第11回(11月13日)の授業へのフィードバックからご紹介

遅くなりましたが、第11回の授業にいただいたコメントからご紹介します。11回は、第10回で学んだ Hick-Hyman の法則、すなわち人間の情報スループットは一定である、という考え方からの乖離を学びました。
当時の多くの追試を生き残り、かなり盤石と思われた Hick-Hyman の法則ですが、やはり20世紀末に向けてそれだけでは説明できないこと、「反例」が多く指摘されました。
その中には、インターフェースを設計する際にとても重要な互換性 (Stimulus-Response Compativility; S-R Compatibility) の考え方もあります。特にこの互換性については念入りにご紹介しました。

  • 互換性を意識することで直感的な操作を可能にしていると感じた。

  • 今回の授業では前回学習した情報処理速度に関するHick-Hymanの法則が本当に常に成り立つのかということについて学んだ。最近の研究では常には成り立たず、特に互換性がより影響することがわかった。またコードが同じならRTが短くなるなどの考えが実際のインターフェースに適応されているのが素敵だと思った。

  • 人間の情報処理は基本的には一定であるが、配置、動作、モダリティの互換性など、反例が多く出されたことを学んだ。情報処理速度に影響を与える要因が多くあったが、どれもHick-Hymanの法則を覆すための屁理屈などではなかったことに驚いた。

  • 反応速度が一定であると先人の人たちが提唱していたことが現代になって検証し直されて塗り替えられたと言う事実に、現代心理学の研究の意味を感じられました。

  • 人間の情報処理の速度は常に一定では無いということであったが、説明を聞いて経験と合わせても納得できるものであった。互換性のところの動作の近接性のところで、噛み合うように変化を加えるところは言われれば分かるが思いつくのは少し難しかった。

今回は、前回の Hick Hyman の法則で学んだ「人間の情報スループット一定」の前提が崩れる例を多く学びました。
その中でも、表示器(display; ランプなど)と操作器(controller; スイッチなど)の配置や動きなどの互換性によって、反応時間RTが大きく変わることを学びました。

  • スマートフォンは表示部分と反応部分が一致し、それらの動きも一致していることから、互換性が非常に高く、説明書が無くても感覚的に操作することができる点でよく出来た製品だと思う。

そうですね。併置(collocation)の原理の観点から言えば最高に達成されているとい言えると思います。

  • メーターの右にダイヤルを置くだけで直感的にダイヤルを回す向きがわかりやすくなり、すごいと思った。身の回りで増加の方向や併置の原理が使われているものを探してみたいです。

  • 何気ない商品のインターフェースにも隠れている人間工学的な工夫を探してみたいと思いました。

授業でも紹介したガスコンロなど、身近にもたくさん見つかる題材です。ぜひいろいろ見つけてください。

  • 人のミスを減らしつつ、反応速度を上げるために工夫できる点について良く理解することができた。自分はサークルでさまざまなマニュアルや資料を作る仕事をしているので、今回学んだ内容を活かせそうである。

  • 今回はインターフェース設計に役立つものが多く面白かった。

はい。ぜひ学んだことを応用してください。

  • 今回の講義では行動選択を学び、情報の互換性がテーマであった。特に、位置の互換性に興味を持った。4口コンロの話があったが、たしかに横一列にスイッチがあると分かりづらく、互換性の重要性を実感した。

  • ガスコンロのつまみがどこと繋がっているのか、今でもよくわかってないです

  • 家のガスコンロもボタンをどこ押せばどこの火がつくかが分かりにくいので改良したいと思った。今回はすごく個人的に興味のある内容で面白かった。

あの図のb, すなわち「併置」も「相似」もできていないパターンは本当にわかりにくいですね。私も正直いまだにマッピングがよくわかりません。

  • 実際に大学入試の数学で自分自身で問題の設定をする問題があった。その問題は設定次第でかかる時間が大きく変わるものであった。設定するときに相似の原理を使わない場合だと毎回頭を整理して一つ一つ進めていくのは非効率だった。一方で設定の仕方がうまくいくと、反応速度が速くなり、問題を解く時間を短縮することができる。今日の授業でそれを感じることができた。

なるほど。詳細がわからないですが、興味深い応用分野ですね。

  • 数の並べ方を相関係数と対応させてグラフにするところがおもしろいなと感心しました

  • 相関係数がすごかった

あの発想は、私も最初に読んだ時にすごいなと思いました。

  • 相関係数が0.9から1にかわると反応時間が急激に短くなっていたのに対し、-0.9から-1にかわってもそれほど反応時間が急に短くなっていないことはどう説明すればいいのかわからなかった。あのグラフは「相関係数1のときは反応時間最短になるよね、それは前提として、-1のときも1のときには及ばないけどみんなが思っているよりも短くなっているよ」ということを示すものだと自分は解釈しました。

後半の理解でよろしいかと思います。例えば相関係数が -0.9 の時に、どのような要因でRTが長くなったかは実際のマッピングルールを見て、「実質何個のルールを覚えなくてはならないか」を調べてみないとはっきりとは言えないと思います。

  • 認知プロセスについて一通り長いように思いましたが、この約10回とても短く感じました。      今回の講義のモダリティの互換性においても作業記憶の回に出てきた空間的・言語的といった分類が出てきて、一連の流れが繋がっていることを感じました。

  • 人間の認知に基づくデザインについて、理論に基づいて知れたようで面白かった。

授業の中でも触れましたが、少し前から企業がインターフェース設計、インタラクション設計の分野で、認知科学を学んだ人を多数雇用するようになりました。

  • 互換性についての話をしました。位置互換性の相似性と相関性、動作互換性、モディリティの互換性についてのお話をしました。このようなインターフェースをめぐる問題は事故防止につながるものなので、軽く見ては行けない分野だなとひしひし感じました。

  • 動作の近接性の説明で、元々左にあったダイアルを右に置いたらわかりやすくなってすごいと思いました。

はい。ちょっとした設計の違いが、使いやすさや、逆に間違いやすさにつながったりします。人間の特性を理解していること、あるいは人間の特性に沿ったデザイン原則を知っていることはとても大切です。

  • 今日は互換性の授業でした。先日自分でも互換性の大切さを実感したのがインダストリアルエンジニアリングの授業で、作業の内容を文字に起こす課題をやったのですが、紙の左側に左手の作業、右側に右手の作業を書くはずだったのが、人を正面から撮った動画を見ながら文字起こししたので(動画の左側が右手、右側が左手だった)全部作業を逆に書いてしまいました、、、油断してると簡単な左右も間違えてしまうので、エラーが重大な影響を及ぼす場面では、エラーしないように互換性をきちんと保つのが大切だと感じました。

  • 具体的に思い出せないが、昔からよく左と右逆にあればいいのになと思う場面があった。飛行機事故のように命の危険につながることもあるのでこの分野の有意性について再確認できた。

はい。相似の原理(の違反)の応用例ですね。

  • アラビア語は右から左に読むので、地域や文化によっては最適なインターフェースが異なってくるのではないか。

私も前からそう思っているのですが、実はちゃんと本などで調べたことがありません。本学にもアラビア語を母国語とする人がいるので、機会があれば聞いてみるといいですね。

  • 0から4なら左手5から9なら右手の実験をした後で、ルールを偶数と奇数に変えてもう一度実験をして、ルールを変えた後の最初の方で時間かかってしまうことを体験できて楽しかったです。

  • 今回の授業は、「あなたの情報処理能力はほんとうにいつも一定か?」というテーマでした。まず0-4では左手、5-9の時は右手でスイッチを押し、途中から奇数なら左手、偶数なら右手でスイッチを押すという動作に変える実験をした。内容はとても単純なので普通にできるだろうと思っていたが、意外と時間がかかり自分でも驚く結果となった。

  • 机を叩くのが意外に難しかったです

作業記憶や Central Exccutive など、本来概念上のモデルでしかないものの(仮定される)働きを、自分たちの身をもっと経験するととても納得しますよね。

  • モダリティの互換性のところで、刺激と同系統の反応をする方がRTが短い(音声の刺激への反応は指差しより発声の方が良い)という説明がありました。      しかし、作業記憶のところで説明された、同じコードでの情報の提示は避ける(ナビゲーションは音声で与えた方が良い)という規則と一見矛盾しているように感じるのですが、どうなっているのでしょうか。

なかなか鋭いところに気がつきましたね。作業記憶の回の干渉は、基本的に異なる二つ(またはそれ以上)の言語的コードの処理をしていると情報同士が干渉するという点がポイントです。例えば、音声で「あなたは〇〇ですか?」と聞かれて「はい」と答えるのは、同一の「言語による受け答え」という処理を行っているため、干渉しません。ところが歌詞を思い出しながら「はい」「いいえ」の答えを用意する処理をするのは、ほとんど関連がない複数の情報の処理です。だから干渉するのです。

  • 練習と互換性がトレードオフなのはとても驚きだったが説明を聞いてよく理解できた

最初からわかりやすく使いやすく設計されたインターフェースは、「練習」なんかしなくても皆最初からうまく使えると言うことですね。
よく引き合いに出されるのが楽器のバイオリンです。ユーザビリティ的には最悪で、最初に触った人がまともな音を出すのはまず不可能。でも、そこから練習すればするほど、素晴らしい音が、スラスラと弾けるようになると言うタイプの「インターフェース」の典型例です。ドナルド・ノーマンの「エモーショナル・デザイン」にその話が出てきますので興味があったら読んでください。
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  • ねじ右に回せば大きくなるという概念は生まれる前からあるバイアスですか?それとも遺伝子的に決まるバイアスですか?また、そうでないならどのくらいの期間で人間の脳にそういうバイアスが生まれますか?

ネジを回す方向が(普通は)右回りなのは国際規格で統一されていますが、もともと右回しになったのは、右利きの人が多いから、すなわち右利きの人が力を入れて閉めるのに右回しの方が適しているから、と聞いたことがあります。
なお、ご存知かもしれませんが、特殊な用途のためにわざと逆回しに切ってあるネジもあります。

  • プロダクトの設計の話で思ったのが、表計算ソフトの桁数変更のボタンです。ExcelとGoogleスプレッドシートの差異の中で、ストレッサーとなるものの1つが数値の表示桁数の増減ボタンです      (どちらの表計算ソフトでも、左に←、右に→のボタンが配置されていますが、Excelでは←で桁数増加、→で桁数減少ですが、スプレッドシートではその逆です)。 昔はExcelのほうでは毎回間違え、スプレッドシートのほうでは間違えることはなかったのですが、最近はExcelでの正解頻度が上昇し、スプレッドシートでの正解頻度が減少しています。どちらに統一されるように願うのがよいでしょうか?

うーん。人間工学的な議論はできると思いますが、あんまり Microsoft と Googleの間に首突っ込みたくないなあ…

  • つまみを右側に配置するという答えが当たって嬉しかった。

素晴らしいです。

  • UIを向上させるためには、併置の原理の理解が必須だと思った。      前座席表のスライドを作成した時に、90度違った向きにスライドを作成してしまったことがあった。今後よく使う知識になると思うので、よく覚えておきたい。

はい。ちなみにユーザビリティの古典ですが、ドナルド・ノーマンの「誰のためのデザイン?」はもう読んだことがありますか?出版から20年経って改訂版も出たようです。
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  • 情報理論の乖離の話はとても面白かった。私はサッカースクールに似通っていたことがあったのだがその練習の一つにコーチのジェスチャーに反応して手足を素早く動かすというものがあった。コーチのジェスチャーとは反対の行動をするように言われたりしたので非常に難しかったのだが、そのことが解説されていて懐かしさも感じた。

これは、動きの互換性の問題とも捉えることができますが、ミラーニューロンの働き(を強制的に抑えている)と見なすこともできるのでは?

  • 操作器具の配置と、構造の効率のトレードオフなら構造を取るべきだと思っていたが、航空機の話で、ボタン配置一つが事故の原因になることを考えると、配置のために真逆まで操作系統を伸ばすのも必要だと感じた

はい。構造やスペースの効率性などだけで設計してしまうと思わぬ落とし穴がある場合があります。
人間が使うインターフェースは、人間の特性を熟知し、人間が誤りを犯さないように、そして簡単に使えるように設計することを優先する。これがユーザビリティの考え方です。

  • 最後に空間的コードと言語的コード的な話が出て感動しました。

  • 最後に視覚・聴覚と言語的コード・空間的コードの話が出てきて、今までの授業と内容が繋がり理解が深まりました。

  • モダリティの互換性では、以前お話しがあった言語的、空間的のバケツのお話と同じような話が聞けて、作業記憶の構成要素のお話を思い出すことができて良かったです。

認知の段階の(CRTの)処理 を考えると、やはり情報のコードの話が出てきますよね。

  • 人間の構造って奥が深いなと思った。あと毎回の講義で、どこの部分が重要であるか(今回の場合互換性)をもう少し知りたい。

基本みんな大事ですよ。その中でも特にこれだけは覚えてくれ!と言うポイントはその都度強調しています。(今回のように。)

  • 認知主義の全容の解説が終わって、改めて認知主義の実験と考察の歴史がかなり理論的であることを実感した。少なくとも、自分がこの授業を受ける前に勝手に抱いてきた心理学というものの認識はかなり改められたように思う。

授業の中でも話しましたが、アメリカの大学では心理学は数学や物理学、化学と同様に「科学」(Science)のひとつとみなされているところがたくさんあります。

  • 面白かった。

はい。よかったです。

• 前回は最後早くて理解が追いつかなかったが今回ぐらいのペースだと有難いです。次回の心理学実験の講義とても楽しみです。

授業のペースは改善の余地がありますね。

  • 期末がみんな違う答えになるように作ると言う話がとても不安です

基本的に、例えば講義資料を写せば答えになるような問題は作りません。皆さんに考えてもらうことに主眼を置いています。
なお、「コミュニケーションに使える手段」の使用を禁止、ということにしてありますので、当然生成AIも使えません。念のため。

• 前回出席確認忘れてしまったのが凄いショックです。テスト頑張ります!

はい。頑張ってください!

というわけで期末試験も近くなってきましたが、授業本編はあと3回。

  • 人間を実験する上では完全な対照実験をすることは難しいと思うので、ある程度の割り切りも重要なのではないかとも思いました。

次回は「心理学実験」、これらの様々な認知プロセスモデルが提案される土台となった無数の心理学実験がどのようなものなのか、物理や化学の実験とどう違うのかを考えます。人間を対象とする実験は、考えなくてはならないこと、注意しなくてはならないことがたくさんあります。次回勉強します。

  • 心理学実験とは経営工学らしい実験(物理実験や化学実験とは異なる)だと思っているので、次回の授業がいつも以上に楽しみです。

はい。お楽しみに!

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