和栗でつながる!遠州8市1町とJAグループ5団体が集った「WAGURI ディナー&フォーラム」DAY1
行政や団体・企業の垣根を超え、和栗の復興に取り組む遠州・和栗プロジェクト。遠州8市1町の連携により国内の活動が本格始動することを祈念し、2月27日(火)・28日(水)に「WAGUR Iディナー&フォーラム」を掛川グランドホテルで開催した。
参加団体・企業の経営トップや和栗の産地関係者らをゲストに迎え、これまでの活動を共有。また、未来に向けての意見交換を行う。
初日のDAY1には、ディナーを開催。遠州8市1町の首長をはじめ、遠州エリアのJAグループや関係企業のトップ、栗の生産者など約200名が参加した。翌日のDAY2は、地域資源のブランディング化の取り組みと、和栗の高付加価値化による経営強化について基調講演で学ぶ機会とした。
この記事では、DAY1当日の様子をダイジェストで紹介する。ぜひ、当日参加した気持ちで楽しく読んでもらえたらうれしい。
▼DAY2の様子はこちらより。
産業の枠を超えた連携と交流を
大ぶりの実と芳醇な甘みから「極上」と評される掛川の和栗。地域に誇る名産品だが、2004年をピークに生産量が減り、今では全盛期の5分の1程度と低迷している。
その最大の理由が後継者不足である。年間を通じた農作業の負担や、収益性確保の難しさといった課題の解決の糸口が見えないなか、JA静岡経済連の呼びかけに応じ、立ち上がったのが遠州・和栗プロジェクトだった。
2022年7月のスタート以来、官民連携の輪は活動を通じて確実に広がり、ついにこの日、遠州の全8市1町が一堂に会することとなった。和栗をブランド化し世界に発信するという目標に向かい、多くの仲間と志を分かちあっていく契機としたい。
夜のとばりが下りる17:30。
この特別な日のスタートは、「夜咄掛川栗茶会」で交流を。掛川市の久保田崇市長、株式会社TeaRoomの代表であり茶道家の岩本涼さんが亭主となり、遠州8市1町および参加団体・企業のトップをもてなす。
プロフィール|岩本 涼 氏
1997年生まれ。茶道裏千家にて岩本宗涼(準教授)を拝命。21歳で株式会社TeaRoomを創業。静岡県に日本茶工場を承継し、第一次産業へも参入。お茶の生産から販売までを一貫して担う垂直統合モデルで、国内外で新たな需要創造を展開。「Forbes JAPAN 30 UNDER 30 2022」や「Forbes 30 Under 30 Asia 2023」への選出、その他株式会社中川政七商店の社外取締役、一般社団法人文化資本研究所を設立し代表理事を務める。
静かな空間のなか、これからの連携を祈念して掛川の抹茶で一服。この日のために用意された茶道具としつらえ、和栗にちなんだ夜咄で場が和んでいった。
続いて、ドアオープン。ウエルカムドリンクを片手にゲストが席に着くと、にぎやかなセレモニーが幕を開けた。
遠州和栗の課題は私たちの課題、知恵を持ち寄り解決を
「こんばんわぐり~!」と元気なあいさつで会場を盛り上げるのは、本プロジェクトの参加企業である株式会社静岡新聞社・静岡放送株式会社の近江由佳アナウンサー。
続いて、WAGURIフォーラムの委員長を務める同社の大見拳也さんが登場し、次のように本日の趣旨を説明した。
「和栗を使った料理やスイーツ、ステージコンテンツなど、今日は私たちからのおもてなしを楽しんでいただきながら、和栗を取り巻く現状やプロジェクトの未来を知っていただけたらと思います。
後ほど発表する取り組みのなかから『この分野であれば遠州・和栗プロジェクトに関われそうだ』というヒントを持ち帰っていただけたら幸いです」
遠州・和栗プロジェクトのこれまでの活動とこれからの計画について、3名のプレゼンターが発表を行う。まず、JA静岡経済連の藤川俊朔さんより、管轄内における和栗の生産と展望について。
遠州・和栗プロジェクトが始まって以来、遠州・和栗の再評価が進み、その価格は1キログラムあたり1,500円まで向上した。プロジェクト開始前の市場価格と比べると、約1.5倍だ。
今後は、遠州地域全体で約15トンという現在の和栗生産量を100トンまで増やすことを目指す。高い目標ではあるものの、販売先を押さえた上での計画であり、夢物語ではない。また、プロジェクト関係組織の協力で、遠州和栗の価値は5,000円/キロにも到達できるかもしれない。
では、どのように価格目標を達成するのか? ヤマハ発動機株式会社の齋藤昭雄さんが、和栗の付加価値向上と栽培の魅力化向上について説明を加えた。
和栗の付加価値向上については、「貯蔵」と「熟成」による糖度向上に取り組んでいる。遠州・和栗プロジェクトでは2023年度に専用の貯蔵庫を設置し、栗の熟成技術の習得に取り組んできた。世界屈指の光技術を有する浜松ホトニクス株式会社から協力を得て、栗の糖度を計測する新技術も開発中だ。
これらに加え、今後は「人時生産性と魅力化の向上」にもチャレンジする。「人時生産性」とは、時間あたりの生産性を高めようとする考え方だ。
遠州地域の工業力を集結して和栗の栽培作業を効率化し、生産者が付加価値の高い作業に注力できる環境を作る。これにより、和栗生産の収益性を高め、担い手の増加にも寄与するという、和栗生産の「魅力化向上」を図る。
多様な団体・企業が集うことで、ゼロイチのイノベーションが生まれる。それが遠州和栗プロジェクト。この取り組みは、栗づくりから街づくりへと波及していく。続いて、商品開発・クリエイティブの取り組みについて、有限会社春華堂の池谷千咲から発表する。
栗の販売単価を5,000円/キロに高める目標に向け、販売商品グループでは出口戦略を策定した。その柱は2つ。1つ目は、「栗の美味しさを“クリ(栗)”エイトする」取り組みだ。
和栗は世界4大栗の1つに数えられ、ホクホクした食味と渋皮の風味が特徴だといわれている。そうした和栗の特徴を生かすべく、世界的なシェフやパティシエと協力してのメニュー開発や、渋皮に含まれる栄養素の「タンニン」の応用などを検討する。
栗由来の糖が人体にもたらす健康作用についても、医療機関や大学との連携により研究を進める。美味しさの可視化をテーマに、さまざまな分野から和栗の付加価値を創造する。
2つ目は、「栗の文化を“クリ(栗)”エイトする」取り組みだ。「大きな栗の樹の下で」と童謡に歌われるように、和栗は日本人の心に息づいている。ここに和栗の文化的な価値がひそんでいると考え、文化的な側面からも和栗の付加価値向上に取り組む。
たとえば、行政との連携体制を生かし、地域の学校で和栗にちなんだ授業を実施する。地域の菓子店やレストランが協力し、遠州・和栗を使ったイベントを開催する、など。和栗の可能性は広がるばかりだ。
2024年7月に3年目を迎える遠州・和栗プロジェクトは、生産から販売、流通までを一気通貫で担う産業基盤として発展していく。参加団体・企業同士の協力関係により、全国各地で生産されたおいしい和栗の付加価値をより高め、世界に評価されるブランドに昇華させていきたい。
和栗を通じて遠州がつながる、静岡、そして日本全国がつながる。
「やろうぜニッポン、やらまいかニッポン、がんマロン(がんばろう)ニッポン!」
志が取り組みを育み、事業となる。その新たな一歩が今日の日であるように
キーノート発表に続き、遠州8市1町と遠州エリアのJAグループ5団体のトップがステージに上がった。まず、主催である掛川市の久保田市長がビジョンを発信する。
「産業の構造的な課題と相まって、掛川栗の復興には多くのパワーを必要としていました。そんななか、春華堂さんが先陣を切って遠州和栗の購入に乗りだし、プロジェクト2年目に1キロあたり1,500円という高単価が実現しました。
さらに今日、錚々たるメンバーの方にご参加いただきました。遠州地域それぞれの力を結集すれば、本当に“クリ”エイティブで世界がビッ“クリ”するような、イノベーションが生まれるだろうと確信しています。
遠州・和栗プロジェクトが持続可能な形で発展するよう、今後ともご協力のほどよろしくお願いいたします」
続いて、遠州8市1町を代表する形で、浜松市の中野祐介市長が「力を合わせて必ずや和栗を世界に届けよう」と団結を呼びかけた。
「掛川は和栗の産地として有名ですが、実は遠州地域は全域で和栗の生産が盛んです。浜松でも天竜地域で『光明勝栗(こうみょうのかちぐり)』という徳川家康ゆかりの干し栗をつくっています。
今回、生産から加工、流通、販売、さらには情報発信までを含めた、官民連携が叶いました。これからも皆さまと支援してまいりたいと思いますので、よろしくお願いいたします」
そして、JA静岡経済連の石川和弘 代表理事理事長より乾杯のあいさつをいただく。
「遠州地域の経済、産業、農業の発展と、プロジェクトの皆さまがしっ“くり”と連携することを願います。和栗で幸せになりましょう、乾杯!」
石川さんが緑茶を高く掲げると、会場の熱気が一気に高まった。
「緑茶で乾杯?」と思ったあなたへ。
実は、掛川市では2019年4月1日に「掛川市 緑茶で乾杯条例」を施行し、人々が集う場において緑茶やお茶割りでの乾杯をすすめている。掛川茶のおいしさを知ってもらい、茶を通じたおもてなしの文化を醸成しようという取り組みだ。
掛川に来られた際は、あなたもぜひ、緑茶で乾杯を。
さぁ、ここから先は和栗づくし、遠州づくしのディナーをご堪能いただきたい。
和栗にインスピレーションを得た一皿はどうなる? 5人の名シェフによる挑戦
掛川グランドホテル 総料理長 佐々木 毅一 シェフ
佐々木シェフには、1品目の「遠州浅春八寸~八市一町の鼓動~」を含む、3品を創作いただいた。八寸(はっすん)とは、箸が進むようにと、季節の素材を生かしてつくる酒肴の盛り合わせのこと。
遠州8市1町の特産品を使い、遠州の春の訪れを感じさせる一皿に仕上げてもらった。
ほか、遠州森町のブランド牛を使った「森町産『森の姫牛』のグリル、酒粕とマッシュルームのソース」、駿河湾で水揚げされた桜エビを混ぜ込んだ「桜エビと掛川茶の薫り、袋井産『にこまる』の炊き込みご飯」も佐々木料理長の手による一品。
掛川グランドホテルのご紹介は、こちらより。
懐石いっ木 一木 敏哉 シェフ
続く一椀は、一木シェフによる「鰹出汁と熟成掛川栗の茶碗蒸し」。たっぷりのカツオで取っただしのなかに、大粒の掛川栗が丸々入っている。やさしく炊かれた栗のあんが、和栗の繊細な風味を一層引き立てる。
「老若男女を問わず人気の茶碗蒸し。だしもあんも具材も和栗でつくったら、どんな一椀になるのだろう」とインスピレーションを巡らせた。京都の名店で修業歴のある、一木シェフならではの特別メニューだ。
ほか、「朧月夜のご挨拶」として、前菜の「虹鱒と篠原新玉葱と熟成掛川栗と。」を提供いただいた。こちらは、40日間熟成した掛川栗と富士宮産のニジマス、浜松市篠原産の新タマネギを使用したプティクロケット(一口サイズのコロッケ)だ。
懐石いっ木のご紹介は、こちらより。
LA CASA DI Tetsuo Ota(ラ・カーサ・ディ・テツオ オオタ) 太田 哲雄 シェフ
人呼んでアマゾンの料理人、太田シェフが手掛けるのは、掛川栗のペーストをふんだんに使ったポタージュ。太田シェフが交流・支援するペルー北部の村から適正価格で買い付けた「アマゾンカカオ」のカカオマスを、贅沢に削りかけた薫り高い一品となった。
ミルクフォームと栗のフライがトッピングされ、濃厚な味わいに。掛川栗の繊細な甘みにアマゾンカカオの荒々しさが加わり、「地球の裏側同士の濃淡」を愉しめる。
ラ・カーサ・ディ・テツオ オオタのご紹介は、こちらより。
栗のいえ 竹内 孝弘 シェフ
和栗の名産地、茨城県笠間市を代表する皿盛りデザートの名店より、竹内シェフが登場。笠間市岩間で採れた和栗と福島県郡山産の菊芋を使った、削るモンブラン「岩間栗と郡山産菊芋」を披露した。
絞りではなく、粗削りでぜいたくに仕上げたモンブランとは何とも珍しい。岩間栗の香ばしさや甘みに、トリュフの芳醇な薫りが加わる。菊芋で食感をプラスしたパンナコッタをベースに、岩間栗の薫りが引き立つよう計算された、繊細な構成の一皿となっている。
栗のいえのご紹介は、こちらより。
MAISON GIVRÉE(メゾンジブレー) 江守 宏之 シェフ
この日のフィナーレを飾るデザート「熟成掛川栗とV.S.O.P」を提供したのは、ジェラートの権威、江守シェフ。
熟成させた掛川栗をふんだんに使ったパンナコッタとジェラートを重ねあわせ、そのうえに掛川栗を煮たシロップで作ったグラニテ(フローズンデザート)を掛けた一品をご提供いただいた。
3種類の温度帯・食感で、和栗の奥深い味わいを愉しめる一皿に。
MAISON GIVRÉEのご紹介は、こちらより。
貯蔵熟成により糖度と香りを高め、素材そのままでも味わいの深みを増した和栗。そのよさを存分に引き出し、いずれのシェフにも最高の一皿を仕上げていただいた。
余興まで手作りのクリ・アトラクション&クロージング
ディナーも盛り上がってきたところで、余興のクリ・アトラクションがお披露目に。真剣に取り組みつつ、遊び心を大切にする遠州・和栗プロジェクトならではのおもてなしだ。ゲスト全員が楽しめるステージで、会場の一体感を演出した。
栗をモチーフにしたダンスや歌などのステージを歌番組風に紹介。“ライブ中継”を模した動画で、参加団体・企業の皆さんにも登場いただいた。
会場のボルテージが最高潮に達したところで、トリを務める「Arase Band(アラセ・バンド)」がオン・ステージ。
浜松発のエンジンドローンを開発・製造するアラセ・アイザワ・アエロスパシアル合同会社の荒瀬国男共同代表を筆頭とするバンドメンバーが、生演奏で会場に花を添えた。
司会の合図とともに、全ゲストが起立し会場全体を使って大きな輪を描いていく。フィナーレにふさわしく、総勢約200名で大プレゼント交換会を実施しようという目論みだ。
プレゼントの中身は、栗の被り物のほか、企業のロゴ入り湯呑、春イチゴまで。事務局メンバーがそれぞれ用意した、レアなノベルティグッズとなっている。Arase Bandの演奏に合わせてプレゼントを右隣の人に手渡し、曲のストップと同時に手元に届いた品を、この日の想い出として持ち帰りいただいた。
楽しい時はあっという間に過ぎてゆくものだ。開始から2時間半が経ち、閉幕の時間となった。閉会のあいさつは、プロジェクトの立ち上げから携わってきた日本航空株式会社中部支社支社長の崎原淳子さん(現、日本航空株式会社執行役員)に務めていただく。
「今日教えていただいた遠州・和栗の魅力や奥深い味わいを、ぜひ全国や世界の皆さんにも知っていただけるように、弊社もチームの一員として最大限に力を発揮して、勤めを果たしたいと思います。
ここにいらっしゃる生産者の皆さま、行政の皆さま、団体・企業の皆さま、産地の皆さまとともに、それぞれの得意分野で力を発揮しワンチームとなり、ワ“クリ(栗)”ワ“クリ(栗)”するプロジェクトにしていきたいと力強く思っております。
それでは、皆さまご唱和お願いいたします。がんばろう!」
「和栗!」と、ゲスト全員の合言葉が会場に響き、DAY1が閉幕した。
参加したゲストからは、次のように感想をいただいた。
和栗というテーマに、これだけの団体・企業を引き寄せる力があるとは驚きました。その魅力を最大限に引き出した遠州・和栗プロジェクトの底力を感じました。
和栗にこれだけの楽しみ方があるとは驚きました。このエンターテイメント性を含めて、海外に輸出していきたいですね。
プロジェクトの取り組みが事業に転じ、持続していくための新たなスタートの日だったと思います。その大事な一歩をご一緒させていただき、意欲が高まりました。
遠州8市1町の首長と、遠州エリアのJAグループ5団体のトップをはじめ、メーカー、金融機関、スタートアップのほか情報産業、菓子店、宿泊業、ディベロッパー、地域づくり団体、教育機関や医療機関……すべて記載するのが難しいほど、多彩な分野のゲストにお集まりいただいた。
熊本や愛媛、高知、岐阜、福島、長野、宮崎といった産地の仲間も多数、駆け付けてくれた。この日を広域連携の契機とし、「世界に和栗を!」の目標に向かい、ともに新たな一歩を踏み出していきたい。
こうした私たちの取り組みに賛同いただける団体・企業、地域の皆さんに、ぜひ仲間として加わっていただけたらうれしい。
2024年度の取り組みにも、乞う、ご期待。
▼DAY2の様子はこちらより。
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