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9人の翻訳家 囚われたベストセラー(2019)これは流石にネタバレなしで。

 面白いと噂に聞いていたが噂通りだった。非常によく練られた構成と巧みなミスリードはさすが。文学作品をメインテーマにしたお話しなのでセリフの端々に品があり、切なく美しいミステリーに仕上がっているところが気に入った。

〈あらすじ〉

フランスの人里離れた村にある洋館。全世界待望のミステリー小説「デダリュス」完結編の各国同時発売に向けて、9人の翻訳家が集められた。翻訳家たちは外部との接触を一切禁止され、毎日20ページずつ渡される原稿を翻訳していく。しかしある夜、出版社社長のもとに「冒頭10ページをネットに公開した。24時間以内に500万ユーロを支払わなければ、次の100ページも公開する。要求を拒めば全ページを流出させる」という脅迫メールが届く。

映画.com


〈感想〉

※重要なネタバレはしませんが何も知識を入れずに観た方が面白いかと思います。

 フランスの大人気小説を全世界同時発売するために集められた9カ国の翻訳家たち。全員フランス語で会話しながら物語は進むのだが、その響きが映画の雰囲気をとても良くしている。小説に出てくる文章をそのまま引用するセリフが多く、詩的な表現には思わずうっとりしてしまう。

 表現の自由は人を人たらしめる権利である。自分がnoteを始めたこともあり、創作活動というのはとても尊く気高い行為だと思うようになった。"産みの苦しみ"は計り知れず、魂を削って作品に没頭する人もいる。でもそれが一度世に出た瞬間、それは多くの人々にジャッジされ、場合によってはお金を稼ぐための道具になってしまう。この映画ではそのことがメインテーマとして根底に流れているのだ。

 自分の描いた絵に何億もの価値がついたり、小説が世界的に大ヒットして一生では使いきれないほどの印税を手に入れることを心から望んでいた作者は存在しないだろう。お金儲けしか頭にない出版社の社長に対し「(あなたは)人間と創作への敬意を失った」と非難するセリフが出てくる。まさにこの一言に尽きると思う。

 ハラハラするスピーディーな展開の中に心温まる人間模様も描かれており、鑑賞後の満足感が非常に高い。作家のことも翻訳家のことも部下のことも舐めきっている社長が、スマートな作戦でどんどん窮地に陥る様はスカッとする。

 あまり詳細は書けないのだが、翻訳者であるアレックスとカテリーナの関係性が色んな意味でとても切なく美しかったし、アレックスと例の人物の温かな絆も良かった。

 おそらく最後のオチまで完璧に予想できる人はいないであろうこの作品。上品などんでん返し映画といったところだろうか。金儲けに取り憑かれ盲目となった人間には、芸術作品を味わうことはできないと再認識できた。

 アマプラで有料レンタル中だが、私はGAGAの無料体験で鑑賞した。是非ご覧ください。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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