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主観的感想第1回 映画『SICK OF MYSELF』(邦題:シック・オブ・マイセルフ)


映画を見た時に抱いた感情はの環境、時間、周囲の人間関係、年齢様々な要素が映画に対するスタンスを変える。そういうことは重々承知であくまで主観的な視点でバックグラウンドも調べず、あくまでファーストインプレッションを大事に主観的に映画を語る企画になる。

第1回目は、SICK OF MYSELF(邦題:シック・オブ・マイセルフ)。

はじめに。ネタバレを含みます。

※まず、ストーリーテリング、シーンの取捨選択、セリフ、カット割り、撮影、編集、にあたるレベルを独断でジャッジする。論ずるに値するか否か、見る側の親切を要求せずとも入り込めるか?の尺度としてまず語りたいためだ。もちろんこのスコアがすべてではないことは伝えておきます。 
極めて主観的に映画的没入度として定義すると、10段階中で表示。なお、これは面白さの指標ではない。

映画的没入度:8/10

シーンの取捨選択が素晴らしい、余計なシーンはない。尺も見易い。撮影も16mm?フィルム撮影でトーンも素晴らしく編集は多少歪なところ(同じアングル繋ぎなど)はあったが見易い。主人公が明確で入り込みやすい。これだけでこの映画を観ることを勧めてもいい。

まずこの作品を見て連想したのは、ロストイントランスレーション。ルックがすこし似ているという点を置いておいても類似を感じた。個人とパートナーの関係性、社会とのディスコミュニケーション具合、それによって生じるアクションが似通っている。

本作の冒頭では、主人公の疎外感と見向きもされない、ただのアーティストの女のカフェ店員としての現状をまざまざと見せられる。その後に描かれていくのは主人公の承認欲求。この映画のいいところは主題に近いはずのSNSがメインにならない点だ。あくまでSNSも小さな村的コミュニティでしかないこと、実際にface to faceで会い話す生身の人間でしかないことを捉えている。オールドメディアの雑誌を中心に社会的接点を描写するのも自然に見える。

次第にエスカレートしていく主人公の想いを手にとるように予想できるようになる。予感と行動が一致しているため見ている側も身を委ねやすい。その補助線はたびたびカメラワークのトラックインで示唆される。何かを考えている。セリフはない、でもカメラが語っている、見事に。

補助テーマ、アンチテーゼとしてルッキズム批判の批判が行われるCM撮影シーンはこの映画に厚みを持たせてくれる。ありのままにと言いながらメイクはばっちりの現場。誰のものでもないクライアントワークの責任のなすりつけあいのCM業界の解像度の高さが良い。

自傷行為をドラッグによる皮膚病で表現するグロテスクさが良い。テーマとしてはタトゥーでも、リストカットでもピアッシングでも良かったはずだが、見た目にわかりやすくインパクトのある顔が変化していくという点で成功している。

秀逸なシーンを他に挙げるとすると、終盤にある、それまで盗んできた家具が押収された後にもともと持っていた家具だけに残るシーンだ。IKEAの一番安いスツールがまざまざとファーストカットにあり、その後に貧相なソファやイスが映し出される。生活水準があらわになる瞬間である。その仮初だった生活や部屋がSNSで見栄を貼った生活に対する虚しさとして映し出されている。そんなすべてを失った主人公がセミナーで立ち直る兆しを見せてこの物語は終わる。「ただ、生きている」のセリフの繰り返しで。現代におけるゲームの上でサバイブした結果なのだ。彼女が特別ではないと観客に気づかされるシーンになっている。大小はあれど、かまって欲しい。認めて欲しい。そんな想いに駆られて人は行動してないだろうか?少しでもよく見せよう、多少の嘘でもと。

SNSで可視化された承認欲求に対する現代における処方箋的映画である。

あまりよくなかった点を挙げるとすると、読後感はあっさりしている点。窃盗行為が見過ごされ過ぎ。最後にようやく捕まるが、ノルウェーの警察仕事しなさすぎじゃないか?妄想シーンの境目をあえてトーンなどで作らないのは正解だなと思いつつ、多過ぎてどっち?となって見辛さにもなっている点。カフェ内のシーンで他の助けようとした客を寄せ付けないところは現実であろうか。やはり現実・妄想の見せ方の妙が少なかったように見える。音楽がちぐはぐで、王道すぎる点。シーンに沿い過ぎている。シーンによってはオケの音楽は壮大すぎるように感じる。スケール感の違和感が挙げられる。

総合評価
85点(秀作)
編集:2(気になるところ多)
撮影:5(見事)
脚本:4(シーンの取捨選択良し)
演技:4(自傷後の笑顔がいい)
演出:5(素晴らしい)

見て欲しい人:ツイッター(X)毎日見ている人。インフルエンサー。タレント。
カップルは趣味が合いそうならアリ。一人や友達と見るのにいい。ホラー要素とコメディ要素(笑うに笑えないが)はあるので そちらが好きな人もおすすめ。家族ではおすすめしない。
週末にさらっと午前中に見て喫茶店へ行って話すくらいでちょうどいい映画

次作のA24製作の作品に期待している。
アリ・アスタープロデュースとの噛み合いは謎。主演の女性の好みは合いそう。フローレンス似なので。大きなバジェットはいらない監督にも思える。



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