【オススメ本】夏目漱石「草枕」
こんにちは。今井愛理です。
今回は作家・夏目漱石の小説「草枕」の冒頭部分を以下に引用し、紹介します。何度読んでも「うむ、なるほど。」と非常に共感します。
山路を登りながら、こう考えた。智に働けば角かどが立つ。情に棹させば流される。意地を通とおせば窮屈きゅうくつだ。とかくに人の世は住みにくい。住みにくさが高じると、安い所へ引き越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟った時、詩が生れて、画が出来る。人の世を作ったものは神でもなければ鬼でもない。やはり向う三軒両隣にちらちらするただの人である。ただの人が作った人の世が住みにくいからとて、越す国はあるまい。あれば人でなしの国へ行くばかりだ。人でなしの国は人の世よりもなお住みにくかろう。越す事のならぬ世が住みにくければ、住みにくい所をどれほどか、寛容くつろげて、束の間の命を、束の間でも住みよくせねばならぬ。ここに詩人という天職が出来て、ここに画家という使命が降る。あらゆる芸術の士は人の世を長閑にし、人の心を豊かにするが故ゆえに尊い。
夏目漱石の芸術観が垣間みえる冒頭部分だと思います。
草枕が世に出たのは1906年。日本は日露戦争直後あたりですね。日本の近代化が進み、西欧文明が入ってきた頃です。上の冒頭以降は、洋画家である主人公が温泉宿に宿泊する描写から小説が続きますが、冒頭部分だけでも、西欧文化と東洋文化の波間にゆられている主人公、ひいては夏目漱石自身の心情がみえ隠れしているように感じます。
とくに、最初にある「とにかく人の世は住みにくい。」にクスリと笑ってしまいました。昔も今も変わらず、こう感じている人は多いのではないでしょうか。草枕の文章を、そのまま有り体にとらえると、「いろんな思いがあるけれど、しょーがないから、なんとかしよう」という大らかさを感じます。
諸所に不自由さを感じる人の世に、詩や絵画や美術が幾分か人の心をやわらげてくれる、そんな緩衝材を人は創りだせるのだ。つまり、なんだかんだ、人は生きていくための強さとしなやかさを持ち合わせているものなのだ、そう感じ取れた作品です。
最後までお読みくださりありがとうございます。
今井愛理
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