第8回(11月2日)の授業へのフィードバックからご紹介

第8回の授業は作業記憶の2回目。作業記憶の容量が少なく、保持時間が短いことを体験的に知ってもらうために、Brown-Peterson Paradigm のミニ実験を授業中に行いました。

  • 曲線が先生が言っていたように綺麗になったのが驚きだった。実験を交えて授業をすると体験的に覚えやすい。

  • 作業記憶がいかに短いか肌を持って体感できたし、その知識が社会で生かされているのも面白かった。

  • 10文字から急に覚えられなくて、記憶にストックがあるのが明確に分かって面白かったです。

  • ワーキングメモリの実験でパターン5でしたが、0秒で10文字選ぶ時8文字しか思い出せなかったです。1文字、3文字、5文字、7文字は普通に思い出せましたが、0秒で10文字を思い出せなかったので、作業記憶に保持される情報の量の少なさを実感できて面白かったです。

  • 今回の実験では、覚えなければならないアルファベットの暗唱(注: リハーサル)は禁止されていたが、禁止せずに実験を行ったらどのような結果になるのだろうと不思議に思った。チャンク化は、電話番号や暗証番号を覚える時にいつもやっていると思った。

今日は Brown-Peterson パラダイムの実験を、教室でやるので厳密な実験ではありませんが「ミニ実験」として行いました。
約60人の受講生で条件を分担してさまざまな組み合わせを行なって、記憶するアイテム数(文字数)別に経過時間と正統率の曲線を書いてみました。
簡便な実験ではありましたが、そこそこ教科書に載っている曲線に近いようなものが得られてよかったです。
ちなみにリハーサルをやってしまったら、ほとんどの人がほとんど文字をずっと覚えている、という結果 ( = グラフが全て水平になってしまう) になってしまうと思います。

  • リハーサルが、やるなと言われると無意識に行ってしまい、困った。

やるなと言われるとやりたくなる原理を「心理的リアクタンス」と呼びます。また俗に「カリギュラ効果」などと呼んだりします。リハーサルをやってしまって正答率が高くなると、曲線も歪むんですよね。

  • 作業記憶がとても短い記憶であることが、実験によって痛感させられた。自分は短期的な記憶が得意と思っていたため、途中に引き算の計算が入るだけで難易度が劇的に向上することに驚いた。電話番号はまだ覚えてます!

  • ミニ実験を通して作業記憶の容量をしることができて面白かった。 ちなみにまだ先生の電話番号を覚えています。

  • 今回の授業では作業記憶の限界について学んだ。梅村先生の電話番号に関しては、覚えておけという通知をよみとっていたため、5分程度別の話をされても覚えることができていた。さらに言うと、授業終了後まで覚えていたので長期記憶になっていたのかもしれない。

  •  教授の電話番号覚えてる人多すぎて驚いた

まだ覚えているということは、すでに長期記憶に入ったかもしれませんね。ちなみに私の名前は梅室です。これも長期記憶に入れておいて下さい。

  • 7文字すら覚えられなくて自分にがっかりしました。

今回教室でおこなった実験は非常に簡素なものです。実験環境も厳密に管理されていませんでしたし(他の人の姿や声も見えて/聴こえていた)、試行回数もほんのわずかです。「たまたま」の影響を最小限にするために、一般的にはそこそこの回数の試行をして、外れ値を除いたりと言った処理をします。ですから、あの結果で一喜一憂する必要はありませんよ。

  • 作業記憶の限界について、保持時間や容量の実験を実際に行った結果、授業で行った結果が、教科書にあるとされているグラフ通りに曲線を描いていて驚いた。しかし、この実験をしている時に、覚え方によって結果が変わるのでは無いのか思った。現に、語呂などで何かと関連付けながらアルファベットを覚えてしようか迷ったが、結果が変わってくると思ってやめた。もっと語呂などと関連付けて覚えたりすることが出来ないものにした方が良いのではないかと思った。

その通りです。前述の通りこの授業中の「ミニ実験」は簡易なものであり、厳密な心理学実験に比べるといろいろな点で不備があります。ご指摘の点もその一つです。おそらく一つの対処方法は試行回数を増やすことでしょう。そうするとチャンク化ができるものばかりではなく、チャンク化しにくいパターンも多く出てきて、ある程度その影響は少なくなると予想されます。

  • 小実験は文字数が増えるほど難しかなるが、語呂合わせや、リズムの良い並びだと覚えやすく文字数が増えてもできそう。またフラッシュ暗算というものをこの前初めて知ったが、あれをやっている人の記憶力はどうなっているのか気になった。

フラッシュ暗算は私もはじめてその名前を聞きましたが、頭の中にそろばんのイメージを持ってその上で計算をするという考え方のようですね。前回出た「言語的コードの情報の操作である計算を空間的コードの処理に変換する」ということにも関係するかもしれませんね。

  • シチュエーションアウェアネスの概念について理解できた。例えば救急医療従事者は、患者の症状、バイタルサイン、医療履歴などを評価し、緊急治療のための判断を下す必要があるため、彼らのシチュエーションアウェアネスは、患者の安全を確保し、最善の医療ケアを提供するために重要であると思う。加えて、汲み取るべき情報量が多い医療業界などでは特にAIなどIT化を推進していかければいけないのではないかと感じた。

なるほど。医療現場の Situation Awareness というテーマもとても興味深いですね。東京医科歯科大学との統合も予定されています。特定課題研究や修士論文研究で取り組まれてはいかがでしょうか?

  • 状況認識について二個のボールでドッチボールをしたことについて思い出した。自分のチームにはあと自分含めて2人しかおらず、相手は二つのボールを持っているという絶望的な状況の時に常にボールの位置や外野にいる相手プレーヤはどういうフォーメーションを組んでいるのかなど視覚を使って一瞬で判断しなければならなかったのは難しかった。

なるほど。リアルタイムの Situation Awareness の例題としてかなり興味深いですね。
Situation Awareness の題材としてゲームスポーツはよく出てきます。例えばサッカーのゲーム中、ボールだけでなく22人のプレイヤーが今どこにいて何をしようとしているか、なんてとても面白い Situation Awareness ですね。

  • 人間以外に作業記憶を持つ動物は存在するのでしょうか?

私は人間以外の動物にはあまり詳しくはありませんが、少なくとも一部の哺乳類には作業記憶の機能が見られるという研究があるようです。

  • 人は専門知識に対して特別な記憶力を発揮するというような話がありましたが、どの程度の専門性があればそのような能力が現れるのでしょうか。例えば、将棋で言うとプロ棋士には可能だがアマチュアのレベルでは無理ですか?

そんなことはないと思いますよ。要はどの程度その分野の情報を扱い慣れているか、だと思います。

  • 私は小さい時から将棋を指していたので、専門的な知識を有している人はその分野でチャント化して覚えるのが得意だということが理解しやすかった。専門家とそうでない人でどれくらいの差があるのかも気になった。

はい。プロとアマチュア、というより「専門家」(expert) とそうでない人の差がどこにあるのか、というのは認知科学や認知工学、人間工学の多くの研究者を引き付けてきた興味深い問題です。経営工学系でも青木先生などはこの分野に詳しいと思います。興味があったらぜひ青木先生に話を聞きに行ってみて下さい。


次回は認知のステージの最終回として「意思決定」の講義をします。いわゆる「行動心理学」と心理学が接触するところでもあります。お楽しみに。


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