読書記録「木曜日にはココアを」
私には、好きな色がある。それは、緑。
腕を走る血管、葉っぱ、いつも歩くアスファルトの道、砂利道、光、さまざまなものに、私の好きな色が紛れている。
その、好きな色は、時々私を悩ませるが、大いに私を助けてくれることもある。
「木曜日にはココアを」は色をめぐる12編の物語。
それぞれの物語は、次の物語へ。それぞれの人も、次の物語へと続いていく、そんな“繋がり”が見えてくる。
一人の物語は、一人だけのものであるように感じられがちだが、実の所、人間は、それぞれ関係しあって、影響していかないといけない。関係し合うという努力がなくても、無意識に、不意に誰かの心に影響のある一言を発していることもあるだろう。
そんな一言の連鎖に救われ、それぞれ影響しあっていく、物語の主人公たち。
様々な色がキーワードとなり、物語は展開する。私が好きな章は7カウントダウン[Green/Sydony]。この物語は本当に個人的なつらかった、しんどかった、誰かに救って欲しかった過去の自分自身が、救われたような、そんな物語だった。近く、小説を読んでここまで心が動かされて、大泣きをしてしまったことは無い。それぐらい泣いて、泣いて、そして、自分自身全てが救われたような感覚になった。
全体的に時間をかけて練られている様子のある本で、作者のほか作品も3冊読了したが、個人的にはこの本が今のところ、1番好きな本。
この物語の登場人物達がこの後、どうなるのか、とても気にもなる。読了感だった。
好きな章
[Yellow/Tokyo]「きまじめな卵焼き」仕事は出来る優秀な女性が、主夫である旦那さんの留守中に、一人息子のお弁当に入れる黄色い卵焼きについて奔走するもの。家事の全く出来ない自分。旦那さんのことについて何も知らないのではと悩んだり、それでも前を向いていく物語。
仕方ない、私はずっと、逃げてきた。大嫌いな家事と自信のない育児を輝也に一切まかせて、仕事に逃げてきた。みんながなんでもなくできることができないコンプレックスから逃げてきた。
[Pink/Tokyo]「のびゆくわれら」。ピンクのネイルを落とし忘れ、幼稚園の仕事に行ってしまった先生の物語。たったネイルを落とし忘れたぐらいで…という気持ちの中で、何か別の事をしてみたくなって探してみたものの、結局は幼稚園の仕事の魅力を再発見する物語。
ひとつひとつがライブなんだ。試行錯誤で、体当たりで、合っているかどうかわからない正解を探し続ける。毎日毎日、音を立てるように大きくなっていく子どもたち。ひとりひとりと向き合いながら、きっと私も、伸びていく。
[Green/Sydney]「カウントダウン」「緑色を描きに」ワーキングホリデーでおとづれたシドニー。大晦日のロイヤル・ボタニック・ガーデン。突然声をかけられた人物の言葉に、心を大きく動かされる。
「だから描き続けて。君の緑に、救われる人がいるよ。君が描いているのは『君』であって『あなた』だ。それぞれの人が、自分にぴったりの一枚をきっと見つける。もっとみんなに見せてあげて」
[White/Tokyo]「恋文」。
好きな場所で、好きな景色を、好きな人と見て、好きなことを話す。
私は今まで、そんな大切な願いに対して、どこか臆していたような気がします。
でも、思ったときに進まなければずっととまったままで、それどころか、その願いは果たせないうち気持ちごと消えていってしまうかもしれない。