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「お客様の声」は大事だけど、落とし穴もある。 ヒット商品を生んだ「好き」のチカラ

主観とお客様の声のはざまで

「お客様のことを真剣に考える」。その言葉は、非常にきれいで、ある意味では正しい姿勢だと思う。

私たち自身も起業して2、3年は、とにかく「お客様の声」を聞きました。

「持ち手がもっと長ければ」

「ポケットがここについていたら」

「ボストンバッグが欲しい」

さまざまな声を店舗から吸い上げ、すぐにバングラデシュの工場に伝えていました。

私が現地の工場にいる時はいつも、「店舗からの声」を朝礼や、生産フロアで熱量を込めて伝えていました。それはいつも、瞬時に効果を表していたように思います。

みんなが一体となってお客様から工場までつながっている。そんな気持ちが生まれてこれこそ本当に密な製造小売だ!と私は興奮していました。予算も達成し、百貨店での売り上げもフロア最下位から、ぐんぐん上位に食い込んでいきました。

しかし、問題はその先にありました。

気づいた落とし穴

ある程度、商品のバリエーションが出揃った時期から、お客様の声を聞くだけでは成長が続けられないことがわかってきたのです。

新商品を投入してからの成長が鈍化していき、店舗も目に慣れた色や形が並んで、なんとなく「活気」や「新鮮さ」がなくなっていきました。それは工場も同じ。技術力がついてきて、ものづくりに「挑戦」がなくなっていったのです。

そんなとき、私は思いました。

「お客様の声を拾い上げるだけではもう足りない」

もっと「私らしく」デザインしてみよう。

本当の意味での「デザイナー」になれ。

今にして思うと、この時、誰かにそう言われていた気がしました。もちろんお客様の声を聞くのは今も昔も大切にしていますが、「違う視点」を自分の中に採り入れることも大切だと思ったのです。

海外のトップデザイナーの作品を真剣に見るようにもなったのも、この頃だったと思います。

販売サイドを管理する副社長(当時)の山崎もまた、これまでの方法では限界だと感じていたようで、「もっと自由に、山口絵理子らしくデザインしてみてほしい」と言ってきました。

「私らしく」と言われても……。

正直、私は最初からデザイナーになりたかったわけでもないから、しばらくは何からスタートすべきかわかりませんでした。

でも、ある講演会の帰り道、大きな花束をもらって、それを持ちながら満員電車に乗っているときに〝降りてきた〟んです。

「花ビラの形ってバッグの型紙にできるかもしれないな」

そんな突拍子のないアイディアをもって、私は工場のあるバングラデシュに戻りました。

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商品づくりの風景

花びらの形

「ねえ、みんな、花ってきれいだよね。花びらの形ってなんだかバッグみたいじゃない? ここからバッグをつくってみよう」

リアルな花の写真をいくつか印刷して作業部屋の壁に貼りました。

サンプル職人であるモルシェドは最初、その発想にキョトンとしていましたが、しばらくしてから花びらの形を紙にトレースし始めました。

それを何枚か重ね合わせて、ふくらみがバッグの容量になってきた。

(おもしろい……)

最初にモルシェドが見せてくれたものは蕾みたいな形で、バッグとしては間口がせまくて機能しないものでしたが、私は彼に「すっごくおもしろいよ!!」と言いました。

そしたら彼は一言、「もう1週間も夜ずっと考えて……」。

疲れ果てているモルシェドでしたが、「何か新しいものをつくろう」という今までにない勝負師の顔をしていたのを記憶しています。

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個人の主観が感動を生む

それから私自身も手を動かし、サンプルルームは花びらの形をした革でいっぱいになりました。そして数週間後、ようやく花びらがバッグになったのです。

それに合わせて、材料であるジュートや革に染色をしました。

赤や黄色の花びら型のバッグは、「お客様の声」にはまるでなかった色であり、形でした。

「お客様の声を聞かない」初めての挑戦でした。

〝自分の内側〟を、初めてさらけ出した気分でした。

ドキドキしながら迎えた発売日。

一時期はマザーハウスの代名詞といっても過言ではないくらいの存在となった、ロングランヒット「HANABIRA」シリーズの始まりでした。

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ハナビラシリーズ

お客様が想像していないことに挑戦する

自分の内面から生み出したものを、こんなにたくさんの人が買ってくれたー。

そこからはもう夢中になって、デザインの仕事が楽しくてたまらなくなりました。

そこから夜空や風といった自然をモチーフにしたシリーズなど、私の内発的な感性から生まれた「コンセプトライン」は、シーズンごとに1型、2型と増えていき、今では全体の商品ラインナップの半分を超えるまでになりました。

一連のプロセスを通じて、私はものづくりの楽しさも苦しさも教えてもらいました。お客様が想像していないボールを投げることは本当に勇気がいるのです。

実際に新作の反応が悪く売り上げにつながらず、自分自身が否定されたようにショックで、何日も立ち直れないシーズンもありました。怖くて、はさみが動かせない時期もありました。

それでもこれまで15回、コンセプトラインを半年に一度以上の頻度で、必ず出してきました。

その過程で、「自分の感性を信じてみる勇気」が人々の心を動かし、数字をつくり上げるんだと実感しました。

データ分析からつくられるものは安定したヒットを生み出せるかもしれない。しかし、それらは人々の心に感動を与えられるでしょうか?

数字では計れない感動を生むのは、個人の主観から生まれる創造なんだと思います。

マーケットインとプロダクトアウトのサードウェイ

お客様の声を大事にする「マーケットイン」。〝主観〟でまずは商品を出してみて、反応を試すという「プロダクトアウト」。

それは二者択一のものではないと今は思えるようになりました。ここにも「サードウェイ」は、必ずあるはず。そう思います。

たとえば、フォルムが斬新な「プロダクトアウト」思想のものでも、使いやすいポケットを内側につけたりすることで、お客様のニーズに応える。逆に、今までとは違う大胆な機能のバッグでも、色味は最近のお客様の好みに合わせる。

そんなふうに、作り手の主観とお客様のニーズをかけ算していくことで、お客様とキャッチボールして、アイデアを昇華させていくことが、私なりのサードウェイのものづくりだと思っています。

*このエントリーは『ThirdWay 第3の道のつくり方』から一部を抜粋してnote用に編集したものです。

(編集協力:宮本恵理子・竹下隆一郎/ 編集:大竹朝子)

*このエントリーは『ThirdWay 第3の道のつくり方』から一部を抜粋してnote用に編集したものです。多くの方々に「ThirdWay」の思考法をお届けしたくて、本の内容をいくつかのパーツに分けて再編集して、noteで公開していきます。本やnoteの感想を「 #私のThirdWay 」というハッシュタグをつけてぜひ投稿してください。一つ一つ大切に、すべて目を通すつもりです。どうぞ、よろしくおねがいします。


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