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ミルク色の世界へのカウントダウン 『まぼろしのペンフレンド』
「ミルク色の光をおびた木々のあいだには、人影もない。あちこちに、白い小さなビルのようなものが建っているが、そこからも、だれも出てくる気配はなかった。」 (テスト / まぼろしのペンフレンド 眉村卓)
こんな事態になったからこそ、考えたい。ミルク色の世界へのカウントダウン。ミルク色の世界とは、SF小説家として知られる眉村卓氏の描く世界である。
しんとした静かな世界。自然とはかけ離れた、人工的な白いビルが並ぶ都市に降り注ぎつづける、ミルク色や真珠色の世界。度を過ぎた様々な文明による、人間の退化の果て。立ち並ぶ工場やビルの間を歩く人型のロボット。人間は働くことを忘れ、文化的な活動も忘れ、ただ遊びに耽る世界。かわいい言葉とは裏腹な意味を含むところが、流石。一生を共にしたい言葉の一つ。
私はSFだけの世界では無いと思っている。
今の社会にはある程度の文明の発達は必至であった。移動手段、お金というシステム、政治、その他諸々。(はしょる)時刻表通りに走る電車に揺られてはるか遠くからでも通勤出来るし、次から次へとアップデートされるAppleの新製品を待ちわびる。専門外すぎて私は書けないほど、あらゆるものやサービスが溢れている。大人になるにつれて選択肢の多さを感じる。
でも、なんでこんなに、ずっと遠いしずっと足りないしずっと忙しいの。便利になったはずなのに生きづらい。
うれしいことに(こわいことに)、今後も様々な距離は近く便利になる。スーパーシティ構想が国会でこちょこちょと進められているのが、確固たる確信。もはや、私たちのプライバシーまで国に管理される未来へのカウントダウン。こわい。コロナの影響で、より一層国が私たちの生活を簡単に管理できる道筋が立ち始めている。守っていたものがもっと剥がされてしまうのか、それとも放置されていたものが再び輝くのか。在宅勤務は最高。
良い写真ですね。私が撮りました。(取り壊し前のアパート)
カウントダウンを止めたい。
止まりたくない?もうこれ以上良くない?もっとさ、シンプルに、ゆっくり、安心して、日々を大切にしながら生きたくない?
私たちには今後のさらなる高度な文明開化に着いていけるほどの価値観を伴っている気がしない。物の本当の価値さえ分かっていない。本当の距離も分かっていない。使えるのに捨てられるものたち。街を歩くだけで殺されてしまう猫と犬。定時が過ぎても夕日を見ながら散歩も出来ない私たち。過ぎた文明開化の結果は既に分かっているはず。
ばかばかしくて、泣ける日もある。眉村卓さんに会って聞いてみたかった。「先生。私たちの未来はどうなるのでしょうか。」
ふと、地面の割れ目から咲いてくる名前も分からない花や、テレビ越しで見る野生のライオンの昼寝してる顔とか、一人でカヌーを漕いで見に行った夕焼けのオレンジに溶けた四国の海とかを思い出す。時計の秒針の音を聴いたり、月の明るさだけに照らされてみたり。
そういう日々が人生を作る。そういう日々を提供しあう方法を考えていきたい。
生きるってそういうことではありませんか、先生。
toi booksさんで購入した古本。前の持ち主がデコレーションしてくれたシールが可愛い。そういうこと。このシールを貼るという行動に至るまでの時間にまで戻りたい。読書感想文はコチラ。https://www.instagram.com/p/B-XA0yCFTs7/?igshid=r572fs4n6ept