住宅設計者の自分の家づくり 06 窓
窓です。建築としての良し悪しの大部分が窓で決まってしまう、というか、そもそもどこを開けてどこを閉じるかというのが建築の根本であり、窓の計画に失敗すると残念なことになります。周囲が開けている場所だといろいろ想定しやすい(言い訳ができないという側面もありますが)ですが、今回のような住宅密集地だと周囲の環境の変化にも左右されやすく、今後どのような建物が建ち得るのかという事も含めて考える必要があり、一度決めたことを思い直したり、時には着工後に現場で変更しつつ時間をかけて決めていくのが窓になります。
窓の位置や大きさを決めるにあたり、最初にどのような光の質の空間にしたいかということから考えます。障子を通した柔らかな光で満たしたり、地窓からの光の跳ね返りを暗めの部屋の奥まで届けたり、天窓だけを設けてドラマティックな光の変化を取り入れたりなどいろいろなパターンが考えられますが、今回は、こう言ってしまうとつまらない感じもしますが、多くの住宅で求められるような居室には適度な明るさを確保して部分的に少し暗めの落ち着いた場所を確保するという中庸な空間を想定します。
次に具体的な位置等の検討に入りますが、窓の位置を決める際の基本的な考え方として「なるべく壁、天井、床のいずれかに寄せる」というのがあります。目線が抜けて開放感が増しきれいな光を入れることができること、壁面が大きく取れるために落ち着いた空間をつくりやすいことなどが主なポイントで小さな家だと特に効果が出やすいです。ただし、家具やブラインド等との関係をよく吟味しないと単に邪魔な窓になる可能性もあるので注意が必要です。
過去の設計事例をご覧いただくと、多少なりとも効果は感じていただけるでしょうか。
この考え方をベースに個々の部屋について検討します。
今回はブログ掲載当時(着工前)のイメージパースと竣工後に近いアングルで撮った写真を並べてみます
玄関
トレッドミルで走りながら前庭を見たり土間に椅子をおいて読書をしたりなどの使い方を考えているため居室の採光面積や換気面積を満たす大きな窓を採用しました。玄関は防火の袖壁を設けて延焼のおそれのある部分を逃げて木製の框引き戸に透明ガラスにして季節によっては開け放せるようにしています。この防火の袖壁は外壁を内部に引き込むような意匠として、玄関引き戸を開けた時に玄関内部が半屋外のように感じられる効果を狙っています。階段下は視界の確保を優先して網なしの大きなFIX窓と背の低い換気用の滑り出し窓の連装としていますが、防火設備では対応が無いため外付けの防火シャッターで防火性能を担保しています。
寝室、洗面脱衣室
朝、陽の光を感じて起きたいため寝室は庭に向けて大きく開口を設けて植栽と塀で周囲の目線を切っています。ここも網なしのガラスにしたく耐熱ガラスの防火設備にしていますが、耐熱ガラスの場合窓の高さが2mまでしか取れず床から天井までの窓にはできませんでした。床からの掃き出し窓にして上に垂れ壁を造るか天井に寄せて床から上げるか迷いましたが、窓の外に縁側を設けることを考えると床の高さで掃き出しにすると地面から25cmしか上がらず低すぎること、基礎の天端より低くなるため基礎をいじめることになること、玄関側から見た時に天井に光が入っている方がきれいに見えることなどから天井に寄せることにしました。洗面脱衣室も天井から洗面台までの高さの窓として、朝の身支度を庭の植栽を見ながら気持ちよく進められるよう期待しています。周囲の環境から直射光はほとんど望めないながらも季節ごとの陽の移ろいが何とか感じられることを目指しています。
キッチン、ダイニング
デッキに出る窓から東の隣地境界線までは6m程度あり、朝食時にしっかりと朝日を感じられるような窓の取り方としています。周囲の家の窓からはほとんど見えないようなつくりにしているためブラインド等を付けなくても問題は無く、夜もデッキの植栽を照らして眺めることができます。デッキ横のソファがある小さなスペースがこの家の特等席です。キッチンは朝から明るい場所が理想で、一日を通してデッキの植栽が楽しめるように大きめの窓を設けています。
リビング、小上がり
西面には帰宅時に家の様子が感じられるFIX窓を一つだけ設けました。当面西側向かいが平屋なので目が合うこともなく、あまり通りに対して閉じた印象にならないように大きめの窓にしていますが、ひょっとしたら上棟後現場で見て多少大きさを変えるかもしれないと思っています。前庭の植栽も多少感じられることを期待しています。小上がりには天窓を設けています。南屋根の天窓は夏場に暑くなりすぎるデメリットがあるのですが、そこは幅を絞ることとブラインドである程度対応し、畳に寝転びながら空を見ることを優先しました。天窓はFIXと開きの連装で、低い方が開くようになっています。高い方で開く方が熱気の排気には有利ですが、今回は光の入り方を優先しています。天窓の下は陽の移ろいが感じられるように窓は設けずに大きな壁面としています。屋根勾配が6寸と冬至の南中高度とほぼ同じなため昼前に北側の天井面に平行な光の入り方をする予定で、一年で一番陽が短い日ならではの日差しを楽しみたいと考えています。
今回、準防火地域ということで玄関引戸以外の窓は全て防火設備ですが、前述したように外の景色を見ることを主目的とする窓は網入りガラスではなく耐熱ガラスにするか一般の透明ガラスにシャッターで防火を担保するようにしています。2011年の防火設備の偽装問題以来長い間大手メーカーで耐熱ガラスを採用できる防火サッシが無かったのですが、昨年ようやく一部で復活したのはありがたいタイミングでした。
最後に開口部をわかりやすくした平面を御覧ください。
黒い部分が壁ですが、各室にまとまった壁面があるのがわかるでしょうか。できれば居室には開口のない大きな壁面が少なくとも1面はあった方が良いと考えています。そのような壁面がないとどことなく方向性が定まらず散漫な空間になりがちです。窓に限らずドアや収納など開口を考える時には逆に壁をどのように造るかを考えることも大切です。マンションなどでは難しい場合もありますが、新築の場合は是非大きな壁面を検討していただければと思います。
次回は性能関係のお話をします。
※この記事は2019年に自社ブログに書いた内容に加筆訂正したものです
竣工後の写真などは下記リンク先でご覧いただけます。
このシリーズをマガジンにまとめておりますので、こちらも併せて是非ごらんください。
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