DOGMANドッグマン(2024) ジョーカーが重過ぎた方はこちらをどうぞ。
個人的には大当たり映画。ケイレブ・ランドリー・ジョーンズの役者魂がすごい。「ゲットアウト」ではローズの弟という脇役でありながら強烈な存在感を放っていた俳優さん。主演を務めた「二トラム」ではカンヌ国際映画祭で男優賞を受賞している。こちらも非常に良かった。彼の主演作を立て続けに観て完璧なファンになりましたとさ。今後の活躍も追いかけていきたい。
二トラムも一見の価値大あり↓
確かに犬はたくさん出てくるけど、これはあくまでドッグマンことダグラスの哀しき人生の物語。信頼するのは犬たちだけ。演劇や歌などの芸術を通じてしか自己表現ができない。そんな彼の独特な魅力にどっぷり浸かれる物語だ。
<あらすじ>
<感想>
※以下ネタバレを含みます※
物語はダグラスと女性精神科医のやりとりを中心に進んでいく。会話の途中で回想シーンが挟まるタイプのあれだ。個人的には結構好きなやつ。ちなみにこの女医さんは生後9ヶ月の子供を抱えたシングルマザーであり、ダグラスとのやりとりを通じて自分の人生を見つめ直していく。このサブストーリーも良かった。
ダグラスは映画冒頭で「人間を知るほどに犬への愛が深まる」と話すが、これは犬好きなら共感できるのではないだろうか。私は人間の嫌なところを削ぎ落とした存在がわんこだと思っているので、もうこの時点で私は一気にダグラスに惹きつけられた。
彼が語る幼少期の様子はあまりにも悲惨だ。父親と兄からの虐待を受けていた彼を支えたのは、闘犬用に自宅で飼育していた犬たちだった。犬たちはダグラスの言葉を完全に理解しているかのように描かれており、ちょっと非現実的な描写も多い。一例を挙げると、犬に車の写真を見せて”車”とは何かを理解させた上で「パトカーを見つけるんだぞ」と言うとちゃんと警察を連れてきたり、セレブのに家に侵入して金目のものだけ盗ってきたり。ワクワクしながら観られたのでこれはこれで全然アリだけど。世界には実際にできる犬もいるかもしれないし。ただ少なくとも私の愛犬は自分の名前と「ご飯」「散歩」「行く」以外の言葉は理解していない(泣
壮絶な幼少期を経て養護施設に入ったダグラスは、そこで年上の女性サルマに最初で最後の恋をする。彼女はダグラスにシェイクスピアの本を勧めて演劇の楽しさを教えてくれた。やがてサルマはプロの劇団に入ることになり養護施設を去るが、ダグラスはずっと新聞の切り抜きを集め 密かに活躍を追い続ける。成人後、勇気を振り絞って彼女の公演を観に行ったダグラスが作中で初めてみせた嬉しそうな表情に、私は映画で久しぶりに泣きました。
その後はまたかなりしんどい展開が続いていく。
多くの犬たちと暮らすために仕事を探していたダグラスは、ドラッグクイーンのショーに魅了され週一回ステージに上がることになる。そこで披露した歌声はすごく素敵でまるで女性が歌っているよう。主演のケイレブは歌手活動もしているみたいだけど本当に彼が歌ってるのかな。女装するときのメイクはサルマに教わったものだし、選曲は母親が好きだったヨーロッパ調の曲であるところがすごく切ない。
ダグラスは車椅子生活ということもあり、何かピンチに陥ると犬たちに指令を出し敵を襲わせるようになる。終盤でギャング集団が自宅に侵入してくると、ホームアローンのケビンにも負けない罠の数々と犬たちとの連携プレイで見事に退治する。一匹一匹の犬たちが自分の役割を理解していて、完璧な立ち回りを見せるところが面白い。犬が傷つけられる描写が一切出てこないところと、ダグラスの犬の扱い方が愛情に満ちているところが大好き。
心に深い傷を負ったダグラスが放つ言葉はどれも深みがあって、ここではとても紹介しきれない。全てを手に入れた勝者の言葉よりも深く傷ついた敗者の言葉の方が、私の胸にはずっしりと深く響く。階段を駆け上がるのではなく転がり落ちる時にこそ、人間の気概を感じるのだ。
彼の人生はとても過酷なものであるが、随所に散りばめられた犬たちとの交流や歌唱シーンが良い緩衝材となり、そこまで陰鬱な映画にはなっていない。ジョーカーが救いのない展開すぎてしんどかったなという方でも見やすい作品に仕上がっている。
ケイレブの表現力は凄まじく、人を惹きつける才能があると思う。まだ若い彼の今後の活躍が非常に楽しみである。
とても良い映画ですのでぜひご鑑賞ください!アマプラで見放題配信中です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。