06. テレワークで悪化・冷えとむくみ
はじめに:
「中医学タメシテミル」の次の相談者はFさんです。テレワークがきっかけでむくみと冷えの悪化でお困りです。しんまいの中医薬膳師ですが、中医学の考え方と雰囲気にふれていただくために、相談内容を読み自分なりに解釈し、仮説にもとづいて対処法を考えます。
今回のご相談
基本データ
女性 53歳 Fさん
体格:身長163.5cm、体重50キロ、平熱36.2度、やせ型ぽっちゃり
アレルギー:なし
既往症:「病気かどうかは分からないのですが、20年ほど前に、ストレスから身体硬直の経験があります。病院に通いましたが身体的な問題は特にありませんでした。急患だったこともありビタミン剤等の処方で終わった気がします。」
服用中の薬:特に記載なし
飲酒:付き合い程度に飲む 喫煙:しない
食生活:規則的。間食はする。夜食は食べる。
睡眠:すぐに眠れる。6~8時間
運動習慣:時々。ウォーキング、ヨガ、筋トレ(自宅でもできる軽いもの)
性格や精神状態:悩みやすい・不安感がある・驚きやすい・おおらか・被害妄想がある・感情の高揚が激しい
最も困る症状:冷え・むくみ
経緯は?:5年ほど前から更年期。在宅勤務による運動不足で悪化傾向。
どんな時に和らぐ?:運動(ウォーキング)をする。リフレッシュをする。
どんな時に悪化する?:在宅勤務で座りっぱなし。
他に気になる症状
パニック症候群の傾向:「パニック症候群の傾向があり、満員電車や閉所恐怖症で動悸、不安が強くなると手にしびれが出る。」
それ以外の気になる症状
「ひどい・よくある」に記入あり:足の倦怠感関節の腫れ(腰・膝)人より寒がり。クーラーに弱い。寒い時期に体調悪化。手足・全身の冷え。むくみがある。手足や体が重だるい。こり。腸にガスがたまりやすい。腹が張る。ストレスで便秘。目の下がピクピク痙攣する。目が疲れる。充血しやすい。クマができやすい。
「まあそうだ」に記入あり:貧血気味。疲労倦怠感。こむら返りが起きやすい。少食。食べ過ぎる。胃もたれ。腹痛(上腹部)。動悸。快便(時々便秘)。尿の回数は多い。尿量は少なめ。尿は薄い。頭痛関連:頭重。立ちくらみ。めまい。頭痛。(曇や雨の日・ストレスで悪化する。主に後頭部。)
とくに症状を感じない:ふるえ・ほてりはなし。呼吸・喉のトラブルなし。
弁証
まず、主訴(一番つらいといわれている症状)を中心にしながらも、症状の全体像をみて、何が起きているかを中医学の視点で考えます。
次に、中医学の用語で「何が起きているか」を見極めます。その何が起きているかを表す言葉を「証」といい、患者の話や状態から証をみきわめることを「弁証」といいます。今回もその流れで書きたいと思います。
Fさんの症状
Fさんの主訴は「在宅勤務で悪化した冷えとむくみ」です。また、腹が張る、手足が重だるい、目の下の痙攣や目が疲れ・充血なども訴えています。
また、以前から「パニック症候群の傾向があり、満員電車や閉所恐怖症で動悸、不安が強くなると手にしびれが出る」ということです。この5年くらいは更年期症状があったといいます。
脾陽虚・脾陽虚
上記の情報からみて、Fさんは、中医学でいうと、脾気虚(ひききょ)の傾向があると思います。これは、脾(ひ)の機能が弱まっているという意味です。
Fさんに症状に関係すると思うのは、「脾」のいくつかの働きの中の2つ、「運化水穀」と「運化水湿」と言う働きの弱まりです。
「運化水穀」とは、飲食物を消化して、エネルギーや栄養を他の臓器や身体のすみずみにまで運ぶ働きです。この機能が弱まると、消化・吸収が正常に行えなくなるので、「お腹が張る」「大便がゆるい」「食欲不振」などの症状がでます。
「運化水液」(運化水湿)という機能もあります、体内の臓器や器官に必要な水液を届け、余った水液を肺や腎へ送る働きです。そして、余分な水は、肺から皮膚を経て汗として、または腎から膀胱を経て尿として排出されます。この機能が弱まると、「むくみ(浮腫)」「尿の量が減る」「身体が重く感じる」などの症状が出ます。
Fさんは、おそらく元々胃腸が元気でないところに、テレワークで同じ姿勢がつついて血行が悪くなり、「脾気虚」となり、それが悪化していると思われます。
脾気虚が悪化した状態(さらに気が弱まった状態)を「脾陽虚(ひようきょ)」といいます。
冷え性とむくみ
Fさんの冷え性は、「脾気虚」の傾向がさらにひどくなった「脾陽虚」による冷え症だと思います。
「脾陽虚」の「冷え症」の人には、手足・腰の痛み・寒がり(他の人よりも寒く感じる)・疲れ・顔が白いという症状のほか、食欲減退・腹が張る・みぞおちが痛い・腹が痛い・温めると楽になる・浮腫(むくみ)・大便がゆるい、などの症状があります。女性の場合はおりものの量が多く白くて水様、などの症状があります。これらはFさんの症状に近いと思います。
Fさんのむくみにも、やはり「脾陽虚」の傾向を感じます。
「脾気虚」の「むくみ」の人には、下肢のむくみが目立つ・尿が少ない・顔色が萎えて黄色い・疲労・身体がだるい・腹部の膨満感・食欲がない・下痢などの症状が出ます。
パニック症候群
また、Fさんのパニック症候群:「満員電車や閉所恐怖症で動悸、不安が強くなると手にしびれが出る」という症状は、中医学では「心血虚」という証に該当します。
これは「心(しん)」の血虚(「血(けつ)」が足りない)という意味です。治療をするには、まず目を向けるべきは「心の血」の充実です。
しかし、その前に「脾気虚」の傾向がある場合、同時に「脾の気」の働きを高める手当てをします。なぜなら、また中医学では「気が充実していてこそ血を作ることが出来る」と考えるからです。
Fさんの場合、「脾」の働きをよくすることは、総合的にいろいろな症状の改善につながると思います。
対処法
座りっぱなし&忙しいFさんの脾陽虚を緩和する手段を考えてみました。
対処法 その1:強制的に休憩する
私自身も会社員で、テレワークの休憩が苦手です。ほば毎日PCを眺めていてキーボードをうち、気づいたら3時間、同じ姿勢でいたということも多いです。試行錯誤の連続で偉そうなことは言えませんが、ひとつにだけ言えるのは「強制的にPCから離れる時間をとるためのしくみをつくる」ことが大事だと思います。
たとえば、トイレで席を立ったら、そのまますぐには座らない。必ずストレッチをする、など。
あるいは、タイマーをセットして時間を知らせ、強制的にPCの前から離れて、リフレッシュするしくみをつくるなど、そういうことが大事だと思います。
Fさんの相談シートには、目の下の痙攣・目の疲れ・充血・クマなど、目のトラブルの記載もありました。これらの症状も休憩をとることで緩和されるかもしれません。
対処法 その2:血をめぐらせる
休憩時には身体を動かせれば何でも良いのですが(立つだけでも!)コレを機に、ヨガやストレッチをしてみませんか。
ネットには「むくみ ヨガ」「冷え性 ヨガ」で検索すると、簡単にできる「ポーズ」や数分のヨガの動画が出てきます。畳一畳で道具もいりません。ポーズだけならば数秒です。自分の体重をつかって、様々なポーズをとるだけで、普段使わない筋が伸びるのでとても気持ちの良いものです。
また、仕事中に私が、最近試していることがあります。PCをしながらの「素手摩擦」です。これも良さそうです。
PCでのリモート会議で、顔出しなし&話をきいているとき(両手があくときに)、素手で服の上から全身の皮膚をマッサージします。←不真面目
【下半身】足裏・足の甲・ふくらはぎ・膝のうら・腿の表裏・鼠径部・下腹部・へそ周り・胃の順で心臓に向かって。
【上半身】手の平と甲・手首から肘・肘から肩・肩甲骨・胸の順で。
タオル一枚があれば、起床時・寝る時・PC前で、乾布摩擦も。これもネットにでているので見てみて下さい。
対処法 その3:食べる
身体をあたためる(温煦)、脾の機能を高める(健脾・補脾)、湿を溜めない・余計な水分をためない(滲湿・利水)の食材にはこんな物があります。
■脾気虚のむくみによい食材(補脾利水消腫)
穀類・山芋・かぼちゃ・らっきょう・冬瓜・トウモロコシ・コーン茶・大豆・小豆・鶏肉・白身魚・はとむぎ
■脾陽虚の冷え性によい食材(温用散寒)
ねぎ・しょうが・にんにく・唐辛子・交際・にら・栗・くるみ・杏・桃・さくらんぼ・ライチ・鹿肉・鶏肉・羊肉・うなぎ・海老・ナマコ・マス・酒
■理気・活血(めぐりをよくする)
そば・大根・かぶ・たまねぎ・らっきょう・なた豆・えんどう豆・みかん・酢
外食をするときも、食材のことを少し気にしておくと良いと思います。
料理する場合は、複数の食材で鍋物・汁物・炒めもの・煮物にするとよいです。ここに書いていない食材とも組み合わせて、偏らないように・同じ味付けばかりにならないようにします。
むくむからといって、水分を控えてはいけません。
体内の水分が足りないと逆に水をキープしようとしてむくみます。
身体に湿をためるような油っこい食事(揚げ物や脂身の多い肉、洋菓子の食べすぎ)が続かないようすることが大事です。
また、上の食材に書いた通り、穀類は脾の働きをよくします。ただ、他の食材を食べるために、お米をたべすぎないようにしたほうが、バランスは取りやすいです。時々お粥を取り入れることもおすすめします。七分粥(100CCのお米に700cc)を試して下さい。仕事が忙しくても手軽に炊飯器で炊けます。様々なおかずに合います。中華粥をヒントに具をいれてもいいでしょう。
対処法 その4:くすり
もし漢方薬に興味があれば、中医学や漢方を専門とする病院や薬局にご相談ください。一般的には脾陽虚の冷え性には、温中補虚(脾を含む中焦を温める)『理中丸』、脾気虚のむくみには、『実脾飲』や『参苓白朮散』があります。
最後に
お礼
ご相談ありがとうございました!何かのヒントになれば、幸いです。テレワーク、良いこともたくさんありますが、体調不良につながっている人は、私も含め、他にもたくさんいると思います。相談をきっかけに自分も工夫してみようと思いました。
(この記事は修正する場合があるので時々チェックしてください)
ご相談はこちらへ
もしご興味のある方は相談をお寄せ下さい。
https://note.com/erieri0307_/n/n8ced3f975136
参考文献
『中医薬膳学』辰巳洋 (東洋学術出版)
『中医学ってなんだろう』小金井信宏 (東洋学術出版)