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『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』桜庭一樹 感想

表紙が綺麗で、タイトルも面白い表現だなと思って、中学か高専の時に初めて手に取りました。
薄っぺらな本なので、さっと読めます。
が、タイトルの言い回しは、思いがけず切なすぎた…

*あらすじ*
中学生の山田なぎさに必要なのは、リアリズムという”実弾”で、それ以外のことには、決して興味を向けなかった。
一方、ある日、突然やって来た不思議な転校生・海野藻屑は空想という名の”砂糖菓子の弾丸”を撃ち続けていた。その弾丸を浴びせられ続けたなぎさは、次第に藻屑に心を開いていく。しかし、海蘊は日夜、父親からの暴力に曝されておりーーー。
胸の中を掻き毟られる痛みに満ちた青春文学。

*感想*
転校生の藻屑がバラバラ死体で死んだことを知らせる、新聞記事から物語は始まります。
”この子は死ぬんだ”とわかったうえで、読み進めなくてはいけません。

実弾は、生活に打ち込む本物の力…
いわゆるリアル、現実的なこと。
いちはやく稼ぎたい、生きていくための実弾を打てる大人になりたいなぎさと、空想という砂糖菓子の弾丸をポコポコ打ちまくる藻屑。

間違った愛しか知らない藻屑の、体内ですぐに溶とけて消えてしまう弾丸は、誰も傷つけません。
その姿は儚くて、弱くて、繊細で。

子どもって、自分で選べることが限られていたり、信じる世界が狭すぎたりして、生きるのが困難だって、気づくことすらできなかったり。
大人になって、「あの時はあれで精一杯だったのに」とか「今だったら上手く選択できたのに」とか思うんだよね。

そんな弱い世界しか持てなくて、生き抜けなかった子の物語。
なぎさは、あぶなっかしくて儚げな藻屑を、守りたくなったのだと思うけど、それが愛なのかはわかりません。

でも、子どもの世界が忘れられなくて、砂糖菓子の弾丸を打つことでしか自己表現のできない、愛しくて切ない存在を忘れたくなくて。
私はこの小説が大好きです。

*言葉*
・「好きって絶望だよね」
・「こんな人生は全部嘘だって。嘘だから、平気だって」
・砂糖でできた弾丸では子供は世界と戦えない。

今日はこのへんで。
ありがとうございました。

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