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【美術展】花鳥風月 水の情景・月の風景/皇居三の丸尚蔵館(東京都千代田区)

美術展には開館と同時か、午後一とか、日が高いうちに訪れることが多い。この日は、東京駅で夜にある次の予定まで約2時間あった。スタバででも時間を潰そうかなとも思ったが、「皇居三の丸尚蔵館」の存在を思い出した!

16:00からの回を予約し、大手門へ向かったら、「(皇居東御苑への)入園は16:00で終了です」のアナウンス。えっ、と一瞬怯んだら、「三の丸尚蔵館へ行かれる方はこちらから~」の誘導あり、ε-(´∀`*)ホッ。

この日は、これ!というお目当てのものがあったわけではないが、行ってよかった。
花鳥風月―水の情景・月の風景(2024年9月10日(火)~10月20日(日))

入ってすぐの展示室2で、作品をいくつかピックアップしての紹介映像が流れていた。こういう紹介映像って本当に有難い。作品に対する見方や理解が深まる。


★「近江八景蒔絵棚」18世紀・江戸時代

「近江八景蒔絵棚」18世紀・江戸時代

今年の大河ドラマは紫式部だったので、やはり彼女関連の展示が例年より多いのではないだろうか。この棚の一番左上の引戸が「石山秋月」。紫式部は「石山寺」で琵琶湖に浮かぶ月を見て、源氏物語「須磨」の帖の着想を得たと伝わる。

引戸、左側に「石山寺」が、
引戸、右側に「満月」が蒔絵で表されている。

紫式部yearの展示と言えば、石山寺、石山寺と言えば月、な展示は次の作品でも、

★「石山寺蒔絵文台ぶんだい・硯箱」川之邊かわのべ一朝いっちょう 1899(明治32)年

パリ万国博覧会出品のため、明治天皇の下命を受けて作られた。

硯箱には紫式部
硯箱(部分)
文台ぶんだい、英文の説明では「Writing Table」。
書籍・硯箱 などをのせる台。
キャプションに「湖面に映る月を表わしている」とあり、よく見ると、中央に、丸い月がまるで透かしてあるように。なんと繊細なんだろう。


★「塩瀬友禅しおぜゆうぜんに刺繍嵐山渡月橋とげつきょう掛幅かけふく」1887(明治20)年頃

フライヤーに掲載されている作品。この写真でもフライヤーのそれでも分かりにくいが、結構大きな作品。豪華さに圧倒されるととに、
景色の中に描かれる、人の姿や鳥の姿が愛らしく美しい。

塩瀬:縦糸を密にし、太い横糸を用いて横筋を出した厚地の羽二重。


蘭陵王らんりょうおう置物だけじゃないのね「山水図花瓶」海野うんの勝珉しょうみん

あら、綺麗な花瓶、とサラッと通り過ぎようとしたら、ん、、「海野勝珉」じゃない!

「山水図花瓶」海野うんの勝珉しょうみん 20世紀・明治時代末期~大正時代初期
右の花瓶には、山中に構えたいおりで客人を待つ人物
左の花瓶には、舟の上で山から流れ落ちる滝を眺める人物

海野勝珉と言えば、前回訪れた時、陵王の置物が印象深かった。

「蘭陵王置物」海野勝珉 1890(明治23)年 皇居三の丸尚蔵館蔵

海野勝珉:明治維新の廃刀令で彫金の仕事は少なくなり、刀装具などを制作していた彫金職人たちは、その技術を巻きたばこの箱や銀製花瓶などの装飾にいかすなど、時代に即して表現する場を変えていった。海野(1844~1915年)もそんな一人である。水戸金工の流れをくむ明治期を代表する彫金家で、1896(明治29)年に帝室技芸員に任命された。皇居三の丸尚蔵館は「蘭陵王置物」の他に、「太平楽置物」という人物像も所蔵している。
展示される機会もあるのだろうな、楽しみにしたい。

★「日月じつげつ春秋山水蒔絵料紙箱りょうしばこ・硯箱」

日月じつげつ春秋山水蒔絵料紙箱りょうしばこ・硯箱」20世紀・明治時代後期
右側の硯箱には、春、ひのきと桜の山間やまあいから昇る太陽が、
左側の料紙箱には、秋、松と紅葉の山を上空から照らず満月


★可憐な佇まい「夕月ゆうづき」藤井浩祐こうゆう 1922(大正11)年

夕月ゆうづき」藤井浩祐こうゆう 1922(大正11)年
古代風の薄衣を身につけた女性が、長柄ながえ団扇うちわをもって静かにたたずむ姿の彫刻。視線の先に月があることが感じられる。


★20年以上かけた渾身の名作「雪月花」上村松園しょうえん 1937(昭和12)年

貞明ていめい皇后(大正天皇の后)の下命を受けて以降、完成までに20年以上を要した、松園畢生ひっせいの力作
清少納言の枕草子の一節、雪の朝、中宮貞子ていしから「香炉峰こうろほうの雪はいかに」と問いかけられて、簾を巻き上げて外の様子を御覧にかけるシーンをイメージ化したもの
紫式部が石山寺に山こもりして、月を見上げながら源氏物語の構想を練るところをイメージ化したもの
伊勢物語の中から、筒井筒つついづつの幼い恋人たちをイメージ化したもの。

筒井筒:幼馴染の男女が恋心を抱きあうようになった。
成長するにつれてお互い恥ずかしがっていたが、親の勧めの縁談も断り続け、2人は望み通りの結婚を遂げる。

工芸品と絵画の展示だったら、絵画の方に心惹かれることが多いのだが、今回の展覧会は工芸品が抜群によかった。

昼間に訪れる皇居内は外国人観光客のるつぼと化しているのだが、16:00からの回で見学した今回は、退館するころは、すっかり夜になっていて、人影といったら三の丸尚蔵館への来館・退館者くらい。
薄暗く、ひっそりと、遠くに大手町の喧騒が感じられる、これが本来の皇居の姿なんじゃない、の趣深さ。
次も、夕刻からの遅い時間帯に来ようかな。
2024年10月12日(土)

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