第9回(11月6日)の授業へのフィードバックよりご紹介

第9回の投稿がとても遅くなりました。なんとか第10回の授業前までに、と思っていたのですが、なんとその日の朝からPCがダウン。なんとか授業までには復活させたものの、この note の原稿は(ローカルで編集してから上げているので)凍結したまま授業へ。
そんなわけで結果的に少し時間ができたので、もう少し多めの学生さんからのフィードバックにコメントを書き足したりして、今になってしまいました。遅くなりました。ごめんなさい。

さて第9回は意思決定でした。意思決定はそれだけで1学期15回の授業ができてしまうくらい話題が多いので、エッセンスだけをギュッと1回に詰め込んだ形になってしまいました。少し話を詰め込みかもしれません。

また、今回の話の中で出てくるバイアスやヒューリスティクスは、行動経済学の話題でもあります。今回の授業は、行動経済学(のこれらの話題)を、心理学の方から見るとこうなるんだよ、という回でもあったかもしれません。

  • 物事の判断において、どのように情報処理がなされるかの講義を受けた。生きる上では常に関わることなので、今までの経験とのつながりも含めて面白いと思った。

  • 目先の結果に囚われて短期的には良い意思決定となるが、長い目で見ると悪い意思決定をするということはよくあると思った。また、理論的には良い意思決定となる可能性が高くても、実際には悪い意思決定になることも多々あるので、意思決定は難しいと思った。自信過剰、自分の仮説を支持する情報ばかりを求める癖が、人間が合理的な意思決定をすることを妨げているのだと思った。

  • 意思決定にキューが大きな役割を持っていることがわかった。キューを集めること、精査することが大事だとわかった。

  • 意思決定において、特に戦争中などは不確実性が高くて判断の時間も限られているため、指揮官などの判断をする人たちが適切に判断できるかどうかが国にとって重要であることがわかりました。また、人が意思決定をする上で影響を及ぼす原因の一つである慣れ、親しみ、熟練は運転免許を取る際に1年目よりも2年目の方が運転に慣れるため事故が起こりやすいという説明と密接に関わっているのだと今回学びました。良い意思決定には合理的、良い結果をもたらす、その領域の熟練者がするなどたくさんの判断軸があり、意思決定研究のアプローチも何を軸にするかで重要視するものが変わってくるというのは、同じ研究でも違う結果が得られるのではないかと思うのでとても面白いと思いました。また、どの軸で研究してもどれも同じ結果になればそれが良い意思決定になるのではないかとも思いました。キューの推定では、自分の思う最適な判断は確率的に最適な判断ではないというのは、判断に困らない十分なキューを集められていなかったり、過剰にキューがあったり、キューの重みづけが適切でないなどの問題があるのでなかなか人間が最適な判断を行うのが難しいことがよくわかりました。人間は新たな情報を得るたびにアップデートすることが苦手なのは自信過剰であったり、全ての仮説を等しく再検討しないこと、確証バイアスなどが要因としてあるので、自分も何か重大な判断をする際にはこのような人間の怠け者である癖を理解してより合理的に判断できるようになりたいと思います。

  • 自分も含め、人間は自分が思っていたよりもはるかに合理的な判断ができていなくて驚いた。

  • 人間は常に意思決定をしているので、意思決定を簡単にするための仕組みが多数ある一方で、これらが合理的な意思決定から離れる要因にもなっていると分かった。

  • 自分は欲しいものがあったら、それを買う時のメリットばっかり調べてようとし、デメリットは避けてしまう傾向があるので、それも同じような理由なのかなと思った。

今回は意思決定を認知的プロセスとして捉えるとどう考えられるかを考えました。それに先立って「良い意思決定とは何か」という議論も少ししました。

  • 意思決定と理性の関係を知りたいです。

理性ってなんでしょうね?哲学の分野ではよく聞きますが、心理学ではあまり聞かないような気がします。
平凡社の心理学事典を引いてみましたが「理性」という項目はありませんでした。どうも心理学用語ではないように見えます。
唯一引っかかったのがプラトンの「理性論」(rationalism) ですが、この英語表記からすると、今回の授業の中で触れた「合理的な意思決定」に近い意味に見えます。
しかし、(一旦心理学を離れて日常の日本語で考えれば、) 例えば「金銭の損得勘定で考えればAという選択をするべきなのは明らかなのだが、しかしそれは誰かを見捨てることになるのでそんな非人道的なことはできない。したがってBという選択肢をする」という意思決定も「理性が働いた」と言ってもいいように思います。
ただ、これも「金銭の損得勘定」と「人道的に失うもの」を共通して比較できる尺度(例えば「価値」の定量的尺度)があれば、十分「合理的」な判断とも言えるように思います。
理性ってなんでしょう?難しいですね。

  • 意思決定の話を聞いて、マキシマイザーとサティスファイサーの話を思い出しました。受験期の英語長文の演習でこの話を読んで、面白いなーと印象に残ってました。私はその長文を読むまで多くの時間を費やしていろいろ調べたりしてましたが、読んでからはある程度で判断するように心がけてます。飲食店とか入ってgood enoughなものを見つけたらそれで頼むようにしてます。

  • ちょうど海外の製品を買おうと思っており、どのサイトから買おうか悩んでいたのだが、現在進行形で何かに騙されているのかなと思うと怖くなった。しかし全ての選択肢を精査するのはめんどくさいので、諦めて有名どころから買うなどしたいとおもった。

  •  人間は思っているより合理的な選択ができていないことを学んだ。合理的な意思決定をするために(理想的に)全ての情報を収集したとしても、むしろ選択ができなくなります。全ての情報を収集してても良い選択するのが困難なのはなぜですか?

なるほど。私はマキシマイザーとサティスファイサーの考えを知らなかったのですが、確かに人間は多くの場合、途中で診断(状況に関する仮説の検討と比較)をやめ、取る行動を選択する、すなわち「意思決定」をします。(現実世界は、数学の問題のように全てが明確に定義されていて有限時間で解がもとまるものばかりではありませんので。)
「最適」な解を追求するあまり長い時間をかける(「悩み続ける」)よりは、納得できる解を選択して、残った時間を次の課題に使ったほうが有意義な気がしますね。

  • 自分の過去の体験談というものは、自分に強力なバイアスをかけ、新しい物事に対する判断基準として使われやすい、というのはかなり耳の痛い話であった。自分もかなり過去の経験を元に価値判断をしている場合が多く、意思決定について認識を改めるいい機会となった。

授業中にも言いましたが、必ずしも悪いことではありません。ヒューリスティックとして、私たちの認知の負荷を軽減してくれるという意義もあります。ただ、バイアスとして働くこともあるということだけ覚えておけば(そしてちょっと気を付けておけば)良いと思います。

  • キューの重み付けのところで、確証バイアスのことを思い出しました。最近だとSNSのエコーチャンバー効果や、ターゲティング広告なんかも意思決定を難しくさせてしまいますね。そういえばこういうバイアスは動物にも見られるのでしょうか?

これは難しいですね… 言葉を話せない以上、現在どのような診断をしているのか(仮説を持っているのか)、どんな情報に注目しているのか、しゃべってもらうことができません。
もしも本気で研究しようと思ったら何ができるか。研究者としてはなかなか Challenging な課題です。

  • 実際に消防士の現場について行って研究をする人の胆力に驚いた。その人のような執念というか、「なんとしても」という心持ちはまだ自分には真似できそうにない。

Naturalistic approach という研究方法ですね。私も最初に聞いた時には驚きました。消防士の場合は、連絡があれば24時間いつでも起きて行かなくてはなりませんから私にもできそうにありません。が、適用分野によってはもう少しハードルの低いものもあるかもしれませんね。時間や場所が事前に(ある程度)わかっているものとか。

  • キューの重みがすべて同じものとして判断されているのは少し違和感があった。特に気象情報はツイッターよりNHKの方が信じられた

はい。それが妥当な(「合理的な」)重み付だとおもいます。ただ、人間往々にしてそのような妥当な処理ができないことがあります、と言うことです。

  • 自分は割と合理的に意思決定を出来ていると以前は考えていたが、ここ最近、そんなことは誰にもわからないじゃない考えるようになった。状況が二転三転すれば過去の意思決定が合理的だったかどうかなんて変わってくるはず。よって私がしている意思決定はその瞬間の思いつきに過ぎないというのが結論だ。

短期的にみて良い選択と、長期的にみて良い選択は食い違うことがあります。

  • 今回の講義では意思決定のプロセスについて学んだが、行動経済学などの分野に興味があるのでとてもおもしろかった。確証バイアスのことは知っていたが、他のバイアスやヒューリスティクスについては知らなかったのでとても勉強になった。意思決定の際に過去の経験から仮説をたてているという話があったが、勘も全て過去の経験に基づいているという話を聞いたことがありそのことと関係があるのかなと感じた。

心理学には、直観 (intuition)という分野を研究している人たちもいます。(私の研究室でも以前、麻雀が大好きだった修士の学生さんが修士論文で「直観」をテーマにして研究していました。)
「直観」というといわゆる「スピリチュアル」なものを思い浮かべる人も多いと思いますが、私は、長期記憶の中の経験とのパターンマッチング、あとは本能的に危険や好物を「嗅ぎ分ける」情報処理ではないかと理解しています。(それほど勉強していないのですが)。もちろん様々な要因から影響を受けるようです。

  • それぞれ様々な環境で生きているのに人間全体の考え方に癖があるとしたらすごく面白いなと思った。      自分の経験=長期記憶であるということが、考えると当たり前だけれど言われて初めて気づいた。しかし長期記憶は取り出すのに時間がかかるが、自分の経験は現在の状況によって瞬間的に思い出されることも多いと思った。

そのあたりが長期記憶からの情報の取り出し (retreaval )の面白い所ですね。

  • バイアスにも色々な種類があることがとても興味深かった。大事な場面では今日学んだことを活かして少しでも客観性をあげて判断しようと思った。

うーん、必ずしも「客観的」な意思決定が良い意思決定とは限りませんよ。他の人から見たら理解できない選択でも、あなたにとっては大切な選択、というのもあると思いますから。

  • 服を買う時に最初に見たものを結局買ってしまうのも人間のくせなのかと思った。

今回紹介したカーネマン先生の「ファスト&スロー」の本を読んでみてください。無意識に瞬間的に情報処理をする System 1が出した答えは、実はその後時間をかけて論理的にいろいろ検討する System 2の出す結論と、多くの場合同じになる、とされています。

  • 「人間の判断は合理的な判断から程遠い。何故なら、バイアスとヒュースティックだらけだから。」という結論でまとめられていましたが、ファストアンドスローでは、人間はほとんどの場合それなりに合理的に行動できており、バイアスとヒューリスティックに関しても効果的に働く場合が多い(しかし、たまに非合理的になる)と書いてあったと記憶しています。人間が合理的かどうかは研究者の中でも認識が大きく異なるということでしょうか。

「合理的な意思決定プロセスを行っている」= できるだけ多くの情報を適切に選択し、正確な診断をおこなって仮説を構築し、新たな情報が得られた時にそれらをきちんと評価して適切な仮説の見直しをしている、といったプロセスからは程遠いという意味で書いておきました。
カーネマン先生の言う System 1 はそのような認知的な意思決定プロセスではなく、いわゆる「感情」的な高速な処理プロセスであるとされています。そして、System 1 が(瞬時に)出す結論は、おっしゃる通り往々にしてうまくいく (結果として妥当な選択であったと言う意味で合理的)とされています。一方、上記のような分析的な意思決定プロセスは、カーネマン先生の言うところですと System 2 ですね。そしてその System 2 においてもヒューリスティックが多く用いられる、と言うのがカーネマン先生とトヴェルスキー先生の70年代の研究です。

  • 特に気になったのは、リスクと慣れはどちらが強く影響するのかだ。自分の考えでは、慣れれば慣れるほどリスクを小さく考えそうな気がする。実際のところはどうなのか知りたいと思った。

面白い疑問ですね。そのような研究がこれまであったかどうか私はすぐにはわかりませんが、おそらくあなたの予想の通りではないかと思います。
あなた自身で文献を調べてみて、もしもそのような研究がこれまで無いようであれば、特定課題研究などで取り組んでみるのも面白いのではないかと思います。

  • 自分は二人で会社を経営しているため、今回の授業で学んだような各種バイアスから抜け出すのは比較的容易だが、一人で経営している人は改めてすごいなと思った。

経営者なら、カーネマン, シボニー, サンスティーン著: NOISE (上下巻) も面白いのではないかと思いますよ。
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  • 人間の意思決定のプロセスは、けっこういい加減だと分かった。回ってきた本をぱらぱら見ていて、起業家の楽観性が資本主義を回しているというような話もあり、いい加減さのおかげで社会が回っている面もあるのだと思った。

  • あまりにも多くの情報を得ると自分の仮説に肯定的なものと否定的なもの両方を相当数得ることになり、結局何も情報を得ていないのと同じ状況になることがよくある。

  • 今日の授業では意思決定に関する内容を学んだ。特に、バイアスやヒューリスティックは自分の日常生活における意思決定でも頻繁に生じていると感じた。全ての情報を精査することは面倒だと感じ、自分に都合の良い情報を集めて、仮説の穴からは目を逸らしてしまう場合がよくある。とは言え、これを改善して合理的な人間になることが自分の生活をより良いものにするかはその認知的負荷を考慮するとなんとも言えないと感じた。

なんでもそうですが、人間、全てを完璧にやろうとすると時間もエネルギーもリソースも際限なくかかります。
人生は有限なので、「ある程度うまくいく」選択を、あまり負担をかけずに行い続けていく。
実際そうやって人間は生きていますし、そのような「負担の少ないある程度うまくいく選択」をヒューリスティックと呼んでいるだけなのです。
決して悪いことではありませんが、厳密に理論的に最適解を求めていないので、それぞれのヒューリスティックにどんな癖があるか知っておくことは結構大事だよ、というのが今日の授業でした。

  • 合理的な意思決定をできているかと考えた時に、私は多くの情報を処理しきれずに考え込んでしまったり、同じミスをしてしまったりすることが多いので、情報過剰の状態が起きたりフィードバックができていなかったりする傾向にあると感じた。自信過剰バイアスは自分でも他人でもよく見られる身近なものだと思った。自信過剰バイアスの下での考えは合理的ではないが、それが良い方向に働くこともあると思う。したがって、必ずしも合理的が絶対ではないという点が、人間が合理性ばかりを求めようとしない一つの要因なのかもしれないと考えた。

いわゆる「合理的な意思決定プロセス」がいつも理想的かというとそうではないと思います。
ただ、合理的に考える、振る舞うことこそが良いことだ、という考えがあって、それに照らし合わせると人間は必ずしもそうではないので、逆に否定的な気持ちになってしまう可能性があります。
「合理性の呪縛」に捉われることなく、人間のありのままの姿を理解してほしいと思います。その上でいわゆる合理的な処理に較べればこう言うクセがあるからそれだけは理解しておいてくださいね。そのあたりがこの授業の伝えたかったことと理解していただければ。

  • 教師が生徒を過信して教えることで生徒が本当に賢くなるサイクルはそのサイクルが循環すれば生徒によって大きな差が生まれてしまうリスクがあると感じた。

教育に携わる人間は常に注意しなくてはならない点です。でも一方現実の世界では、例えば企業で「伸びる部下」など、あちこちでこの現象は起こっていると思います。そして選ばれる人から見ればリスクではなく「チャンス」になる。それがこの現象の真実です。

  • 今後の授業で長期記憶の消し方などがあれば紹介して欲しいです。どうしても消したい記憶があります。

うーん、長期記憶は「半永久的」と言われています。「消し方」はいままで聞いたことがありません。
あなたの「消したい記憶」がなんなのかわからないのであまり軽率なことは言えませんが、私にとっての同じように消したい記憶は、消すことは諦め、消化する、すなわちその記憶を冷静に見て自分なりに解釈しなおすことで折り合いをつけて、今も共存しています。

  • 今日習ったバイアスやヒューリスティックは日常思い当たる節がありすぎて、面白かったです。

  • 自分の経験として、ある特定の事柄において意思決定をする時に、十分に考えてから行うことがあるのだが、決定をした時は最適であると考えていたものの、実は別の選択の方が良かったのではないかと考えることがよくあって、十分に考えたのになぜこうなるのかと思うことがあったが、今回の授業でその原因がわかった。

意思決定に限らず、この授業で扱っているような人間の内的処理は、皆さんが日常やっていることまさにそのものです。
毎回同じことを言っているようですが、自分の日常と照らし合わせると理解がより進みます。

  • 意思決定には常にリスクが伴うが、そのリスク評価としてちょうど今現代インダストリアルエンジニアリングで勉強している分野に繋がるということが面白いと感じた。

はい。インダストリアルエンジニアリングの核心は現場の問題発見と解決だと思います。いくつもの授業で学んだことをうまく連結して、あなたの中に新たな知が生まれれば、それがあなたの強みになると思います。

  • 前回の授業のフィードバックに電話番号の記憶をしていた人がたくさんいたという話を聞いて授業が始まる前に電話番号を思い出し喜んでいた自分が恥ずかしくなった。

別に恥ずかしくありませんよ。長期記憶にしまってくれたんですね。

  • 特に質問はありません      今回は、ただ話を聞いている時間が多かったので、少しだけ、眠たくなってしまいました

  • 合理的な判断の難しさが分かって面白かった。最後の方はスピードが早くて追いきれないところがあった。

そうですね。今回は話したい話題が多くて、ちょっと話すばかりの授業になってしまったかもしれません。

  • 授業の前半で行動経済学の本を色々紹介していただいて、とても興味深かったです。最近趣味探し中で暇なので読んでみたいと思います。

  • 1年生のときに行動経済学の本を読んでナッジ理論など用語は知っていたけど入門編だったのでもっと学んでみたいと思った

今回ご紹介したのはどれもとても良い本ばかりです。是非読んでみてください。

  • 試験の日程や詳細を教えて欲しいです。

11/10に教務課からアナウンスされました。https://www.titech.ac.jp/student/students/life/undergraduate-exam をチェックして下さい。


以上第9回へのフィードバックの一部でした。
続けて(そう遅くならないうちに)第10回へのフィードバックもご紹介したいと思います。

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