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スポーツが持つ公共性

スポーツが持つ公共性がビジネス上、どの様な影響を与えるかを考える事が重要です。また、公共性を担保する上では透明性の要素の理解が大切です。

まずはじめに「公共性」という用語を整理します。公共性とは(公共的に)あるものではなく、(公共的に)つくられるものです。すなわち、「ルールを守る」「他者を尊重する」「自立した思考」「思考と行動の一致」などです。これにより、法律や制度が機能していきます。これらの機能は生物本来の本能とは違う部分です。あらゆる生物の中で人間だけが前頭葉という第三の脳を持ち(霊長類の中には前頭葉らしきモノを持っているサルがいます。)これが社会的な能力を司っている事が判明しています。

スポーツの公共性を考えるということは、スポーツを社会学的に分析し、文化としてスポーツの公共性を問う事とは異なります。日本では多くの人が義務教育という公共的な機会においてスポーツと出会っていますが、ここではビジネスとしての特徴はどういうものかを考えます。スポーツにはソーシャルマーケティングという側面があり、これは他産業との決定的な差別化要因であるという事です。

透明性について
透明性に関する要求事項は、「情報開示」「説明責任」「法令順守」というキーワードです。特にスポーツ組織は公益法人であることが多く、公的な存在として認められているために、何らかの優遇措置などを受けています。公共的な観点から通常の法人格よりも厳しく高い基準が求められています。また、トップスポーツであれば、強化費や大会への参加費に助成金を多く宛てていることも多くみられます。公共性に対する恩恵に他ならず、したがって公共性を喪失すれば、それらを享受する資格がなくなるのは自明です。しかし、透明性が高くなれば、外部(ステークホルダー)との関りが増すことを意味します。複雑なステークホルダーを整理しておくことは重要です。


公共性の影響
1つ目は施設面です。競技種目を問わず、スポーツを行うスタジアムやアリーナなどの施設は公的資金で賄われる事が基本であり、それは世界の常識となっています。どのスポーツ施設も巨大な建造物であり、この建設費を民間が負担する事はきわめて重たいイニシャルコストが掛かる事を意味します。観客を集めて行うスポーツゲームは毎日出来るわけではなく、興行だけで考えると収益機会は限られており、それだけでは巨額なイニシャルコストを回収するのは困難です。このコストという観点からも、スポーツには公的資金が不可欠になります。

スポーツの公共性は、スポーツビジネスの原因であり同時に結果でもあります。公共性が無いのであれば、公的資金を注入するのは間違いです。公共性なものはこの世には存在しないものなので、多方面の意見を集約させ作り上げていく姿勢を持たなければなりません。社会の中で公共性を担保する為に、最低限必要な事としては情報の公開性が挙げられます。したがって、公的施設を利用してビジネスを行う組織が、その財務内容を公表しないことは公共性を満たしておらず矛盾する事になります。

2つ目は、個人の体験です。スポーツを観戦することによって、個人レベルで公共的な文化に触れているという実感が得られる貴重な機会であり、体験価値を享受することができます。言うなればコミュニティの一員として共同体験を実感して帰属意識を再生産できるという点です。国際試合の前などで両国の国歌斉唱が行われる際、若者が自然に脱帽・起立して斉唱している姿に違和感はありません。現代では大変貴重な機会といえるのではないでしょうか。国への帰属意識を再生産するスポーツに、国家としての公的資金を使用するのは理論的に間違ってはないと言えます。

公共性とマーケティング
スポーツはエンターテイメントビジネスであり可処分所得と可処分時間によって規定される余暇産業です。ゆえにテーマパークや映画や音楽などの競合が存在します。スポーツの優位点は、公共的な文化に触れているという実感を持って見ることができる大衆的なエンターテイメントであるということです。勝利という1つの大きな価値を通じて、地域社会とつながり、ローカルアイデンティティを実感し共有出来るのです。公共的なものを見ているという前提があるので、世代や地域の差がなくスポーツを見る人々は同じ共通の話題で盛り上がり、同じ反応をすることも説明がつきます。

この公共性をうまく利用する事が必要となり、スポーツ産業として公共性という要素をビジネスに活用しなければスポーツの持つ優位的領域を放棄する事にもなってしまいます。

最も安定した顧客
公共性をスポーツにどのように反映することがいいか、社会との関わりの中で何をどのように還元すべきかを最も端的に表現しているのが「地域密着」です。興行を行うプロスポーツチームの観戦データでは、競技場からの距離と来場頻度の関係は反比例しており、最も来場頻度の高い上顧客は、スタジアムの近くに住んでいる人たちという事になります。地域住民は単なるファンというカテゴリ―よりも顧客として安定する可能性があります。ある日突然にライバルチームのファンに変わってしまう事はあまりなく、たとえ遠方へ引っ越したとしても、指示するクラブを変えることは稀です。

ブランドスイッチが起きにくいのは、スポーツ産業の特徴の一つです。したがって、地域アイデンティティとリンクさせたブランディングを行う事が顧客の獲得には有効です。地域に貢献し、地域ブランドを確立することによって、その地域に住む限りファンとして支えてくれるという構造を創り出すことが出来るのです。その際のスポーツと競合になるのは、その地域の名産品や観光地であり地域シンボルとなります。地域密着の観念は競技成績に連動しない安定したコミュニティを作り出すキーワードだと考えられます。

公共性によりファンの応援が地域への帰属意識の実感に繋がります。先に述べた公的資金によって賄われるスポーツ施設は国立のものはほとんどなく、地域の自治体が負担しているケースが大半です。地域住民への具体的なベネフィットの提供が自治体へのリターンの実現となり、安定した経営基盤を作りだす事に繋がります。ローカルブランドの徹底はスポーツの持つ公共性を活かす施策となり得ます。


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中山 建(Takeru Nakayama)
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