【映画感想】心理描写が巧みな傑作『わたしの叔父さん』
アマプラで映画を観た。『わたしの叔父さん』である。
開始5秒で好きになってしまった。カーテンの柄、壁紙、タイル、どれも素朴なのになんだかかわいい。最初は地味だなという印象だったけど、物語が進むにつれて少しずつ釘付けになった。
舞台はデンマークの田舎町。酪農業を営む「わたし」と「叔父さん」の話だ。ネタバレしたくない方はご注意を。
好き度:★★★★☆
静かな日常
本当に静かだ。BGMもない。寝る前にちょうどいいと思ってしまうくらい。きっと退屈で、つまらないと言う人もいるはずだ。でも私にはこの静けさこそがこの世界に入っていくために必要だったと感じる。
生活音だけが響く。会話はない。序盤、聞こえてくるのはテレビから流れるニュースだけだ。デモ、難民問題、ミサイルの発射、ニュースの話題からして舞台は現代だと気づかされる。
カーテンを開けて体を起こすのを手伝い、服を着させ、順番に洗う手、すっと差し出す洗剤、協力して畳むタオル、買い出し、食事の前に叔父さんが折るナプキン。その全てがルーティーンなのだ。
自分の人生を生きる
主人公はクリスという名前であるのが時間が経ってからわかる。乳牛と身体が不自由な叔父のケアをして生きている彼女。自分のことは何一つしていない。獣医学を学びたいけれど、それも言い出さない。
クリスは叔父に苛立ち、当たってしまう。農場から離れられない、私がそこにいなくてはいけない。叔父が心配で、責任感が強いからこそ、そう思っている。
獣医になる夢も、誰かと恋愛することも、叔父のために諦める。一見、ケアする側とされる側の一方的な関係に見えるけれど、お互いがそこから動けなくなっているように見えた。
獣医師ヨハネスの助手として働いたり、新しい人との出会いによって、さざ波のように少しずつクリスの日々に変化が起こる。叔父は少しずつ自分の人生を生きたほうがいい、と彼女の背中を押すようになる。ルーティーンから抜け出し、自ら服を着て朝ごはんを準備する。いつものスーパーで、「デートにアイロン(コテ)は必需品だ」と言って買うシーンが好きだった。
揺れ
説明せずに心理描写を描いている作品は私のなかで傑作認定される。この作品がまさにそうだ。自分の本音、少しずつ変わっていく気持ち。そのほんの少しの揺れを見事に描いている。
自分の人生を生きるのは難しい。特にすぐそばに守りたい大切な人がいる場合は。抜け出したいけど出られない閉塞感、息苦しさ。これはどこに住んでいても、誰であっても同じように共感できる部分だ。
メインの2人は本当の叔父と姪だということを視聴後に知って、ますます余韻がじわじわと胸に広がった。